東方妖々続伝〜outside and inside. 作:みかんでない
天子は極度の緊張状態から解放され、安堵の笑みをもらす。
「ハハ…ハハハ!やったわ!奴を倒した!もう私を止める者はいない!どんな妖怪でも、私を止める事は出来ない!!」
「誰が倒された、だと?」
「え?そ、そんな!!」
葉一は、しっかり立っていた。右手を高く挙げ、「無き」スペルカードを掲げながら。いや、本当はあったのかもしれない。葉一自身には、思い出のスペルカードが、亡き祖父に教えてもらって『始めて』作ったスペルカードが、見えていたのかもしれない。葉一の頬には、涙の雫が一粒、零れていた。
「くそ、残機があったか!もう一度合同スペルを…」
「させねえよ。人符『現世斬』」
瞬間、葉一は音速で、天子の身体を斬る。
「なっ!速い!」
そのまま、二人は戦いを再開した。
「遅れました!」
妖怪の山から緋色の雲を抜け、途中でいつも通り衣玖を倒してきたブン屋の射命丸文は、いち早く今回の事件の犯人を新聞の記事のネタにしようと、写真を撮るために天界に駆け上がって来ていた。
ところが彼女がそこで見たものは、予想外な大スクープであった。
「あれは……はっ、葉一さん!?」
そこには天子と葉一がいて、戦いを続けていた。
本来なら人間と天人の戦いなど、ものの数秒で決着がつくはずだったが、二人は相当長い間戦っているように見えた。それもそのはずだ、天子は一度葉一をピチュらせたきり、一度もダメージを与えられていないのだから。
そして驚くべきは葉一が繰り出すスペルカード。
「断命剣『冥想斬』」
それは、文が過去何度も見たことのあるスペルカードで、
「剣伎『桜花閃々』」
その使い手が弾幕ごっこを引退してから、一度も使われなかったスペルカード。
「転生剣『円心流転斬』」
「そんな…。あのスペルカードは!!」
そう、それは今は亡き、白玉楼の庭師、魂魄妖夢のスペルカードだった。
「どっ、どういう事なんですか!?」
「空観剣『六根清浄斬』」
そして、ついに葉一の攻撃が天子を完璧に捉える。
真上からの追撃。
低級妖怪や人間であれば、両断されて絶命していたはずの一撃だったが、そこは腐っても天人、受け身をとって後ろに衝撃を受け流す。
「ほんとタフだなぁ…。俺もそのぐらいの硬さがあればなあ。」
天子は焦っていた。
(なんだこの男…!?私ですら攻撃が全然当てられないなんて!こんな化け物が乱入してくるなんて想定外よ!まずいわ…。このままではいずれ私の霊力が尽き、紫やアリスが解放されてしまうわ!!それだけは避けたい…。ならば…!霊力が残っている今!!!三人まとめてぶっ潰す!!!それに賭けるわッ!!!)
ゴゴゴゴゴ
「ん?」
「私の全てを賭けて勝負だ!!ラストスペル発動!!天地よ鳴り響け!!この男もろとも宇宙まで打ち上げてしまえ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ドキューン
地面がエレベーターのように押し上げられる。
「うわわわわわ!」
そのまま葉一は宇宙空間まで放り出される。
宇宙へ向かって飛ばされる葉一に、ある人物が追いついた。
「は、葉一さーん!」
「文!追って来たのか!」
それは文だった。彼女は天子のラストスペルに巻き込まれていた。
「ええ、そうですが……。先程使われたスペカは何処で入手されたのですか?」
「昔祖父と作った。」
「ええ!?冗談でしょっ!?」
葉一は急に真面目な顔をする。
「俺は、この戦いが終わったら西行寺さんの屋敷に行かねばならない。その時は案内を頼めるか?」
文はメモをする。
「西行寺!?。わかりましたよ、案内しましょう。全く、貴方には驚かされてばっかりですよ…。」
そして、二人は宇宙空間に到達する。
そこには全く力が衰えた様子のない雷龍と、逃げ続ける二人の姿があった。
「葉一!!」
「ああ、ついに来たぜ!奴と共になあ!!」
天子はラストスペル、をもう一度発動する。
「これで本当に最後よ!!!『全人類の緋想天』」
BGM:幼心地の有頂天
紫、アリスは倒れ込んだ。やはり、かなり疲労しているようだ。
「二人は休んでな。奴は俺と文で叩く。記憶を取り戻してくれた恩人さんに、これ以上何かさせる訳にはいかないからな。」
「え…?記憶…?」
そして葉一は一歩前に出て、振り向いてニッと笑う。
「行くぞ文」
ヒュオッ
そういうと葉一は高速で飛び出す。それは、なんとか文がついて行ける位のスピードだった。
「速…。天狗として、幻想郷最速として負ける訳にはいきませんねッ!」
ゴオッ
そして文も飛び立つ。二人で天子を止める為に。
紫は彼の姿を見て、ようやく気がついた。彼と共に過ごしていて、時々感じていた違和感の正体に。彼が誰に似ているのかを。
「そういうこと…。」
「紫、何がどうなっているの?」
「彼の周囲を纏っていた妖気は、彼自身のものだったのね…。」
「え?妖気ってことは…彼、妖怪だったの?でも何の…」
「昔、いたでしょう?日本刀を操り、ぱっと見普通の人間と変わらない種族の子が…。」
「それは妖夢のことね、そうか…!彼、半人半霊なのね?」
アリスは尋ねたが、その答は無かった。
紫は一筋の涙を流していた。紫は、昔から気にかけていた、今は亡き庭師のことを思い出していたのだ。
葉一は剣を抜く。
彼自身の霊力を、その剣に集中させると、刀身が白く、美しく光り輝く。
「スペルカード宣言!!聖光『ホーリー・ハーフゴースト』」
そして、雷龍の身体を高速で斬って回る。
「そんな馬鹿な!!雷龍は無敵だ!!人間如きにッ!倒せるものではないのに!!」
葉一はその剣で、負の感情の塊である雲を、斬ることで浄化して白い雲に変えていった。白くなった雷龍の肉体であった雲は、雷龍の動力である負の黒いエネルギーを無くし、段々雷龍から分離していく。
「私も忘れてもらっては困りますよ!!」
文は自身を竜巻と化して天子に突っ込んでいく。
天子はそれに気付き、新たな敵にいつのまに入ってきたのかとちょっと驚くが、防御のため雷龍に援護を命じる。
いくら天人といえども、彼女の肉体は葉一との戦いでずたずただった。最後の気力を振り絞って雷龍に霊力を注ぎ込んでいたため、文の猛攻を防ぎきる力は既に彼女には残っていなかった。
「天狗か!くそ、雷龍よ、援護しろ!!」
ゴアアアアアアア!!
雷龍は比那名居天子を見た。
その時ようやく、天子は違和感を感じた。
いつのまにか、自分が雷龍にエネルギーを与えるだけの存在、極端に言うと奴隷になっていたことに気付いた。
彼女と雷龍だけが、いつまでも時間が止まった世界にいるようだった。
そして、赤レーザーが雷龍から放たれる。
勿論天子に向かって。
空になったペットボトルをごみ箱に投げ捨てるかのように。
ドキューン!
「おい…!何故だ!何故私を撃つ!待て、待ってくれ!!うわああああ!!!」
天子は雷龍が放った、赤レーザーを回避する事ができず飲み込まれた。
雷龍は天子を飲み込み、更に彼女の負の力を得て強くなる。
雷龍は暴走を始めていた。動力源である負のエネルギーには、ごく一部であるが死者の怨念も含まれていて、それが自我を持ったのだ。
文は持ち前のスピードを活かして急旋回し、天子を飲み込んだ赤レーザーをかわす。
「この龍…!もはや飲み込まれた天子さんの手に終える代物ではないッ!奴と今、渡り合えるのは葉一さんしかいないッ!!」
葉一は少しづつ、コアの周りの雲をそぎ落としていく。
勿論、雷龍の攻撃は全て避けながら、だ。
「半人半霊はスピード特化の種族…。瞬間的な爆発力は天狗よりも高いと言われているわ。しかし、欠点もある。それは、ヒットポイント…つまり耐久値が人間並しかないこと。彼は上手く、その弱点を速さで補って戦っているわね。」
「ええ…。それにしても彼、人間じゃなかったとはねー。」
「彼はどうやら、記憶すらも無くしていたようね。先程までは本心から自分の事を人間だと思っていた…。故に悟り妖怪ですら彼の種族が人間では無いことにに気づくことが出来なかったのね…。」
「それはそうと紫、私彼を連れて行かなければいけない所があるんだけど、どう?」
「奇遇ね、私も今、同じ事を考えていたわ。」
そうして紫は、友人の事を思う。彼と同じ半人半霊の従者を亡くした彼女の事を。
そして、葉一は地面に立つ。そして、コアが半分見えた雷龍を見上げる。
グオオオオオオ
(もう、後一押しってとこか…。並ば〆はこれだ!)
「刹那『居合の型』」
そして、スペカを発動する。
いつのまにか鞘に収めた剣の柄に手を掛け、腰を落とす。
と同時に、葉一は雷龍の、反対側に飛んでいた。
「あの人の動き…。一瞬だが、私でも全く見えなかった…。」
そう、葉一は僅かな間で、雷龍のコアを一直線に貫いていた。正に居合い斬り、というわけだ。
そして、コアを失った雷龍の肉である黒雲はいっきに離散する。
ゴアアアアアアア!!
ここに、雷龍は討伐された。
そして、彼は地面に降り立った。大地が振動し、宇宙空間から少しづつ、自分達が地球に降りていくのを感じた。
「紫~!ありがとな、ここまで連れてきてくれて」
「はあ、貴方にはびっくりよ、色んな意味でね」
「さて、行くか!文!西行寺さんとこ連れてってくれ!」
雷龍が居た跡地から文が戻って来る。どうやら天子は、気絶しているだけのようだ。そのうちこちらの世界に戻って来るだろう。
「え、もう行くんですか?初の異変解決なんですから、少しは異変解決の余韻というのをですね…。」
紫は、それ以前に驚いた事があった。
「え??何故貴方、西行寺の事を知っているの?宴会でも会議でも、確か話には出てなかったはずだけど…。」
「以前、彼女の所に仕えてた魂魄妖忌っていう爺さんがいたの知ってるか?あれ僕の祖父なんだよ」
「ああ、あの妖夢を置いて失踪したっていう……って!?祖父ゥ!?」
「そうだ。まあ、あの人と西行寺さんは僕の存在そのものを秘密にしていたのかもしれないけどね。」
「うん、私、全く知らなかったわ。」
「そういや姉さんはどうしてるんだ?」
文は手帳を出す。
「姉さん?私の記録では、該当する人物が多過ぎますね…。」
「妖夢姉さんだよ。まだこの名前を使っているか知らないが」
瞬間、空気が凍りつく。
「「「え?」」」
静寂を破ったのは文だった。
「マジっすか?大スクープです!!これで一月はご飯にありつけるかもってレベルのスクープですぅ!」
文は狂喜乱舞する。そして手帳を取り出した。
紫とアリスはそんな文に憐れみの目を向ける。
「でも…あの子、弟がいるなんて一言もいってなかったわよ」
「多分、存在自体を知らなかったんだと思うよ。西行寺さんも俺の存在を教えてなかったんじゃないか?」
「あいつめ…なんでそんな大事なことを大親友である私に教えてくれなかったのよ…。」
「つまり紫は僕の祖父と姉の主人の友達になる訳か。なるほど複雑だ。」
紫は頷く。
文はメモを取り終え、話に加わる。
「確かに、家系図的には問題ないですね。ですが…。あの人は、妖夢さんは今から50年ほど前に既にお亡くなりになりました…。」
「寿命か?」
「はい…。」
「そうか…。まあ、予想はしていた。取り敢えず、僕は約束の場所へ向かわせて貰うが、誰か一緒に行くか?」
葉一はそこまで悲しんではいない様だった。それもそのはずだ、彼は一度も、姉に会ったことが無かったのだから。死の実感はほとんど湧いて来なかった。
「私は遠慮するわ。私が出る幕ではありませんから。貴方達の時間を邪魔する訳にはいかないわよね。」
アリスも紫と同じ理由で断った。
「文は?」
「私は案内だけにさせて頂きます。やらなくてはいけないことが出来ましたので。」
「わかった!じゃ、行こう。」
二人は文の表情を見て確信していた。
((ああ、早速号外を書くつもりなのね…))
決闘評価
STAGE5・6
損害評価 神
時間評価 神
取得評価 神
記憶編、そろそろ完結!!