東方妖々続伝〜outside and inside. 作:みかんでない
スキマを出てナガサキ支部に辿り着くと、先に到着していた部隊員は無機質な門前に整列していた。ぼろぼろになった俺を見つけ、駆け寄ってくるが、それは数える程の人数しか居ない。この戦争で、こんな大敗北を喫したのは恐らく初めてであった。俺はやりきれない思いになる。
「残ったのはこれだけか?」
「ええ……隊長こそよくご無事で……」
誰も何も言葉を発さない。重苦しい沈黙が、俺たちにのしかかった。
「すまない………俺が不甲斐ないせいで、こんな事に……」
「そんな、隊長の責任ではないですよ!ただ、貴方が戻ってきてくれた……。それだけで十分です。だから、俺たちをこれからも導いて下さい……」
そう言って、笑おうとする奴の眼は、今にも泣きそうだった。唇を強く噛み締めてじっと立っている者や、武器を磨いて悲しみを紛らわそうとしている者。仲間を失ったという実感が、その場に重く広がっていた。
「乗り越えよう、俺たち皆で。そして、あいつらの分も生きよう。俺たちに出来るのはそれしかない……」
誰も泣かなかった。こんなところで、泣いている訳にはいかないと誰もがわかっていたからだ。
「やらなければ……」
部下の一人がぽつんと呟いた。
その後、上官からヒロシマ支部まで撤退するという通達があったことを聞かされた。
更に、俺はツシマ支部で別れた戦友とも再開した。奴もどうやら、例の戦いからぎりぎり生き残ってきたらしい。
「遂に本土決戦の幕開けって感じだねぇ。全くあのロボットには驚いたよ」
「ああ……このままじゃ俺たちに勝機はねえだろうな……」
「…………」
奴は軍帽を深く被り直した。言葉無くとも、奴もきっと、同じ事を経験し、俺と同じような感情を抱いているのだろう。
「奴らは情報を厳重に管理してるし、焼け焦げたロボット兵の残骸からは技術の手掛かりとなるようなものは無い。しかも状況判断による自爆機能もついているときてる……。このままなら日本側がロボット兵を量産することもできず、いずれ日本の兵力は尽きてしまうだろうな…………」
「……君みたいな武者が量産出来ればいいんだけどね」
「おいおい、怖いことを言うなよ」
「戦争さえ終われば、自分は勝っても負けても構わないけどね」
と、奴は投げやりな事を言う。でも、俺ももう、この戦争を何の為にしているのかわからなくなっていた。人の命より重要な事なんてあるのか?その疑念で俺はいっぱいだった。
(なんとかして、より一人でも多く、仲間を救う。俺はこれから、その為だけに戦わなくてはいけないんだ……)
そうして、明日の出発に向けた準備を終え、僕は寮の自分の場所で眠りについた。
「来たわね。上手くいってよかった。」
気がつくとそこは、昼頃いた目が沢山ある空間で、自分の前には紫がいた。見れば見るほど悪趣味な空間に見えてきたが、命の恩人にそんな事を言うのは失礼だろうと思い、口には出さなかった。
「そういやこの中って時間とかどうなっているんだ?夜眠っている間しか居れないとなるとぶっちゃけ大した時間過ごせないと思うんだけど。」
「私が貴方の夢の中の時間の境界を弄っておいたから大丈夫よ。ここであなたが何時間、いや何日過ごそうと、貴方は翌日の朝に帰ってこれるわ。ドラ◯もんで例えるとタイムマシンみたいな感じよ。ただこの力は制御が上手くいかなくてね……。どのタイミングで幻想郷から離れるのかはわからないんだけど。」
紫は俺を光の方に案内しながら言った。彼女は異界の人間のはずなのに、何故こちらの漫画を知っているのかという疑問はあったが、それ以上に気になることがあった。
「境界を弄るってなんだ?特殊能力か?」
「あら、ごめんなさい。説明不足だったわね。私の能力は『境界を操る程度の能力』よ。幻想郷の多くの人々はそれぞれ固有の能力を持っているわ。私はそうね、例えば場所の境界を弄って実質ワープを行うことが出来るわ。例えるならどこでもドアのようにね。他にも魔法を使ったり、昔は時を止めたりするやつもいたわね。」
どこぞの世界を支配する吸血鬼のようだな。
「そいつは凄いな。てか魔法とか正に『異世界』って感じだな。」
「この世から忘れ去られた者たちが集う楽園ですもの、そんなことで一々驚いてたらキリがないわよ。そうそう、幻想郷についてはある有名な元人間が名言を残しているわ。」
「どんな名言だ?」
「『幻想郷では常識に囚われてはいけない』よ。」
紫の通路から光の中に出ると、そこは脇に木が二,三本生え,草が丁寧に刈り取られた小道だった。紫は小さな岡の方に俺を案内した。歩いていくと、段々と石造りの階段が見えてきて、その頂上部には真っ赤な鳥居が見えた。
その時、俺は今まで感じた事のなかった感覚をおぼえる。
(何だ…?何か、懐かしい匂いがする…。俺の記憶と、何か関係があるのか……?)
「神社か?」俺は尋ねた。異界に神社があるというのが少しイメージと違っていたからだ。
「そうよ。幻想郷は古代日本をモチーフにして造ったの。」
造った!?と俺は驚く。
「幻想郷って紫が造ったもんだったのか!?意外だな。結構若そうに見えるのに。」
「何歳だと思う?」
「見た目は俺より少し年上くらいかな。」
「うふふ、ありがとう。正解は秘密だけど,恐らく貴方の50倍以上生きてると思うわ。」
「50倍!?紫、あんた人間じゃなかったのか…」
「私は俗にいう妖怪よ。」紫は俺の反応を見ながらニヤニヤしている。俺はあらためて、彼女の年齢からはかけ離れた美しさに驚いた。
「妖怪って、もっとこう…なんか禍々しくて、異形のものって感じを想像してたのに,こんなに美しいものだったとは……」
紫はクスクス笑う。
「褒めても何もでないわよ。ちなみに貴方はこれから、幻想郷の有力者たちと会うことになると思うけど、多分全員人外だから宜しく。」
「今更だが不安になってきた……。」
階段を登っていくにつれ,人々(妖怪たちか)が騒いだり、飲み食いしているような音が聞こえてきた。紫の方を見ると、何故か彼女は言うことを聞かない子供に疲れ果てた教師のような顔をしている。
「幻想郷の連中は何故か宴会好きが多くて、何かあるたびに決まって宴会をするのよ……。会議するから飲むなって言っておいたのに……。」
鳥居をくぐって境内を登ると、そこには小さな神社があり,奥の方の広間のようなスペースから喧騒が聞こえてくる。僕は一応、賽銭箱に小銭を投げて参拝をした。紫の方を見ると何やら複雑な顔をしていた。
「何か参拝の手順でも間違えたか,俺。」
と聞くと,紫は別に何でもないわと言ったので安心した。
その時、奥の広間から紫と同じくナイトキャップのようなものをかぶり,妙に目つきが鋭い女性が駆けてきた。
「申し訳御座いません!紫様。萃香殿に彼女らを集めるのをお願いして、ちゃんと集まったのは良いのですが、何故か宴会になってしまって…。私もあまり飲むなと止めたのですが…」
紫はやれやれだわという顔をする。
「いいのよ藍。貴方は何も悪くないわ。萃香にはいつでもどこでも酒を飲ませるなって言っておくから。それより藍、彼がこの幻想郷の里長になる予定の柏根葉一よ。」
「紹介にあずかった柏根葉一だ。俺のことは葉一と呼んでくれ。ってか紫まだ僕は里長になりますなんて一言も言ってないぞ」
紫は明後日の方向を向き、それを無視した。
その妖怪は、はははと苦笑いをしながら自己紹介をする。
「私は八雲藍、紫様の式神をしている者だ。藍と呼んでくれ。今後宜しく頼む。」
「ああ宜しく。それと失礼になるかもしれないが、君は何の妖怪なんだ?」
「全然聞いてくれて構わないよ。私は九尾の狐の妖怪さ。中々珍しいだろう?」
それを聞いて俺はなるほど、と思った。彼女の後ろからは、黄色くて大きな沢山の尻尾が生えていたからだ。
「教えてくれてありがとう。そうだな、初めて見たよ。」
藍と自己紹介をしている間に、紫は広間の中央に入って行ってしまった。紫に先ほどの言葉の訂正をしてもらおうとしていた僕はやることがなくなってあたりを見ながら立ち尽くしていると、一人の妖怪が話しかけてきた。
「貴方が外来人の方ですよね?」
そうだ、と俺が答えると彼女は安心したように話し始めた。
「良かったです。私は文々丸新聞記者兼編集者の射命丸文です、(これ名刺です、)以後お見知りおきを。突然ですが会議後に貴方に取材をしたいのですが、協力してもらえませんか?」
「新聞記者か。取材ってどんなことを聞くんだ?」
「あなた自身のこととか、外の世界の事とかです。」
早速これか。まあ、ここでの印象と認知度アップのためなら、むしろ受けておいたほうが良いだろう。
「まあプライバシーもあるしな。話せる範囲なら取材を受けよう。」
「有難うございます!」
そういうと彼女も広間の中心部に向かっていった。しかし驚いた。ここは魔法などの失われた力が存在する古代日本の世界なのに、新聞という妙に近代的な文化が存在しているとは。こういうことも含めて、常識に囚われてはいけないということなのだろうか。それにしても、何か、ここに来てから懐かしさを感じることが増えた。俺の記憶も、いつかは戻ってくるかもしれない。