東方妖々続伝〜outside and inside. 作:みかんでない
(『よし、今日からお前は葉一だ。柏根 葉一。昔の名前の名残位は、あってもいいんじゃないか?』
その人は、僕に名前をつけてくれた。
『私達三人は、お前が来るのを待っているからな。』
そして、謎のヴィジョンは段々ぼんやりして消えていく。
待ってくれ!何故僕を待つ!その場所は!!)
気がついたら宿舎の天井が見えた。
「あれ…、起きたのか。不思議な夢だったな…。」
彼は戦争状態にあるこの国と、平和な幻想郷の事を思い夢から覚めてしまった事にため息をつく。
「あっちとこっちで凄いギャップだな…鬱になりそうだ。まあでも気分スッキリで快眠できたみたいだし良しとするか」
意識を取り戻した先程から妙なアラームが鳴り響いている。ビーッ…ビーッ…
「…………うわぁ!!集合のアラームじゃんこれ!やべえよやべえよ…。」
命令がかかった時刻を備え付けのパネルで調べると、2分ほど前であった。よかった…。なんとか間に合いそうだ。
僕は光の速さで服を着て、身分証明バッヂを引っ掴むと急いでドアを開け、外に出た。すると廊下に、どうやら僕が出てくるのを待っていた、戦友であり、同じ少尉という立場でもある谷元がつっ立っていた。おっと…。待たせてしまったようだ。
「すまん!待ったか?」
「2分ほどねぇ。さあ行こう、召集に遅れないようにね」
基地の全員が揃うと、ここ長崎支部の最高権力者である支部長が話を始めた。
「知っての通り、本部から撤退命令が出された。今日中に海を越えて広島支部までヘリで飛びたいから、各自覚悟を固め荷物をまとめて撤退の準備をしろ。敵軍は進軍スピードが速い。急がないと、ヘリが敵の砲撃でお釈迦になってしまう。
荷物をまとめおわったものは、基地にあるコンピュータのデータ消去と敵軍の偵察、報告をしてくれ。質問!」
「…」
「よし。それでは解散!」
まあ撤退命令が近日中に出るらしい事は噂で聞いていたので、覚悟はできている。実をいうと、もう荷物もまとめてあるのだ。
俺は幻想郷の事を頭から追い出し、データ消去の手伝いに向かった。
[葉一の部屋、彼が出て行った後すぐ…]
「行ったみたいね。」
葉一の部屋にスキマが開き、中から紫が現れた。何故彼女が葉一の部屋に来たかというと、そこで回収しておきたい物を見つけたからだった。
「窃盗をなさるおつもりですか?紫様」
「ちょっと藍~人聞きが悪いじゃない。窃盗じゃなくて回収よ。異様に妖力の高い物を探知したから、人間であるあの子の身体に悪いと思って回収するだけよ~。」
「もうあの子呼びですか…孫を可愛がるお姉さんの様ですね。」
藍は地味に紫をディスった。
「複雑な気分になるからやめなさい。冗談言ってないで、早くしないとあの子が帰ってきちゃうわよ。」
そのコンマ一秒後、ウィーンと音を立てドアが開いた。
「あれ?紫?何やってんの?」
「…………」
「遂に一級フラグ建築士ですね、紫様」
「嬉しくないわ~、その称号」
「え~っと、だから、何を僕の部屋でしているんですか?紫さん」
葉一は状況が読めず何故か敬語を使ってしまった。
「貴方の部屋から妖力が強すぎる物を発見したから、人間の貴方に害があると思ってこちらで保管しておこうかな~と思って回収しに来たのよ。あっ、これこれ!」
そういって紫が見せてきたのは、一振の日本刀と、一冊のノートだった。
「異界について記録がついてたノートはともかく、剣は渡せないぞ。今は俺のだからな。護身用にも現役で使ってるし。」
葉一は剣を抜いて刀身を見せた。刃には錆び付いたところが無く、怪しげな美しさを放っている。
「この刀の名は霊刀『夢現』。僕の遠い先祖が、友人であった職人と共に作り上げたらしい。」
「そういう事なら仕方ないわねぇ…。」
紫は頷いた。
「このノート…今少し見せてもらって良いかしら。」
「良いよ。てかそもそもなんで、あの初めて会った場所……マヨヒガだっけ?じゃなくても出てこれるの?能力の弱体化は影響しなかったの?」
「ここはおそらく貴方の持ち物のせいだと思うけど妖気が凄く強いの。そう、まるでマヨヒガのようにね。だから私も、姿を現すことができるのよ。…………!?」
「どうした?」
「これは……ノートを保護している、結界!二重…いや三重にかかっている!ページが開けないわ!」
「俺は普通にめくれるぞ?ほら」
「私には日記に書いてある事が見えない…どうやら、貴方だけが読むことができる結界がかかっているらしいわね……。」
「マジか…よっぽど厳重に他人に見られないように管理されてたんだな、これ。てか何で俺は見ることを許可されてるんだ?」
「少し預かっても良い?このノート。私と聖で解析を試みるわ。」
聖っていうと…あのグラデーションな尼さんか。
「別に良いよ。内容も例えば書いた人の黒歴史が書いてあるだとかそんな他人が見るとマズイことはなかった気がするから。もしかするといずれ紫とか幻想郷の住民に渡ることを予測していたのかも知れないし。じゃあ、俺もうそろそろ離陸の時間だから。そうそう、今度は広島基地に居るから。」
「ええ…。わかったわ。」
そういうと葉一は、刀を掴んで出て行った。
紫はスキマを閉じるとノートを持って、藍と共に主賓と幹事がいなくなっても宴会が続いているであろう神社に戻るのであった。
「紫様…このノートは一体…書いた奴は何者なのでしょう…。」
「そうね…そして私はあの剣を見せられたときに懐かしさを憶えたのよ…。」
「懐かしさ…?つまり…それって…」
「ええ、その剣を持っていた人物は幻想入りした可能性があって、私がその人の持ち物だったであろうあの剣を見たことがあるかもしれない、ということよ。そのためにもこのノートの封印を解いて、じっくりと推理しなければならないわ。」
「紫様……もう一つ面白いことを見つけたので良いですか?」
「何?」
「彼の部屋ですが、我々がノートを、彼が刀を持ち去った今でも、スキマを開くことができます…。」
「え?」
「つまり、あの部屋には今の二点の品物以外の由来の妖気がある、ということです。」
長年生きてきた紫ですら見つけられなかった事に、藍は少し怖くなる。
「本当に何者なのかしらね…あの子」
ここは、長崎支部飛行場。何体ものヘリが、今まさに飛び立とうとしている。
「離陸準備!離陸準備!」
「総員!分隊に別れてヘリに乗り込め!」
「荷物はコンテナに入れろ!ヘリが電磁ロックする!」
ババババババババ
「第一分隊、離陸する!」
「了解第一分隊!離陸を許可する!」
「第二、三分隊離陸!」
「了解第二、三分隊!フォーム4を形成して、コンテナ機を中に入れろ!」
「第四分隊、最終分隊共に離陸する!総員搭乗確認中だ!」
「確認完了!この基地を遺棄する!」
ババババババババ
ババババババババ
「フォーム4を崩すな!今から海を抜ける!風が強いぞ!しっかり掴まれ!」
ヒュオオオ…ビュゥゥ…
「緊急!こちら第一分隊!敵軍の駆逐艦を数隻確認!後続は急いで避難経路をとれ!」
「レーダーに映らなかったのか!?マズイ、既に射程内に入られているぞ!」
「撃て!回避しろ!」
「こちら第一分隊、砲撃を受けている!持ちそうにない!」
「逃げきるんだ!」
[葉一のヘリ、同時刻にて…]
それは突然やって来た。まるで獲物に這い寄る蛇のようだった。
敵軍が開発したその新兵器は、従来のレーダーには映らなかった。故に、確実に移動中の味方の不意を突くことができた。
それは駆逐艦でありながら、海中を潜航することが出来て、主力兵装として、背中に機関銃を二門積んでいた。そしてその武装は小型のヘリや輸送船には十分過ぎるほど通用するものだった。
「第二分隊で被害拡大!至急増援を要請する!」
第一分隊から連絡が途絶えたところを見ると、第一分隊は奇襲を喰らって壊滅したようだ。
直に我々の第四分隊も攻撃を受けるだろう。
外を見ると、味方のヘリがどんどん墜ちていて、さしずめ蛇に飲まれる小鳥といったところか。
ドカン!!
足元に衝撃が走り、大きく揺れる。
「撃たれた!墜落します!分隊長!」
「良し、海に降りる!例の降下作戦は憶えているな!」
「サー!」
「もう少し待て…まだだ………今だ!!」
空中にバッと円が広がり、20人、搭乗員全員で作った円い輪が降下していく。不思議と先程まで吹き荒れていた風は止んでいて、輪が崩れることはなかった。
「衝撃に備えろ!撃たれても決して手を離すな!」
ダダダダダと敵の機銃音がし、何人かが弾丸を受ける。
「撃たれたっ!…………あれ?なんともない…。」
「大丈夫か!」
「ああ、無事だ。撃たれたという衝撃だけが残っている…。」
上手くいったようだ。俺の能力、癒す程度の能力を使えば、機関銃で狙われた程度の傷は、すぐに直してしまえる。ただし、発動条件として俺が人に直接か人を通して触れている必要があるらしい。そのためにも円を作る必要があった。落下の途中で風に煽られなかったことは幸運だった。
「パラシュートを出せ!速度を落とすんだ!」
バッ!バッ!ドーン!ドドーン!
どうやら全員無事に海面に着水することができたらしい。
俺自身も二発ほど弾丸を喰らってしまったが、後で取り除いておけば大丈夫だろう。自分を癒せないというのは、なんとも不便なものである。
続く!
※フォーム4とは、全てのヘリで大きな菱形を作り、その中心にコンテナを運んでいるヘリを配置する編隊である。単純に重要な物資が堕とされ難い守りの陣形だ。