Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第101話 緑色の閃光

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 廊下を歩き、ウィリアムはひとつの扉の前で足を止めた。

 

 この部屋だ。あいつはこの部屋にいる。

 

 シュバルツの気配をしっかりと目の前に捉え、刀を鞘より抜くとそのまま上段に構えた。

 

「見~つけ、たっ!!」

 

 かくれんぼの鬼の常套句と共に扉に勢いよく斬り込んだ。

 扉は真っ二つになりながら周辺の壁を巻き込み内部へと吹き飛んでいく。

 こんなものは挨拶程度、ノックの代わりに過ぎないとウィリアムは素早く部屋の奥へと駆ける。

 暗闇の中反撃の隙すらも与えんと一瞬で気配の元へ辿り着くと、抵抗出来ぬように刀の切っ先を突きつけた。

 

「・・・・・何だ?こりゃ・・・・・」

 

 明かりのない部屋の中、ウィリアムの目の前にいたのはシュバルツではなくひとつの小さな人形だった。

 薄汚れており所々糸の解れが目立つ子供を模した人形。

 室内を見渡せば大人一人が眠るには少し手狭そうなベッドに小さな机と椅子が一組、カーテンはやや色褪せているがかわいらしいピンク色をしており、かつては小さな女の子の部屋として使われていたであろうことが窺い知れる。

 机の上には同じような小さな人形がいくつも置いてあることから、今ウィリアムが持っている人形も元々この部屋にあった物だと思われる。

 この部屋にシュバルツの姿はない。だが気配だけはしっかりと感じる。

 そう、目の前の〝人形〟から・・・・・

 

「まさかこの人形に化けてる・・・・・なんてこたぁねぇよな、どう考えても・・・」

 

 一応人形の顔をつついたりしてみるが勿論何の反応も起きない。

 息が出来なくて苦しくなれば変化も解けるのでは?と思い立ち鼻や口の部分を押さえたりもしてみたが、抵抗されるどころか呼吸をしている様子すら見受けられなかった。

 さて困った。シュバルツの気配すらないのであれば直ぐ様探しに行くのだが、目の前の人形からは気配も魔力もはっきりと感じ取れてしまっている。

 この人形がシュバルツ本人ではないにしても何らかの関わりがあることは確かなのだ。

 この人形に気を取られている隙に奇襲をかけるつもりか?

 それともこうやって時間稼ぎをしている間に逃げおおせるつもりなのか?

 どちらにしてもこの人形は囮だろう。そう思い人形を机の上に置こうとしたその時───変化は起きた。

 まるで風船のように人形が膨らみだし、中から緑色の淡い光が漏れ始めたのだ。

 感じる魔力も先程までの穏やかだったものから燃え盛る炎のように荒々しいものへと変化している。

 そう、まるで魔法使いが攻撃魔法を放つ時のような・・・・・

 

「─────ちぃっ!?」

 

 素早く人形を放り投げた次の瞬間、室内を爆風が襲った。

 床板は捲り上がりベッドは壁に叩きつけられ窓は彼方へと吹き飛ばされていき、室内だったその空間はたった数秒で屋外へと変貌してしまった。

 ウィリアムは人形を放り投げるのと同時に側にあった机を盾にし、バックステップで部屋の外へと跳んでいたため直撃は食わなかったが、

 

「大した反応だ」

「クソッ・・・」

 

 シュバルツに背後をとられ、首筋に剣を当てられ身動きがとれなくなっていた。

 

「判断から行動に移す早さ、机を盾にする機転、人形を投げる方向と回避する技術・・・あの一瞬で大したものだ。傷のひとつくらい負ってくれると思っていたよ」

「そっちこそ大したもんだ・・・人形爆弾をトラップにしたとはいえ俺の背後(うしろ)をとるなんてな」

 

 実際シュバルツの技術はウィリアムとて認めざるを得ない程高いレベルだと言える。

 背後に感じるシュバルツの気配は限りなく薄く抑えられており、人形の囮が無かったとしても直ぐに居場所を特定するのは極めて困難だったであろう。

 現に爆風で身動きがとれなくなった一瞬を見逃さず動きを封じられてしまった。

 冷たい空気が流れる中尋問が始まる。

 

「答えろ、貴様は何者だ。なぜ魔人を追っている」

「名前はウィリアム、冒険者だ・・・さっきも言ったが、ある男の指示でお前らを探していた。理由は聞かされてねぇ」

 

 倒れた体勢のまま前を向いて淡々と答える。

 

「その指示を出した男は誰だ」

「・・・それを喋ると思うか?」

「命を懸けてまで守る秘密でもないだろう」

 

 答えを急かすように首筋に当てられた剣が軽く顎を持ち上げる。

 

「けど命をとる気はないんだろう?」

 

 さっきそう聞いたぜ?と笑いながら顔を少しだけ動かしてシュバルツの顔を覗き込みそう尋ねるが、シュバルツの表情は鉄の仮面のようにピクリとも動かない。

 代わりに余計なおしゃべりはするなと再び顔を前に向けられてしまった。

 

「命をとるなとは言われているが、傷を負わせるなとは言われていない・・・・・どういうことか分かるな?」

 

 十中八九、殺さなければ何をしてもいい、という意味だろう。

 爪を剥ごうが腕の骨を折ろうが火で炙ろうが生きてさえいればそれでいい、そういうつもりなのだろう。

 勿論命令した彼女にそういった意図はなかったのだろうが、少なくともこの男は不殺、博愛主義を掲げるような生っちょろい優しい奴ではない。

 しゃべらなければ直ぐにでも尋問から拷問にシフトチェンジするだろう。

 

「痛いのはごめんだなぁ・・・・・だから・・・」

「ならさっさと────っ!」

尋問する(こっち)側に回らせてもらおう」

 

 シュバルツの言葉が途中で止まった。

 新たに現れた第三者に背後をとられたのだ。

 ウィリアムの背後をとっていたシュバルツのそれまた背後、シュバルツの首に刀を添えているのは・・・・・ウィリアムだった。

 

「・・・・・分身か」

「正解!お互い考えることは似てるなぁ」

 

 パチンッ、と指を弾くとシュバルツによって押さえられていたウィリアムが水風船のように弾けて水に変わってしまった。

 

「さてこっちの番だ・・・お前らここで何してた?」

「答える気はない」

「・・・あの二人はどこに行った?」

「答える気はない」

「・・・他に何人いる?」

「答える気はない」

「お前はオウムか!」

 

 答える気はないの一点張りにとうとうツッコんでしまった。

 しかしこの男は本当に答える気がなさそうだ。

 たとえ拷問をしようが決して口を割ることはないだろう。

 それだけの覚悟がこの男にはある。

 

「ハァ、まぁしょうがねぇ。とりあえずお前だけでも依頼者に引き渡す」

「おい」

「あん?」

「お前は言ったな、〝お互い考えることは似てる〟と・・・」

 

 その瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡った。

 しかしシュバルツの戦闘スタイルを考えるとそれ以外に考えられない。

 

 〝分身爆破〟

 

 先程の爆風が脳裏によみがえった。

 

「・・・・・まさかっ───くっ!?」

「もう遅い!」

 

 何をしようとしているのか気付いてその場を跳び退こうとしたウィリアムだが、いつの間にかシュバルツに足首を掴まれており動けなくなってしまっていた。

 シュバルツの体から緑色の淡い光が漏れ出した次の瞬間、閃光と共に先程の比ではない大爆風が辺りに襲いかかった。

 

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