俺は普通の会社員をやっていた
どこにでもいるサラリーマン
そんな俺にも好きな人がいた
名前は彩花
彩花とは付き合っていて休日や時間が空いた日は晩御飯を一緒に食べたりしていた
付き合い始めてから約2年、隣りにいて当然の関係。もちろん愛していた
ある日俺はプロポーズをするため休日に時間を作って遊園地へ誘い、夕日が沈みかけるいい景色が見れる時間に観覧車へ二人で乗り込んだ
彩花は外を見ながら「綺麗だね」と言っていた
俺はそんな彼女と会話を楽しみながら一番上に行くのを待っていた
やがて頂点へ周ってきた時、プロポーズした
プロポーズは成功し自分、相手の両親の説得も成功し、結婚式をあげた
結婚してから1年、一児の父親に俺はなった
その子は元気な女の子だった
子供は元気に育ってくれた
俺の人生にも大きな花が咲いたんだと思っていた
だが事は起こった
小学校に行き始めて3年生に上がり始めた頃子供の異変に俺は気付いた
彩花に聞いてみると最近よくあるから私も心配だったと言っていた
ある日俺は病院に行かせるベキだと彩花に話し、相談の末翌日学校を休ませて病院に連れて行くことになった
たまたま仕事が休みだった彩花に病院を任せ、メールですぐに結果を知らせるように言ってから仕事へ行った
お昼休憩をしていた俺へ届いた着信はメールではなく電話だった
内容は娘の診断結果が「脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)の可能性があるから大きな病院へ行くことになった」という連絡だった
俺はすぐさま部長へ事情を話しなんとか仕事を早退することができた
どんなものなのかは医療知識のない俺には全く想像がつかなかった
でも名前を聞いただけで普通じゃないことくらいわかった
自転車を全力でこぎ、家に帰ってから車で病院へ飛ばしていった
病院に行くとある部屋へ通された
そこでは無邪気に「パパだ!おかえりなさい!」と笑顔で迎えてくれる娘とイスに座り無言の彩花がいた
そこで俺は確信した
命に関わる、もしくは将来に関わる大きな病気なんだと
早期発見で治る病気じゃないんだと
そんな考えがよぎる中、医者のおじさんが口を開いた
「娘さんの診断結果ですが・・・脊髄小脳変性症という病気です」
俺は病気の名前なんてどうてもよかった。娘がこれからどうなってしまうのか検討もつかなかった
「娘は・・・娘はどうなるんですか・・・」
子を持つ親なら誰もがそう答えたであろう
病気について教えて貰った俺と彩花は家に帰ってから病気についてもう一度詳しくインターネットを使い調べた
病気の原因、症状、娘の未来
次の日仕事なんてものを考えている暇はなかった
情報によると脊髄小脳変性症とは症状にそれぞれ違いがあり、俺の娘の場合、小脳失調障害に該当するらしい
更に細かく分けると四肢失調というもので徐々に歩けなくなったり体が不自由になっていくというものだった
死亡率9割というたったの五文字でさえ目がくらみ目の前が見えなくなるくらい目から雫が垂れた
俺は現実を受け入れられなかった
それは彩花も同じだったようでいつもならご飯を作り始める時間になっても二人共黙って娘を見つめ、抱きしめては「ごめんね」ということしかできなかった
入院するため娘を連れて彩花と俺は翌日病院へ訪れた
俺は神を呪った
やっとの思いで結婚し子供を授かったと思っていたのにその子供が病気で苦しむことになった
そんなことをすんなり受け入れられる方がおかしい
そして娘の病院生活が始まり家では二人揃って今後について話し合うことにした
話し合いではお互いに医療知識がないせいかこれだという答えにはたどり着けなかった
数週間考えさせられ、たどり着いた答えが「病気で寝たきりになるくらいなら楽にしてあげたい」という答えだった
何も殺したいわけじゃない
最初は何が何でも殺さないという話になったが苦しむ娘を見てられなかった
毎日病院へ来て娘を見ている俺と彩花は娘が確実に弱ってきていることを知っていた
何もできない自分がただ憎かった
「なんで俺は何もできないんだ。なんで俺はこんなポンコツなんだよ」って思った
そうこうしているうちに病気はどんどん進行していき医者が重大な話があると言ってきた
「毎日娘さんのために病院へ来てくださりありがとうございます。娘さんも病気に負けじと頑張ってくれています」
「いえいえ、当然のことです。俺たちができることはなんだってやります」
「助かります。娘さんのことですが、病気の進行が予想よりかなり早いペースで進んでしまってます」
「っ・・・はい。・・・」
「御存知の通り娘さんの病気は進行が進めばやがて立てなくなり、完全に寝たきりとなってしまいます」
「それが近づいてきている・・・と・・・?」
「はい。少なくともあと一ヶ月もしないうちに娘さんの下半身は危ないでしょう」
「何か・・・何か無いんですか!治療法は!完治しなくてもいい!何か無いんですか!!」
「すみません。治療法は・・・無いんです・・・緩和として飲んでもらっている薬やリハビリというのが私達医師の限界です・・・病気の進行や症状にも個体差があり、まだまだ未解明な病気でして・・・」
「そんな・・・」
「俺は・・・俺にはやはりできることは・・・」
「申しにくいことではありますが、見守っていただく他無いです」
医師の答えは残酷だった
もちろん医師が悪いというわけではない
しかし見守ることしかできない俺達は無力感を感じざるをえなかった
医師が言ったとおり一ヶ月もしないうちに立つことが難しくなり自立が完全に出来なくなっていた
「パパ。なんで私、立てないの?お外で遊びたい・・・」
「あぁ・・・ごめんな・・・」
娘は小学校の友達や先生が病院へ来て元気をもらったりしていたが病気が治るわけもなかった
こんなことになるくらいなら子供を作らなければよかった。結婚しなければよかった
そんな最低なことを考えてしまった俺は一度頭の中をリセットし現実に真剣に向き合う覚悟を決めた
車椅子になってしまったが俺と彩花は有給をあるだけ使い、許可を取ってから娘を病院の外へ連れ出した
行きたいとも言っていないのに動物園、海遊館やバーベキュー。科学館などいろんな場所へ行き、親としてできるだけのことをした
娘は「ありがとう。パパ、ママ、大好き」と言ってくれた
「死にたい」という言葉を言わせたくなかった俺と彩花はその言葉を聞いて涙が止まらなかった
そして病気の進行は進み完全に寝たきりとなり話せなくなった
とうとう別れの時が来てしまったのだ
二人で相談して決めたことであり不満が無いわけではなかったが娘が苦しめられている姿を黙って見守っているなんて出来なかった
それくらい俺と彩花は自分の精神が弱いんだと言うことに気付かされた
「今日一日です。夜に娘さんが眠りについた時、永眠剤を投与させていただきます」
「わかり・・・ました・・・」
その日俺と彩花は一日病院で娘を見守り一緒の時間を過ごした
夜になりまるで死んでしまったかのように眠りについた娘に永眠剤が投与された
「待って・・・待ってくれ!もうちょっとでいい!一緒に過ごしたいんだ!!」
「お父さん!・・・二人で決めたじゃないですか・・・私だって一緒にいたい・・・一緒がいい!・・・でも、これ以上私たちが苦しめたら・・・」
「っ・・・そう・・・だな・・・取り乱してごめん・・・娘を・・・お願いします・・・」
俺と彩花の娘は10歳という短き人生を過ごした後「永眠」という形で人生にピリオドを打った
「先生・・・」
「俺は神がいるならこの手で葬ってやりたいくらい憎んでいるよ。でもそれを話したところで意味はない。」
「なら、なんでそんな話を僕と鈴音に・・・」
「関係しているからさ。君はまだ知らないことが多い」
「先生はどうして教師になったんですか」
「それは・・・そうだな。隠す必要もない。生命の大切さを教えたいからだ」
「それなら講師という形もあったはずです」
いつもは遠慮ぎみであった鈴音が珍しく森山先生へ正論を叩き込んだ
「君は遠慮がないな(笑)。君に出会うためだよ。【岡田 鈴音】」