変の軌跡〜帝国の闇を一閃する獅子達〜(現在、戦姫絶唱シンフォギアの世界) 作:光三
土砂降りの雨の中、1人の少女が花束を持って、バス停でバスを待っていた。バスが到着すると少女は、バスに乗りとある場所を目指す。
——八千八声 啼いて血を吐く ホトトギス——
雨に打たれた服は、びしょ濡れであり彼女はそれを拭こうともしなかった。バスに乗り込むと、そこには骨折しているのだろうかギプスをはめている乗客が殆どだった。外の景色も瓦礫などが散乱し、まるで災害でも起こったかのような有様だった。やがて、バスが目的地に着くと、少女は下車した。雨は、止んでいるようだ。しかし、空模様は生憎の曇天だった。少女の今の心境そのものだ。その時、声が聞こえて来た。
「待ってたぜ、未来」
「待っていましたよ、未来さん」
「お待たせしました。じゃあ、行きましょう」
少女たちの目的地は墓場だった。数多の人たちの墓があるところを少女たちは歩いていく。しかし、その殆どの墓石に名前は刻み込まれていない。数多の人たちが死んだのに、名前すら刻まれていないのだ。そんな中、少女たちは立ち止まった。そこには、1人の女の顔が載った写真と墓石があった。その墓石にも当然のように名前は刻み込まれていなかった。少女たちの瞳は、写真の方に向けられていた。そこに写っていたのは、茶色のショートヘアをした少女だ。顔に泥が付いている。すると、少女は膝をつき花束を持っていた手を滑らせた。
「会いたいよ……もう会えないなんて……嫌だよ」
「「………」」
少女は、涙を流した。それを見ていた2人の男女もどこか心苦しそうな表情をしていた。
「ひぐっ、私は嫌だよ……響……」
「未来………(恨むぜ、響)」
「未来さん………(私は、無力ですね……)」
そう、この写真の中の少女は『戦場で歌を歌っていた』
『少女の歌には血が流れている』
今から遡ること2年前、写真の少女の運命は動き出す。異世界からやってきた『神童』とその『フィアンセ』と共に……
——2年前——
この世界の主人公
〈もしもし、未来?今どこにいるの?〉
〈ごめん、盛岡のおばあちゃんが体調崩して、これから家族総出で出て行かなきゃいけなくなったの……本当にごめん〉
〈そっか、それじゃあしょうがないね〉
そう言って、響は電話を切った。その後、相当ショックだったようで
「私……呪われてるかも」
とぼっそりした声で言った。
一方ここは、ライブ会場の裏側である。ここでは、
「この時間、なんか緊張するなぁ」
奏は、そう言うとコンテナに座った。
「ったく、こちとら早く大暴れしたいってのに……」
「うん、そうだね……」
奏が翼の様子に気づき、顔を近づけた。
「もしかして、緊張してるの(ニヤニヤ)」
「あ、当たり前よ!だって、櫻井女史が言ってたでしょ?今日は、大切な日だって……」
そんな元気の無い翼に奏は強烈なデコピンをお見舞いした。
「っ!(痛ったぁ〜)」
翼は、奏に抗議の視線を浴びせた。
「真面目だねえ〜。そんなに真面目だと、そのうちポッキリ折れちゃいそうだ」
「ここにいたのか2人とも」
第三者の声が聞こえたので振り向くと、そこには
「おお!旦那か」
「お、おじさま!どうしてここに?」
「出番を控えて緊張している翼を応援しに来た!」
「〜〜っ!」
「翼ったら照れちゃって」
「奏は、意地悪だ!」
「さて、場が和んだところで行ってこい。わかっていると思うが、今日の結果が世界の運命を左右する」
その時、弦十郎の携帯が鳴った。
「了子くんからか」
〈どうも〜
〈わかった、すぐにそちらに向かう〉
弦十郎は、去って行った。
「はぁ……ったく、なんて顔してんのさ。私は、翼の相棒だよ。そんなんじゃ、私が楽しめないよ」
「楽しむ……?」
「ああ、そうだ。ステージに立てば、翼は『防人』ではなく、『ツヴァイウィング』が片翼『アイドル』風鳴 翼だ。楽しもうぜ!」
「ああ、ありがとう。奏」
「私たち、両翼揃った『ツヴァイウィング』はどこまでも遠くに行ける」
「そして、どんなものも超えてみせる」
こうして、両翼は運命のステージに立った。
両翼が、運命のステージに立つその1時間前、アクロスとアリスは会場の前で並んでいた。その時、アクロスの端末が鳴った。
〈こちら、サンジェルマン。立花 響は見つけたか?〉
〈こちら、アクロス。まだだ、まだ見つかんねぇ〉
〈わかった。見つけ次第、連絡してくれ〉
〈了解〉
アクロスとアリスは、正式に新生パヴァリア光明結社の一員になった。一応、今は休暇という形で『ツヴァイウィング』のライブ会場にやってきているのだ。
「しかし、本当にいねぇな……どうするよ?」
「1つ気になったことがあるのですが……どうして、〔神眼〕を使わないのですか?」
「俺さ、『神』としてではなく、『人間』として生きていきてえんだ」
「やっぱり、記憶が戻ったのですか?」
「うん、ある程度は……でも、思い出せないこともあるんだ。そして、その記憶はもう思い出そうとしても思い出せねぇ」
「そうですか……」
「俺って、傲慢だよなぁ」
「私は、それでいいと思いますよ。『人間』も『神』もある意味似たようなものですよね……傲慢という点において」
「それは……」
「今まで触れないようにしていましたが、あえて言います。アクロス、あなた私と初めて会った日のこと覚えてないでしょ。ふふっ」
「!!!」
「………」
「ぁ……お、俺は、それでもアリスのことを……!」
「『愛してる』でしょ。アクロスの言いたいことぐらいわかるわ。ふふっ、そうね私もアクロスに言いたいことあったの」
そして、アリスはアクロスの耳に囁くように言った。
「私もよ、『アリス・ローグレスは、アクロス・ローグレスのことを愛しています』」
「うっ、な、なんで?」
「この反応は、なんですか?流石に傷つきますよ」
「ご、ごめん!謝るから、俺のこと嫌わないで!」
「そんな程度で嫌いませんよ。今はまだ結婚できませんが、『あの約束』をあなたが果たした時、今度は私からプロポーズしてもよろしいでしょうか?」
「(う、嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい!)わ、わかった。俺、頑張るよ。『この世界』でも『ゼムリア』でも」
「期待していますよ。ふふっ、『信じてますから』」