生き残った艦達よ戦場へ   作:wisterina

8 / 10
第七章『ミズーリと吹雪と世界』

 鎮守府稼働から一月後、最初の駆逐艦五隻が予想を超えた戦果を挙げ続け、深海棲艦を駆逐し始めたのだ。その勢いは、南は台湾沖を。東はミクロネシア連邦まで拡大した。それはさながら開戦前の大日本帝国の国土と同じぐらいであった。

 それを受けてアメリカ政府が、フィリピンにいるミズーリを日本政府と協力する態度をとったのだ。表向きは民間人の保護を目的としたが、裏では日本が研究した艦魂の情報と建造方法を求めていた。

 石井主任は、このアメリカの対応に頭を悩ませた。これは、完全に政治の分野で難しい案件だった。研究所に訪れていた外務次官は石井主任に助言する。

「この件は、現在私どもで方針を策定しています」

 やはり、官僚国家日本だ。こちらの意図とは関係なく官僚主体で物事を決めてくる。

「どうするのだ?全部公開となると、政府としては手札を全部明かしていいのか?」

「それはありません。公開するのは、主に建造の方法と修理方法です。これならアメリカ政府も欧州も満足していただけるでしょう」

 石井主任は、ため息をついた。宗谷の艤装、大淀による運用データ、明石の修復技術、そして日夜寝る間も惜しんで手探りの中で研究し続けた研究者たちの成果を戦艦一隻と他国の民間人の保護のためだけに譲るなんてと思っていた。

 だが、外務次官はあっけらかんとした表情で答える。

「もちろん。伏せるところは伏せますよ。これは内部の協力者からの情報ですが、まだ艦魂の艤装を解体したクレイジーな国は()()()()だそうです。概要だけでは建造できないように作成しますので、完全な解明には必然的に艦魂を一隻以上は解体しないとできませんので」

 なんとも食えないやつらだと石井は思った。建造さえできなければ、修復方法が完全に正しくても宝の持ち腐れだ。そうでなければ、戦後もアメリカの犬といわれて自国・他国民に蔑まれても超大国を維持してきたのは、伊達ではないようだ。

「そして、最重要機密。S因子は絶対秘匿とします。わかってますよね」

 外務次官は、柔らかな口調で石井を脅した。

 一海戦程度ならば、絶対に沈没しないなんて、これを本物の軍艦に流用できれば夢のような因子だ。それを手にすれば、制海権が大きく変わる可能性もある。日本が持つジョーカーがまさかあんな小さな船にあったとはだれも夢にも思わないだろう。

「もちろんですとも。ただ、アメリカにはあることを伝えてください」

「何でしょう?」

「ミズーリの所有権は日本政府のもとに置き、カミカゼアタックでもない限り好きに使ってもよいと伝えてください」

 外務次官の目がキラリと光る。のちにアメリカ政府も電波障害による情報の伝達がうまくいかないのと、パナマ運河が封鎖されていることもありミズーリの件を了承した。アメリカにとって重要なのは、既存の物を大切にするよりも新しく作ることに関心行っていたのだ。

 

 フィリピンで駐留していたミズーリの艦魂は、その長い髪をくるくると弄っていた。まさか、自分が日本に所属となるとは思わなかったのだ。

 すると、ミズーリのいる艦長室のドアがノックされると、三人の男女が入ってきた。二人は背広を着ていたのでお偉いさんと通訳だとわかった。ただ、もう一人の髪を一つに縛り田舎娘のような風貌の少女にミズーリは彼女に向かって誰だといった。

「Who are you?」

「は、はい?」

 隣の男性がミズーリの短い会話を通訳した。ミズーリはこれくらいの会話にもならない言葉も通訳しないといけない娘を連れてくるとはどういうことなんだと訝しんだ。

「初めまして、吹雪です!」

 少女は、きちんと海軍式の敬礼を返したので、少しはできそうだと判断した。そして、もう一人の背広の男性が椅子に座り、流ちょうなアメリカ英語で会話する。

「それでは、ミスミズーリ。ペンは持てますかな?ここに君のサインを」

「OK.まるで人間みたいな扱いするのねジャパンは。私にできることならvery カモンよ」

 ミズーリは虚勢を張っていた。自分は臆病者だとわかっていた。真珠湾でも、深海棲艦に臆病風が吹き逃げ出そうとして怒鳴られた記憶が残っていた。だが、日本に所属となれば威勢をはらなければならない。

 世界のアメリカとして、世界最強の戦艦として日本相手に縮こまらず、役者を演じるのだと精一杯の虚勢を張ったのだ。

「それで。そちらのレディーは何ですか?Youのドウターですか?」

「艦娘の吹雪だよ。あなたも噂は聞いていますよね」

 なるほど彼女がとミズーリは、初めて見る艦娘に羨ましいものだと思った。彼女は人間として地面を歩いている。加えて海も征ける。自分は人にもゴーストにも満たない存在だというのにと内心思っていた。

 ミズーリがサインを終えて、高官が書類を確認する。

「よろしいです。では、ミスミズーリ、私たちとご同行お願いできますか?」

「ハッ!?降りるですって?どうやって、私は地面に足をつけられないのですよ」

「おや?できないのですか!?」

 高官は驚愕の表情を浮かべた。どうやら想定外の事態だったらしい。高官はしばらく考えた後、ミズーリに話しかける。

「では、少し日を改めましょう。艦から降りることを知る者をお連れしますので。あなたは日本で必要な存在ですから」

「Hou?私が日本にとって?祖国と世界の危機なのよ。それに私は世界に誇る戦艦よ。イッツスモール!!」

「では訂正しましょう。世界に誇る戦艦が世界を救うことになるのですから」

 高官が退席しようとすると、吹雪は高官に話しかけた。そして、高官が何か了承すると、吹雪という少女が前に出て通訳を通じて話しかけた。

「あの。ミズーリさんは外に出たことはありますか?」

「No.私はここから出てない。だからどうしったていうの?」

 向こうが透けてもミズーリの虚偽の威勢に吹雪は怖気づいていたが、それにも負けずに直立で話を続ける。

「……私も実は最初。この体になって外に出るのは怖かったんです。けど、周りの皆さんのおかげで世界を知りました。今まで見たことのないようなことが目の前に広がって、私この世界で、この体でいっぱい色んなことを頑張ってみようって。えっとだから。そう! 怖がらずに外に出てみると良いですよ」 

 三人が艦長室から出ると、ミズーリは吹雪は何を勘違いしているのかと思った。自分は恐れているんじゃない。出れないのだ。自分はこの艦とともにあるのだと。

 だが、吹雪の言葉の自分の目で見た世界という言葉にどこか引っ掛かっていた。もしかしたら、虚勢を張りすぎて自分の()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろうかと思いつつ椅子に座ったまま暫し眠りにつく。

 その後、ミズーリは地面に足をつくことができた。宗谷という、吹雪という少女よりも小さい娘であったが、どうやら同胞らしく、人になるやり方を教えてくれたのだ。

 不思議な気分だった。自分よりも小さいのに、なんと年も知識も宗谷の方が上だったのだから。

「さあ、ミズーリさん。艦をしまってください」

 ミズーリは宗谷の手を取るにも役者魂を発揮した。その手つきはハリウッド女優がレッドカーペットを歩く時のようであり、艦から降りる。すると、戦艦ミズーリという艦はまるで蜃気楼のように消えてしまった。

 初めての外。空には先ほどまで自分の艦に止まっていたカモメが自分の傍に降り立ち、青い空の向こうにあった山林がより大きく見えた。フィリピン気候特有の蒸し暑さが肌につき、髪が一気に湿気を含む。クーラーの効いた艦内では、いや艦だった時では味わえない感触だった。

 ミズーリは初めて、人間の体で世界を見たのだ。そして、ミズーリは決して虚勢でも縁起でもなく本心から思った。なんて世界は広いのだろうかと。

 

 そして、ミズーリの艤装の解析により、最新の機能を搭載させる艦娘を建造する大型艦建造プロジェクトが始動した。これが完成したのは、二〇一三年十二月二十四日のクリスマスイブだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。