【運命】
とはいったいなんだろうか
抗えないもの。あるいは行動によって変わるもの
運命に抗えないと言うのなら、人は運命の言いなりになるものだろうか
行動によって運命を変えることが可能なら、人は必ず動き出せるだろうか
前者は「お前は死ね」と言われて「わかりました」と答える人間はそうそういないだろう
しかし後者は「結果は変わらない」と言われて「じゃあ、やめます」と動作を停止する人間もいれば「やってみないとわからない」と答える人間もいるだろう
ある少年は運命を否定し自分に出来る可能性、相手に起こり得る可能性を信じ、行動を起こした
「僕は医者になる」
「本気で言ってるならやってみろ。わしが支えたる」
高校三年生へ上がった真司は決断をした
その決断は決して甘い事ではなく今のままではできないことが明白なものだった
真司は学校帰り、鈴音と二人で帰っていた
「聞いてくれ鈴音。僕は医者になるよ」
「え?」
「僕が治すんだ。病気で苦しんでいる人を」
真司は睨みつけるかのような本気の眼差しで鈴音へ言い放った
「真司には無理だよ・・・医者っていうのはなりたいと思ってなれるものじゃないんだよ?」
「わかってる。でもやらなきゃいけないんだ」
「わかってない!わかってないよ!医療を舐めないで!!私の道を軽いような言い方して・・・ふざけてるの!?」
鈴音が言った言葉は正しかった
真司にも鈴音の言っていることが正しいことくらいわかっていた
「ふざけてなんかない!僕は決めたんだ」
「ふざけてるよ!いつも授業で寝てて、テストだって中の下あたりなのに。それでいきなり僕は医者になるんだって、私をからかってるようにしか思えないよ!!」
返す言葉もない。真司はそう思った
今までの態度を見ていれば誰にでもわかることだ
普段から怠けている人間が努力している人間の目指している所へ行くと言い出せば、当然努力している人間からは良い人には見えないだろう
「一旦落ち着こう。な?」
「見損なったわ・・・」
「まっ」
真司は帰る鈴音を引き留めようとしたが何故か身体が動かなかった
そして鈴音は徐々に指先に違和感を感じ始めていた
森山先生の話を聞いてから数日、鈴音は自分がもしや先生の娘と同じ病気では無いのかと心配だった
「あいつ・・・」
お前は病気でこれから苦しみながら死んでいくんだと言い聞かされたかのように心をえぐられた鈴音は自分を見失っていた
心境はわかっていたはずだが病気のことを深く理解していない真司はうまくフォロー出来なかったのだ
「おい真司。鈴音が珍しく学校休んでるんだけど、何か聞いてるか?」
「聞いてるっていうか・・・僕が原因だと思う」
「聞かせて欲しい。真司、教えて」
真司は先生との話の一部だけを切り取り、裕太と舞に話した
「そんで、鈴音はその脊髄なんちゃらだって言いたいのか?」
「決まったわけじゃない。鈴音が病院に行って検査を受けない限りわからないんだ」
「なによ・・・なんなのよそれ・・・」
「もし脊髄なんちゃらだったらお前はどうしたいんだよ。そこが一番重要だろ。わからないなんて抜かすならお前をぶん殴って俺が鈴音を貰うぞ」
「待って裕太!そんないきなり」
「男の話に女がケチつけんな!どうなんだ真司!」
「僕は・・・。僕は医者になる」
友達のしょげた様を見て怒りを顕(あらわ)にした裕太は活を入れるべく真司に問いただした
「それがお前の答えか・・・本気なんだな?」
「二言はないよ。僕にだってやれることはしたい。ただ、鈴音に言ったら怒らせちゃったんだ」
真司は鈴音を傷つけてしまったことを仲間に打ち明け、助けを求めた
「鈴音を病院に行かせて検査しないといけないんじゃないのか」
「もし病気なら三年生に上がってからよく躓いたりペン落としたりしてることに納得・・・できる」
「なぁ裕太、舞。明日僕は休んで鈴音を病院に連れて行くから先生に適当に言っといてもらっていいか?」
「任せろ。ダチってやつだろ?」
「裕太・・・ありがとう」
「私も忘れないでよね~鈴音を真司に取られちゃって悲しいけど、協力するよ」
「あら真司くんいらっしゃい!鈴音を心配して来てくれたのね」
「はい。いきなりすいません」
学校帰り、真司は鈴音の家に来ていた
「自室に籠って体調が悪いの一点張りなのよ」
「それ以外に何か変わったことって無いですか?」
「以外は特にわからないわねぇ。学校で何かあったのかしら」
「そうですか・・・鈴音に会えますか?」
「えぇ、玄関で話しちゃってごめんね。二階の手前が鈴音の部屋よ」
「ありがとうございます!」
明日鈴音を病院へ連れていくために真司は鈴音の部屋の前までやってきた
「鈴音、僕だよ。入ってもいいか?」
「しん・・・じ?・・・」
「この前は軽はずみなこと言ってごめん。僕も少しは言葉を選ぶべきだったよ・・・でも気持ちに嘘はない。僕は医者になる」
「入って・・・きて・・・」
鈴音が怒っていると思った真司はまず謝罪をした
しかし夢を変えるつもりは無いと真司もハッキリと言った
部屋に入ると鈴音はベッドに座っていた
「私の方こそごめんね・・・無理だなんて言って・・・」
「間違ってないさ。今のままじゃ無理なのは確かだし」
「学校・・・何か変わった?」
数日学校へ行っていなかった鈴音は少し気になっていた
「うん。何もかもが変わったよ」
「え?」
「鈴音がいない」
「何よそれ(笑)」
「やっぱり笑ってる鈴音が好きだよ」
少し照れながら真司は想いを伝えた
「ずるい・・・」
「鈴音?」
「ずるいよ真司だけ・・・私・・・あんなひどいこと言ったのに」
「またその話?気にするなって」
「気にするよ・・・だって好きな人の将来の夢を貶(けな)しちゃったんだもん・・・真司が許してくれても自分が許せないよ・・・」
「深く考え過ぎだ。僕は大丈夫だから、鈴音も諦めずに頑張ろう、な?」
「っ・・・うん」
真司は泣いている鈴音を抱きしめた
あれからどれくらい時間がだっただろうか
小一時間あたりだと思っていたが案外長かったのかもしれない
「鈴音・・・明日検査しに病院へ行こう」
鈴音が泣き止んだことを確認した真司は早速病院の話を持ち出した
「森山先生の話に出てきた病気・・・」
「そうだ。最近指先に力が入りにくいとかないか?何かあったなら言ってほしい」
「力は入りにくいよ・・・でも怖くて、病院で検査を受けるのが怖くて行けなかった」
違和感に気付き薄々病気に勘づいていた鈴音は恐怖を感じていた
「大丈夫。明日は僕も一緒に行くから」
「ダメだよ!真司は学校に行かないと・・・それなら私一人で行くから・・・」
「それこそダメだ、僕が連れていく。鈴音のお母さんにはもう話してるから」
「でも・・・」
「でもじゃない。もっと僕を頼ってくれよ」
「・・・わかった」
真司の決めたことに鈴音は渋々了解した
次の日、父親に事情を話した真司は早速朝に鈴音の家へ訪れた
「もし・・・もし私が病気で寝たきりになったら」
「その時はずっとそばにいる。心配するな」
「うん。ありがとう・・・」
自転車の荷台に鈴音を座らせ、真司は病院へ向かった
「もっと離れろ!」
(当たってる・・・柔らかいものが当たってるから離れろ!)
「なにー!?」
「はーなーれーろー!」
「わかったー!」
(バレた・・・変なところで真面目だなー真司)
病院へ着いた真司と鈴音は受付を済ませ、早速検査を受けた
「結果が出るまでしばらくお待ちくださいね〜」
病院は平日の朝ってこともあり診察はあっさり終わった
そして椅子でかけているとすぐ名前を呼ばれた
「岡田鈴音さん。詳しく見させていただきますのでもう一度診察室へお願いします」
真司の悪い予想は的中していた
「真司・・・」
「まだ決まってない、大丈夫だ鈴音」
真司は自分で言いながら(何が大丈夫なんだ)と思った
「岡田さん。手先や足元が不自由だったりなにか違和感があるとかないですか?些細なことでも構いませんよ」
「はい。実は最近・・・」