少女と戦車と役人と   作:夜郎自大

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 転職と転居をしまして、ようやく生活も落ち着いて(?)きたので久々の投稿です。
遅くなりまして大変申し訳ありません。


第5話:戦車は物品です!

 角谷が手にしていた紙には、「ふんしつ届」とひらがなで大書されていた。辻はその紙に素早く目を通していくのだが、それにともなって顔色はみるみると変わっていった。そこには、大洗女子学園の戦車道部が管理していたⅣ号戦車やヘッツァー、ポルシェティガー等、戦車8両と相当量の燃料、競技用の弾丸を紛失したことが書かれている。

 

「うちの副部長、バカがつくほどの真面目ででしてね。廃校になるんだし、物品の管理とか後片付けなんか役所に任せておけば良いって言ったんですけど、聞かなくて。まぁ、でも折角作ってもらったんだし、今回ここにお持ちしたんですが、これ、どこに出せば良いですか?」

 

 そういって、角谷は横に座っている児玉にも紙を見せる。児玉の顔色もみるみると変わっていく。ここへ来たのは子どものお守り程度に思っていたようだが、「ふんしつ届」を見たことで事の重大さを再認識したようである。

 戦車道はスポーツではあるものの、使用する戦車はまぎれもなく兵器である。弾丸も競技用とはいえ十分に殺傷能力がある。それを目の前の少女は紛失したと言っているのである。それだけでも一大不祥事ではあるのだが、万が一その戦車を原因とした事故など起きようものなら、国や県だけでなく戦車道連盟へのダメージも計り知れないものとなる。

 児玉は縋るような目で蝶野を見るが、蝶野としても初めて聞く話である。ここにいる女子高生1人を除いた大人4人が困惑の表情を浮かべていたのである。

 

「提出する先はここで構いませんが・・・」

 

 意を決して辻が口を開く。大洗女子学園が管理している戦車は文部科学省の所管する「物品」である。そのため、それを紛失したとなれば学園艦教育局財務課が窓口にならなければならない。

 

「その、戦車は本当に紛失したんでしょうか?」

「副会長が言うにはー、どうも学園艦の中をくまなく探しても見つからなかったって私は聞いてますよ」

 

 角谷は意味あり気な笑みを浮かべて不遜に言い放った。

 そして、辻は訊きながら自分のバカさ加減に無性に腹が立っていた。もはや紛失したか否かが問題なのではなく、戦車という重要な物品が相手方の手に落ちていることが問題なのである。

 強硬手段として警察に紛失について届け出るかも考慮に入れたが、すぐさまそれは否定した。強硬手段を取ったとしても、行政として取るべき手続きは取らなければならない。戦車の紛失となれば物品の亡失として局長を経由して文部科学大臣への報告が必要となるし、そもそも戦車が見つかったとしても紛失するような管理状況にあったことが問題となるのである。

 

「もし、今週中に試合が開かれるとなれば、私たちも戦車の捜索に全力を尽くさせていただきますが、いかがですか?」

「厳しいスケジュールとはなるかと思いますが、いたいけな女子高生の母校の廃校がかかった試合ですし…、戦車道連盟として、何とかしてみましょう」

 

 児玉は戦車紛失という一大不祥事と試合手配の手間とを天秤にかけたようである。

 

 辻としても、選択の余地はない。学園艦を受領した際に作成した受領品リストに戦車も含まれていたのである。受領品の検査が入れば戦車の紛失はすぐに発覚する。それに、最後の頼みの綱であった戦車道連盟に梯子を外されてしまったので、辻としてもこれ以上の抵抗は不可能であった。

 

「戦車道連盟さんとして、スケジュールに無理がないのであれば、試合についてスポーツ庁と協力してセッティングするという方向で進めましょう。ただし、「廃校」がそれで撤回になるかどうかについては、私としても責任を持てるかどうか、精一杯努めさせていただければとは思いますが…。」

 

「それで十分です。辻財務課長のお働きに感謝します」

 

 角谷の言葉に若干の棘があることを辻は聞き逃さなかったが、「廃校」を決める権利は辻にはない。それを決めるのは行政ではなく政治である。勿論、行政側の手間を考えれば現行の方針が望ましいことに変わりはないのではあるが。

 

「それでは、私はこれで失礼しようと思います。このことを他の生徒にもいち早く伝えに行きたいので、それにまだやることは残っていますし…」

 

 そう言って角谷は微笑み、おもむろに席を立ち、呆気にとられる大人たちを後目に一礼し、応接室を颯爽と後にした。

 後には、大人たち4人が残された。

 




 はい、というわけで次回で完結させます。お待ちいただいた方には重ね重ね投稿が遅くなって申し訳ありませんでした。
 戦車が物品となるのはこの小説を構想し始めた時に初めて知りました。


物品管理法 第2条
 この法律において「物品」とは、国が所有する動産のうち次に掲げるもの以外のもの及び国が供用のために保管する動産をいう。
 一 現金
 二 法令の規定により日本銀行に寄託すべき有価証券
 三 国有財産法第2条第1項第2号又は第3号に掲げる国有財産


国有財産法 第2条
 この法律において国有財産とは、国の負担において国有となった財産又は法令の規定により、若しくは寄附により国有となった財産であって次に掲げるものをいう。
 二 船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
 三 前2号に掲げる不動産及び動産の従物


防衛省所管物品管理取扱規則
別表第1 防衛省所管物品分類表
     会計:一般会計  分類1:防衛省本省  分類2:防衛物品
     次の経費により取得する物品その他防衛省本省に必要な物品
     (項)武器車両等整備費
 
 ちなみに、防衛省で物品が紛失した場合は、防衛省所管物品管理取扱規則の第4章34条に規定がありまして、第8項には、

(前略)物品管理官は、その管理する物品の亡失等のうち次の各号に該当するものがあるときは、速やかに(中略)物品亡失(損傷等)報告書により防衛大臣へ報告しなければならない。(後略)

 物品亡失はおおよそ大臣案件になるわけで、それはガルパン世界で戦車を管理する(?)文部科学省も同じかなと。辻さん、学園艦ごとしれっと戦車持って行こうとしていたとこを見るとおそらく戦車は国の持ち物かなと思って、今回の展開にしてみました。

 残りはエピローグ的な展開になるかと思いますが、頑張ります。
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