東方妖々続伝〜outside and inside. 作:みかんでない
ここは、白玉楼。
冥界の管理者の屋敷である。
勿論、普段からこちらの世界は死の匂いがそこらじゅうに漂っていたが、ここ数十年はいつもに増して暗い、とびきりの死の気配がしていた。
ところで、冥界の管理者は不死身である。いや、不死身というのは少し語弊があるかもしれない。既に彼女は死んでいた。生前、彼女は人の生死を操る能力を持っていて、死後地獄の閻魔に冥界を管理するという仕事を、その能力故に任されたのだ。
冥界の管理者一人だけでは、冥界を管理、運営することや屋敷の手入れ、掃除等の家事はこなしきれないため、彼女はこれまで、半人半霊という種族の庭師を雇っていた。
その長年仕えてきた、一人の庭師が死んだのだった。
いくら寿命の長い種族だったといえども、永遠に生きる管理者との別れはいずれ、やって来る。そして、半分人間である以上、1500年という年月には逆らうことが出来なかった。
冥界の管理者は大変悲しんだ。
そして、その庭師の為に100年の時を、彼女を弔って孤独に生きると決めたのだった。
幻想郷にいる彼女の友達も、そのことを知ってから冥界には全く顔を出さなかった。
しかし、その静けさは今日、ある男によって破られる事になる。
ギィィィィ~ッ
「失礼。」
白玉楼の門前。
今、50年以上開かなかった正面口の扉が、軋んだ音を立てて開いた。
ズウウウン!
「ム…!この重い気配ッ…。」
途端に負の感情の重圧が、その男にのしかかる。
「文を途中で帰してよかったな…。これは、人の死の匂い…。人を殺した事のある奴にしか耐えられない程、暗いからな……。」
ゆっくり、懐かしい日本庭園を進んでいく。
「こりゃ酷いな…。」
しかし、葉一がいた当時の面影は何処にもなく、庭は荒れ果てていた。雑草は伸び放題になっていて、どうしようもないので剣を抜き、刈り取りながら前に進んでいく。
立ち止まって枯れてしまった桜を見ていると、周りにふわふわ飛んでいた霊が、スゥッと集まってきた。やはり彼自身が半分幽霊なので、彼等(彼女等?)も彼の周りは居心地がいいのだろう。
その中でも、魂魄妖夢の半霊の様に、彼の近くを回っている霊が一人いた。
「!!」
その時、彼に電流が走った。
「間違いない…!こいつは…!」
と、その時である。
縁側から、一人の亡霊が姿を現す。
冥界の管理者、西行寺幽々子である。
男はそれを見つけ、近づいて行く。
彼女の方も、彼に気づく。
「誰?」
「姉の死を弔いに来た。」
その一言で、幽々子は気づく。彼の周りに、霊がふわふわ浮遊していること。則ち、冥界の幽霊が、彼を認めたこと。彼が、腰に刀を差していること。そして何より、彼の顔立ちが、妖忌にそっくりであること。
「貴方は…!」
男は微笑む。
「約束を果たしに来た。」
彼が何百年も前に、ここで幽々子と交わした約束。
記憶が失われようとも、必ず、この場所に戻って来るという約束。
幽々子の閉ざされていた心に、一筋の光が差した。たった一筋だったが、その光はとても、とても強く輝いていた。
そして、その時。
葉一の横を、一枚の花びらが通り抜けていった。
いや、何枚もの花びらが、ひらひらと舞い落ちていく。
庭の桜は、妖夢を失ってから一度も咲かなかった桜は、満開に咲き誇っていた。
そしてゆっくり散っていく。
それはまるで、桜が涙を流している様だった。
「約束…。思い出してくれたのね、妖一。」
「妖一じゃない、葉一だ。今までは。」
そして、彼は主の前に立て膝をつき、臣下の礼をする。
「我が祖父、魂魄妖忌の孫にして、半人半霊の血筋を受け継ぐ者、魂魄妖一。ここに参りました。」
幽々子は声を立てずに泣いていた。久しぶりの嬉し泣きだった。
こうして、ここに葉一の記憶を取り戻す旅は終わる。
だが、葉一の旅はまだまだ続く。
幽々子の為、幻想郷を護るために、戦争を終結させるまでは。
[命蓮寺、とある一室にて…。]
博麗神社から戻って来た聖と、天海から帰ってきた紫は命蓮寺で合流していた。
「天気が戻った、ということは、異変が解決したのですね。」
「そうね……。」
「あっ、解析終わりました。第三結界、解除します。」
「お疲れ様。では、中を見ましょう。」
三人はその本を覗き込む。
「タイトル、幻想記録伝。著者、魂魄妖忌。やっぱりね。」
「妖忌…というと、あのちょっと前に亡くなった半人の祖父、でしたっけ?そんな人が何故こんな本を書いたのでしょう?」
「『私は、幻想郷、いわゆる日本にとっての異世界の存在をこの本によって我が子孫に伝える。この本を見ることで、我らの誇りを思い出してほしい。そして、目指すべき楽園があるのだ、ということを。』」
「子孫…ということは、葉一さんは半人半霊だったということですか?」
「ええ、そうね。どうやら妖忌に記憶を消されていたみたいよ。私も全く知らなかったわ。」
「どれどれ……。凄い、私が来る前の話なんかも載ってますね!紫さんの項目もありますよ!『スキマ妖怪:よくわからないところに住んでいる。非常に胡散臭い。』だそうです。」
「私の悪口じゃない……。」
「葉一さんは既に目を通したようですし、許可さえ貰えれば稗田家に持って行くべきではないかと思います。」
紫は頷く。
「そうねぇ…。まあ、そんな事よりもっと優先的にやることができたの、忘れてないかしら?」
「え?何かまた問題でも起きたのですか?」
紫はわかってないなあという顔でちっちっと指を振った。
「違うわよ!え、ん、か、い!宴会よ!!!」
[とある部屋の一室、???]
自分の椅子の周りに集まってきた仲間の気配を感じ、彼女は安心する。
そして、ゆっくりと口を開く。
「我が予見では、近々この空間に侵入者が来る。」
影達がざわざわと揺れた。
「ここに、侵入者?冗談おっしゃい。こんな所に入ってこられるのは、それこそあのスキマ妖怪位しかいないわ。」
「我が予見は絶対。更に、この話には続きがある。」
『未来を観た』者はキュッと口元を持ち上げる。
「やってくるのは我々の運命の『分岐点』となる二人組。」
「分岐点ですって!?何年ぶりなのかしらね…。」
「正確に記憶している。『英霊』が英霊と化した瞬間が、最後の分岐点だ。」
「となると…。裕に1000年は超えているわね。」
「そう。館の警戒を怠るな。なんとしてでも、我が前に連れて来るのだ。」
また、影達がざわついた。
「いつになく乗り気ね、ねーさん」
「ククク…。懐かしい感情が沸き起こってくるぞ…。私はそいつに『期待』、している。」
彼女は仲間達を見つめる。
「門の強化を特に重点的にやれ。門番、お前は第一に接触する可能性が一番高い。寝るなよ。」
「寝ませんってば。ご主人様の命令、しかと承りました。」
「死ぬなよ。もう私の前から、誰も逝かせたくないんだ。ああ、それと」
「なんですか?」
「幻想郷の奴であれば、丁重に追い返せ。あそこに戻る気は無いが、敵対する意味もない。」
「承知致しました。」
紅の影は門へと去った。
「私は防御結界の調整をしてくるわ。」
紫の影も図書室へと帰っていった。
残って居るのは、緋の影と、血の影。
姉は溜息をついた。
「妹よ。運命という物は、収束する。我等がいかに奇抜な手段を講じても、最終的な結果は変わらないのだ。それが例えどんなに大きくて、残酷な出来事でも、だ。あの英霊の時に、我ははっきり理解した。それなのに…。」
「それなのに、何故姉さんは運命に抗うの?」
「…………。」
「私は知っているわ。姉さんが、その不幸な能力のせいでどんなに苦しんできたか。未来を予測する度に、また誰かを見殺しにするのではと、恐れている貴方のことを。」
「そうだ…。我は我が能力を忌み嫌っている。」
「それでは何故?今回運命を観たの?」
「……勘だよ。」
「勘?」
「言っておくが、我はまだ、望みを捨ててはいない。いつか、もう一度会えるはずだ。今回の分岐点は、必ず我々の向きを変えてくれる、そんな気がするんだ。私はどんなに望みが薄くても、それに賭け続けるわ…。」
「…。」
少女は無言で、部屋の外に出て行った。
第一章は、これにて終了となります!パチパチ
次は、第二章の異変に入っていく前に、日常編みたいなのをやろうと思ってます!
それでは次回更新まで、さらだばー!