Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第100話 ウィリアムVSシュバルツ

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「───あなたはさっきの!」

 

 男の姿を見てアナスタシアは驚きの声を上げる。

 それもそのはず、つい先程会ったばかりの人物が目の前に立っているのだから。

 

「まっ、まさか・・・巷で噂の〝ストーカー〟、というやつか・・・?」

「ん~・・・やってることは同じとはいえその言われ方は少し傷付くなぁ・・・・・」

 

 実際尾行していたのだが、そういう言われ方をされてしまうと自分が変態に成り下がってしまったような気持ちになってしまう。

 

「何者じゃ?」

 

 アステリオスがアナスタシアを守るように一歩前に出て尋ねる。

 屈強な体に大概の子供なら逃げ出してしまうであろう強面はそこいらのドラゴンにも負けぬなかなかの迫力だ。

 

「俺はウィリアム、ある男の指示で魔人を探している」

 

 その言葉により魔人三人の顔に緊張が走る。

 〝ある男〟、それが騎士団の人間であれば絶対に捕まるわけにはいかない。

 奴隷商人や珍しいもの好きの貴族なら捕まっても最悪命までは取られないだろうが、過去幾度となく戦ってきた騎士団に捕まればまず死罪。

 そしてその前には同族の情報を吐かせるための拷問が待っているだろう。

 ここは〝人間の国〟で自分達は〝魔人〟、昔から争いの絶えなかった両者の溝は果てしなく深い。

 家族を殺された者もいるだろう。

 仲間を殺された者もいるだろう。

 実際、魔人族に対する復讐心をもつ者は多い。

 それだけのことを過去自分達はやってきた。

 だが、だからこそここで捕まるわけにはいかない。

 憎しみの過去を乗り越え、新しい未来を作るためにも。

 

「シュバルツっ!」

 

 アナスタシアの呼び掛けに瞬時に反応してウィリアムとの間合いを詰める。

 一瞬にして目の前まで迫ると迷うことなく首を狙い剣を交差させ斬りつける。

 見事な早業ではあるが、ウィリアムも黙って斬られるほどノロマではない。

 こちらも一瞬で腰に提げた刀を少しだけ抜きシュバルツの剣を受け止めてみせた。

 

「おうおう容赦ねぇなぁ」

「シュバルツ!決して──!」

「分かっています!殺しはしません!」

 

 シュバルツの剣が緑色の魔力に覆われていく。風魔法だ。

 派手な行動は避けると思っていたがどうやらそうでもないらしい。

 シュバルツの背後からアナスタシアとアステリオスの逃げる姿が見える。

 直ぐにでも二人を追いたいがそれをあっさり許してくれる男ではないだろう。

 何せこの男も魔人だ。それも恐らく上位魔人。

 刃を交わせばはっきりと分かる。生半可な気持ちでは逆に首を斬り落とされかねないと。

 それだけの覚悟と実力をこの男からは感じる。

 

◇◇◇◇◇

 

「大丈夫かしら・・・」

 

 その言葉は自分に向けて発したものではない。

 自分達を逃がすためにあの場へ残ったシュバルツに向けられた言葉だ。

 彼の強さは重々承知している。が、ウィリアムと名乗ったあの男の力は全く分かっていない。

 少なくとも只者ではないだろう。

 何せ魔人である自分達三人の前に臆することもなく現れたのだ。

 余程自分の力に自信があるのかはたまた只のバカなのか。

 魔人探しを頼まれる程だ、魔人に対抗しうる力を持っていると考えておいた方がいいだろう。

 そう考えるとやはり一人残してきてしまったシュバルツのことが気になってしまう。

 

「そんなに心配せずともよい。シュバルツの実力は知っておるじゃろう?あれとて伊達に第十二席の地位に就いておった訳ではないわ」

「・・・・・そうね、今はまず身を隠すことを第一に考えましょう!」

 

 アステリオスに叱責され再び前を向いて走り出す。

 背後から激しい戦闘音がするがもう振り返りはしない。

 ただ信じて待つ。今はそれしかできないのだから。

 

◇◇◇◇◇

 

 土煙がもうもうと立ち込める。

 鍔迫り合いの中シュバルツの放った一撃で壁はすっかり吹き飛んでしまった。

 ぽっかりと空いてしまった壁から双剣を構えたシュバルツが出てくる。

 

 普通の人間相手なら十分戦闘不能に追い込める技だった。しかし油断はしない。

 自分があの男ならこの状況を使って奇襲を仕掛ける。とそう考えていると計ったように背後から刀が振るわれた。

 予測済みだと危なげなく受け止めシュバルツはウィリアムに向き直る。

 

「本当に殺す気はねぇみてぇだな」

「・・・・・・・・・・・・」

「急に(だんま)りか・・・」

 

 シュバルツは沈黙のままこちらの一挙手一投足に目を光らせている。

 それならとウィリアムは続けて口を開く。

 

「なぁ、どうして殺そうとしない?」

「・・・姫がそう望むからだ───フッ!」

 

 再び素早い踏み込みで距離を詰めると双剣と蹴りによる連撃を浴びせてくる。

 殺す気はないようだが、それでも防御しなければ大怪我は免れないでろう攻撃ばかり繰り出してくる。

 

「っおいおい!殺さないにしても・・・っ!当たったらただじゃ、っ済まなそうなんだけど!?」

「殺さず戦闘不能にするにはこれが一番手っ取り早い」

 

 首、肩、胸、足首等、当たれば戦闘に支障が出るような箇所ばかりを的確に狙っていく。

 しかし、段々とスピードを上げていくにもかかわらずウィリアムの反応が思った以上に良いせいでなかなか一撃が入らない。

 

「ヨッ!ハッ!ホッ!トリャッ!」

「・・・・・なかなかやるな・・・・・」

 

 業を煮やしたシュバルツは一旦連撃を止める。

 そしてウィリアムを見つめたまま数秒考えると、いきなりバックステップで距離を取ったかと思えばクルっと方向転換をし建物の中へと走って行った。

 

「ハァ、今度は鬼ごっこか?ったく」

 

 文句を言いつつも逃がすわけにはいかないので後を追って建物の中へ入っていく。

 

「何だ?鬼ごっこじゃなくかくれんぼか?」

 

 再び建物内へと戻ったウィリアムは足を止めた。

 シュバルツの姿が消えたのである。

 

 (・・・気配はちゃんとする・・・狭い方がやりやすいってか?)

 

 シュバルツの気配が建物内に留まっているのを確認し全方位に注意を向ける。

 明かりがついていないので視界は悪いが、ウィリアムにとってはこの程度の暗闇などなんら不利には働かない。

 二階部分から気配を感じ、音を立てぬように一段一段階段を上っていく。

 向こうの気配が動かないのは不意打ちを狙っているからだろう。だがこちらも位置はしっかりと捉えている。

 この狭い室内での戦闘にどれだけの自信があるのかは知らないが、はっきり言ってこの状況、ウィリアムにとっては願ったり叶ったりである。

 

 屋根や壁に空いた隙間から吹く風の音だけが建物内に木霊する。

 決着の時は近い。

 

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