時は流れ、宗谷は穏やかな波を見つめながら護岸で釣り糸を垂らしていた。その背後にある人物が護岸にへと降りてきた。その人物とは、宗谷と初めて面会をした若狹だった。
「宗谷、なにか釣れた?」
「いいえ。船上とは違い護岸ではうまく釣れませんね」
ここは佐世保鎮守府。現在艦娘が大量に生まれ、研究も教育も普及してきたため宗谷の役目が減り時間的余裕が生まれていた。
大淀は、巨大なカタパルトと箱形の搭載機格納庫を活かして小型偵察機による弾着観測射撃の研究に勤しんでいた。そしてこの夏、十分なデータも取れたためどこかの鎮守府に配属されて彼女も海で再び戦う見込みだ。明石も艦娘の小さな損傷を修復する技術力が活かされ、この春から横須賀鎮守府に配属された。
しかし、今の宗谷が担当しているのは、佐世保鎮守府の炊事洗濯と
ミズーリも未だに研究の真っただ中であったが、あの最強の戦艦がいつまでも研究漬けされるはずがない。いつか大淀のように戦場に戻ってくるだろうという噂があった。だが、宗谷にはその噂もなかったのだ。
ここに配属された艦娘も含め誰も、彼女が艦娘たちの生みの親とは知られていなかった。彼女と出会っても、お手伝いとして雇われたといって誤魔化している。幸いにも帝国海軍時代の宗谷は、あまりにも目立たない存在だったこともあり知っている艦娘もいなかった。
若狹は宗谷の隣に座り、心配そうに話しかけた。
「けど、いいの?あなたは最大の功労艦なのに。世間では沈んだことになり、七十年ぶりに出会った艦娘は誰もあなたを覚えていない。あなたは
そう、宗谷は沈んだことになっている。幸運艦の初代南極観測船の最後が呆気なく終わりを迎えたと世間一般に広まっていた。この県には宗谷の生まれ故郷である三菱重工業長崎香焼島造船所がある。だが、誰一人として宗谷を知っている者はいない。
宗谷を知る者もその本物がいなくなったことにより減っていき、知る者も後世に伝えていく者もいなくなる。宗谷はあらゆる意味で消えてしまっていくのだった。
だが、宗谷は何食わぬ顔で言葉を返す。
「これが、
鎮守府に警笛が鳴る。艦娘の出撃の合図だ。この護岸からでも艦娘の出撃する様子が見れる。
六隻の艦娘たちが単縦陣で工廠から出撃する。その先頭に立つ、和傘をさして悠々と海原を進む日本の名を冠する戦艦の艦影が見えた。その後ろでは、特徴的な二本の角で腰まで長い黒髪でたくましい体つきをした山口県の旧国名の戦艦の姿もあった。宗谷にとっていづれも憧れの存在であり、片方は海上保安庁のころ宗谷の改造に尽力してくれた恩がある。
宗谷は手を振って彼女たちを見送った。向こうも一人の女の子が手を振っていたことに気付いたのか手を振り返す。
宗谷は、ひとつだけ本当のわがままを祈った。いつか、みんなと一緒に出撃したいと。すると、浮きが激しく動き始め、宗谷は慌てず錨を上げる要領で竿を引く。
「――抜錨」
『生き残った艦達よ戦場へ』完
お話はここで終わりです。
次の話は、蛇足と設定とか話しますので。もういいよって人はここでブラウザバックです。