トリステイン鉄筋ルイズ   作:ヤッダーバァァァ

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第一発目・野良ミャオ トリスティン編

日本、浦安市。かなり変な人々が暮らすこの場所にその男はいた。

 

「うう~、寒いちょー!早く帰って暖まりたいちょ~」

 

男は変な語尾を付けながら独り言を呟き、ビニール袋を片手に歩く。

彼の名前は春巻龍。小学校の教師をしているが生徒達は彼の事を馬鹿春巻と呼ぶ。そう、どれくらい馬鹿なのかを語れば恐らく厚い本が一冊出来るくらいの大馬鹿だ。

自分の仕掛けたゴキブリホイホイに引っ掛かり。高速道路や学校の屋上、遊園地や建物の屋根の上やサファリパークの熊ゾーン、海やゲームの中や果ては自宅でも遭難し。

生徒に金を借りるもそのお金を僅か10分で落とし。蟹、サボテン、カブトムシ、魚等と対決するも全敗。

そして化学工場の横のドブで捕まえた汚染ザリガニを使った天丼を教え子に食わせ。

その教え子達からも完全に馬鹿にされる日本一のダメ教師。それが春巻龍という男なのだ。

ちなみに春巻が手にしているビニール袋にはキムチが入った瓶と、教え子から貰ったストーブに使うために大鉄のタクシーから盗んだガソリンが入った小さな缶と、点火のためのライターが入っている。

ガソリンとライターを同じ袋に入れるあたり、流石馬鹿春巻である。危ないとかそういう考えはこの男にはないのだろうか。

 

「ほあき~ん…眠いちょ~。それにお腹が空いて来たちょー」

 

鼻水を垂らしながらブツブツ呟き続ける我らが馬鹿春巻。

と、突然春巻の目の前に綺麗な鏡が現われる。普通の人間ならいきなり鏡が現われた事に対して少しは警戒するだろうが、どっこい馬鹿春巻はそんな事もせず。

 

「ちょー!高そうな鏡ちょ~!丁度、部屋に鏡が欲しいと思ってた所だソーリー!」

 

と両手をあげて喜ぶのであった。ちなみにこの春巻、浦安中のゴミ捨て場を荒らす迷惑人物であり、カラスよりもタチが悪いと市長に言わしめるほど。

さらに学校や生徒達の家からも物品を拝借する馬鹿野郎で、その度に生徒である小鉄達から何回も殴られている。

 

「ちょ~!早速持って帰って部屋に飾るちょー!」

 

小躍りしながら春巻はその不思議な鏡に手をかける。が、春巻は知らなかった。その鏡が普通の鏡ではない事を。

そしてこの行動が元々狂っていた春巻の運命をさらに大きく、恐ろしく狂わせてしまう事を。

 

「な、なんだちょ!?」

 

鏡に触れた春巻の身体が鏡の中に吸い込まれていく。春巻は必死に逃げようとするもどんどん春巻の身体は鏡の中へと消えていく。

そして。

 

「キンポォォォォォォォォ!」

 

春巻は完全に鏡の中へと吸い込まれてしまった。そして、春巻を吸い込んだ鏡も溶ける様に消えて行く。

この日、浦安から春巻の姿は消えた。

 

 

 

場所は変わってトリスティン魔法学院、アウストリ広場。新しく2年生となる生徒達は己の使い魔を召喚する神聖な儀式を行なっていた。

生徒達が次々と己の使い魔を召喚し契約を終わらせている中、たった一人の少女―――ルイズが苛立った様子で杖を握っている。

 

「おう早くしろよルイズ!お前のせいで他のギャラリーがイライラしていらっしゃるよ!」

「カカカ…キキキ…!流石はゼロのルイズ…失敗を繰り返すとは楽しませてくれる…」

「もしまた失敗したら、お詫びとして『煌めきなさい!エースショット、ばきゅ~ん!』と授業が始まる度に叫んでもらうからなルイズ!」

「敢えて言おう!ルイズはゼロであると!」

 

次々と浴びせられる罵声だか何だか良く分からない生徒達の言葉をスルーして、ルイズは杖を持つ手に力を込める。

ルイズはこの時点で27回も召喚に失敗している。これ以上、失敗を重ねたくはない。他の生徒が召喚したサラマンダーや竜なんかよりも凄い使い魔を呼び出してみせる。

そして今まで自分をゼロのルイズと馬鹿にして来た連中をぎゃふんと言わせてやるんだから。

意を決したルイズは己を杖を高くあげ、そして叫ぶ。

 

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに答えよ!」

 

今日で28回目のサモン・サーヴァント。今度こそ、今度こそはと成功を心で祈ながら杖を振り下ろすルイズ。

その直後、これまでに失敗した時の爆発よりも遥かに威力のある大爆発が起きた。

 

「きゃっ!」

 

あまりに強い爆風にルイズは小さな悲鳴をあげて身を屈める。周りにいた生徒達も何事かとびっくりしながらも爆発が起きた場所に注目した。

爆発地点は周囲を覆うほどの爆煙によって全く見えなかったが、やがて時が経ち煙が薄れていくと―――【それ】はルイズの目の前に現われた。

 

「ちょり~す……」

 

太い眉毛にガリガリの肉体、そして見るからに馬鹿そうな面に鼻水を垂らしぶっ倒れている男―――春巻龍である。

 

「おいおい!ルイズの奴、事もあろうに平民を召喚したぜ!」

「わっしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!しかも、鳥の骨の様にガリガリで弱そうでやんの!」

「ちゃぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!」

 

哀れ、ルイズ。彼女は神聖と美しさからは遠くかけ離れ、強力ではなく非力という言葉が相応しい使い魔を呼び出してしまいました。

 

「な、なななななな…なん…!」

 

己の身を襲ったあまりの悲劇にルイズは頭に軽いバグを起こし、学校の屋上からプールへの飛び込みに失敗し尻に蛇口が刺さった小鉄の様に変な声をあげ続けている。

やがて、ぶっ倒れていた春巻は意識を取り戻したのか頭をポリポリ掻きながらゆっくりと身体を起こした。

 

「いたた…何が起こったちょ~?確か俺は家に帰る途中で…」

 

「だ…誰、アンタ」

 

「ちょ?」

 

どうやら頭のバグから幾ばくか回復したらしいルイズは、大激怒したいのをどうにか抑え自分が召喚してしまった目の前の春巻に質問をする。

ところが。

 

「ちょー!鏡が無くなってるちょ~!さっきまであったはずなのに何処に行ったんだちょおおおお!」

 

春巻はルイズの質問を無視して、さっきまで目の前にあった鏡がない事にショックを受けていた。自分が浦安ではない別の場所にいる事に全く気が付かず、新品同様で高そうな鏡(彼自身はそう思いこんでいる)の事を最優先に考えるお馬鹿な春巻。

 

「あの、だからアンタ誰…」

 

「わぁー!あんな高そうな鏡、滅多に落ちてるものじゃないちょ~!ひどいちょ~!悲しいちょ~!」

 

「だからアンタ」

 

「くっそー!一体誰が鏡を持っていったちょー!あれは俺の鏡だちょ~!」

 

「聞けぇぇぇぇぇぇ!」

 

「くぎみぃっ!」

 

自分の質問に答えないふざけた春巻に、ついに怒りのボルテージがMAXとなりブチ切れたルイズのエルボーが春巻の顔面に炸裂。

春巻は口から血を吐き出し豚の様な悲鳴をあげてツーバウンド。

ついでに袋の中にあったガソリンが入った缶の締めが甘かったのか、フタが空中で開いてしまい追い討ちをかける様にガソリンが春巻に浴びせられた。

 

「痛いちょ~!そして臭いちょー!ドニドニドニドニドニ………!」

 

顔の痛みと全身に浴びたガソリンの臭さで苦しそうに転げ回る春巻。一方のルイズはそんな春巻なんぞ知ったこっちゃないといった様子で、頭を抱えながらこの世の終わりと言わんばかりに号泣し、叫ぶ。

 

「なんでこんな豚野郎を召喚しちゃったのよォォ!こんなマヌケトンチキが私の使い魔だなんて、人生最悪だわぁぁぁぁ!」

 

「えー…、ミス・ヴァリエール。あまりに酷い現実に絶望するお気持ちは分からないでもありませんが…」

 

「はっ!ミスタ・コルベェェェェルゥ!」

 

滝の如く泣き続けるルイズは一縷の望みをかけて、十三階段ベム…ではなく教師であるコルベールに助けを求める。

もはやなりふり構っていられない。今はルイズにとって貴族として、メイジとして生きるか死ぬかの時なのだ!

 

「お願いします!召喚のやり直しをさせて下さいぃぃ!こんな虫よりも弱そうな使い魔なんて私は嫌ですゥゥゥゥ!

せめて年が近くて、黒髪で、巨乳がお好みで、なんだかんだ生意気だけどいざという時は頼りになる優しい平民とかが…好みです私のォォ!」

 

「なんか具体的ですね…まるでそんな人と一緒にいたっていうくらい細かくて…」

 

「と…とにかく!私は召喚のやり直しを心から求めます!お願いしますミスタ・コルベール!やり直しをさせて下さい!」

 

「………気持ちは痛いほどよく分かりますミス・ヴァリエール。が…残念ながらこの儀式は誠に神聖かつ大切なもの。……ありません、召喚のやり直しは」

 

「そ…そんな…駄目ですと…?ミスタ・コルベール…召喚のやり直しは不可能ですと…?こんなそこらの木と比べて頭の悪そうなこの男…こんなオデキ野郎と契約しろとですと…?」

 

「ドニドニドニドニドニドニ…」

 

「…お気の毒ですが…そういう事になります…」

 

コルベールは眼鏡をクイッとあげて申し訳なさそうに告げる。それを聞いたルイズの視界がぐにゃりと曲がった。

答えはNO!召喚のやり直しは不可能!無念じゃあ、無念じゃあ!という幻聴すら聞こえてくる。

 

ゆ…夢よこれ。こんな、こんな奴に私のファーストキスをあげなきゃいけないなんて夢に決まってる…。

 

そう思いたいルイズであったが、ところがどっこい…!現実ですっ…残念ながらこれが現実っ…!という幻聴で現実に引き戻されてしまう。

大きく溜め息を吐きながらルイズは再び春巻の方へと顔を向ける。相変わらず春巻は鼻から血を出しながら呻き声をあげていた。

もう、やるしかないのか。思えば自分の人生はヘタを掴み続ける酷い人生だ。

魔法が使えないというヘタを掴み、母親や一番上の姉から厳しくされるというヘタを掴み、魔法学院でも【ゼロのルイズ】という不名誉な二つ名を得るというヘタを掴み。

そして今、こんな非力でポンコツな使い魔を召喚するというヘタを掴まされてしまった。どうして私の人生、こうも上手く行かない事ばかりなのよォ――――!酷過ぎる、あんまりだぁ~!

泣き叫びたいのをぐっと堪え、ルイズは契約を結ぶために春巻へと一歩ずつ近付いていく。

 

(ああ、もう本当に頭の悪そうな顔をしているわ!私はこれからどんな顔をして生きて行けばいいのよ!?

し…しかもなんか臭いし…おぇっ…何か気持ち悪くなってきたわ…)

 

春巻から漂うガソリンの臭いに嫌悪感を抱くもルイズは杖を構える。

 

「感謝しなさいよね!平民が貴族に……」

 

「ギャアアアアアアアア!」

 

突如、ルイズの後ろから響き渡る男の叫び声。何事かとルイズはびっくりしながら後ろを振り向いた。

 

「大変だ!ギーシュがモンモランシーの使い魔に襲われておられるぞー!」

「かぁーっかっかっかっかっ!ギーシュの奴ロビンに食われてやんの!」

 

悲鳴をあげたのはルイズの同級生である薔薇が似合うギザな坊ちゃんことギーシュ・ド・グラモンであった。

ギーシュは同じくルイズの同級生であるモンモランシーが使い魔として召喚したカエル……ではなく6メイルはあろうかという巨大なワニに襲われていたのであった。

 

「お止めなさいロビン!ギーシュは餌じゃないわよ!」

 

「くぅぅ!なんてパワーなのよこの使い魔!」

 

「アァァァァリィゲェェェェタァァァァ!」

 

すでに胸から下までロビンの口の中に収まってしまっているギーシュ。それを助けようとモンモランシーと、ルイズの天敵であり一族ぐるみで因縁のあるキュルケがギーシュの腕を引っ張るも、ロビンはガッチリ食らいついて放さない。

ちなみにこのワニ、小鉄の隣に住む松五郎が飼っていたワニなのだがモンモランシーには関係ない話であった。

 

「ダァァァァァイル!」

 

ロビンに噛み付かれチキチキと身体を震わせながら叫び声をあげるギーシュ。普段の余裕たっぷりで傲慢な態度が目立っていた彼の姿はもはや無く。激痛で歪み、青ざめた顔で薔薇な兄ちゃんはずっと泣き叫び続けていました。

というよりも、モンモランシーは一体どうやってこの危ないワニ君と契約を結んだんだろうね。

コルベールは生徒がワニに食われているってのに、突然の出来事に一歩も動けず呆然としていますし大丈夫なんでしょうか?

 

「何やってんのかしら…アイツら」

 

少しというか、かなりドン引きした様子でギーシュの醜態を見物しているルイズ。

 

「ギャロオオオオオオ!」

 

またまたルイズの後ろから聞こえる叫び声。反応したルイズが後ろを振り向くと…。

 

「な、なんでこの馬鹿使い魔燃えてんのよ!?」

 

全身が炎に包まれ、転げ回っている春巻の姿がそこにはあった。何故、春巻が燃えているかというと。

ルイズがギーシュとロビンの攻防を眺めている間に、春巻はビニール袋の中にあったライターが壊れていないか確認するために火を付けたのだ。

 

『良かったー、壊れてないちょー』

 

安堵する春巻だったが、奴さんは自分がガソリンまみれだって事をついうっかり忘れちゃっていた。

勿論、引火、炎上。こうしてルイズの目の前で燃え盛っていたのであった。

 

「熱いちょー!助けてちょー」

 

春巻はパニックのあまり走り回り、呆然としてて無防備となっていたコッパゲもとい…コルベールに抱き着いた。

 

「な…何を…ギャアアアアア!」

 

ようやく我に帰ったコルベールであったが、時すでに遅し。コルベールにも引火してしまい彼も春巻同様、身体が炎に包まれた。

 

「ククルスゥゥゥー!」

「ドァァァァン!」

 

パニックになりながらアウストリの広場を火だるまとなって走り回る馬鹿とハゲ。

 

「ロォォォォズ!」

 

 

ワニに食われて口から泡を吹きながら叫ぶローズボーイ・ギーシュを助けようとするモンモランシーとキュルケ。

 

「先生だ!他の先生を呼べぇ!」

「れっしゃしゃしゃしゃしゃ!ロォォズだってよ!」

 

怯えていたり、泣いていたり、笑い転げていたりする他の生徒達。

 

「あははは…もう訳が分かんないわ…」

 

この常軌を逸した光景に、ルイズは口を引きつらせて笑う事しか出来なかった。

だがルイズは知らない。これはまだ全然マシな方で、これからもっと常軌を逸した事が待っている事を。

そしてルイズ自身も、この春巻を召喚した事で恐ろしい目に会う事を彼女は知らない。

 

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