Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第102話 分身には分身を

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 ロドンの街の一角を襲った大爆風は建物を全壊にまで追い込んだ。

 屋根も壁もまるまる吹き飛び、残るのは数本の柱と大量の木片だけ。

 まるでハリケーンでも通過したかのような惨状をシュバルツは少し離れた家屋の屋根の上から見つめていた。

 

「少しやり過ぎたか・・・・・人も集まってきたしここまでだな・・・」

 

 先に逃げたアナスタシア達と合流するため、人目につかぬよう屋根伝いにその場を離れていく。

 その様子を人混みの中から見つめる人物が一人。先程ウィリアムがロドンの街に入って直ぐ出会ったメガネの美人女医だ。

 

「あら、どうやら探し物は見つかったみたいね。黒髪の剣士さん・・・」

 

 フフッ、と意味ありげに笑うとそのままなんだなんだと溢れ返る野次馬の中へと消えていった。

 

◇◇◇◇◇

 

 ロドンの街の端の端、嘗ては馬小屋にでも使われていたのであろうボロ小屋にアナスタシアとアステリオスの二人はいた。

 先に逃げた二人はシュバルツと合流するため、この空き小屋で彼の到着を今や遅しと待っている。

 

「彼、大丈夫かしら・・・」

「なに、末席とはいえ奴も〝魔王に仕えし12騎士(エストレーラ)〟の一人。人間相手に遅れなどとらんじゃろう」

「そうだといいんだけど・・・・・」

 

 彼が強いのはよく知っている。だがどうしても心配する気持ちを抑えられない。

 先程の爆音も魔力からシュバルツの魔法だということは確認できている。

 彼が得意とする風の分身爆破だ。

 分身としての精度も爆発の威力も一級品の技、その技を使うに値する相手だと認識したということはそれなりの強敵だということだろう。

 あれから大きな音も魔力も感じられないので戦闘は終わったと思われるが、未だシュバルツの姿どころか気配すら感じられない。

 後をつけられないように消しているのだろうが、これでは勝ったのかどうかこちらも判別ができず困ってしまう。

 

「あぁシュバルツ、どうか無事でいて・・・」

「勿論、怪我ひとつありませんよ、姫」

 

 手を組み無事を祈るアナスタシアの背後から今一番聞きたい男の声が聞こえる。

 バッ!と勢いよく顔を上げ振り返れば、そこには別れた時と寸分違わぬ状態のシュバルツが立っていた。

 

「シュバルツ!」

「なんじゃ、派手にやっておった割には元気そうじゃな」

「これでも〝魔王に仕えし12騎士(エストレーラ)〟ですからね・・・姫、アリオステス殿、只今戻りました」

 

 変わりない姿に安堵するアナスタシア。

 アステリオスも無事な姿にホッとしている。

 

「しかし分身爆破まで使うとは、それなりの手練れじゃったということか・・・」

「はい、長引かせては面倒だと判断し早々に手を打ちました」

 

 剣術は勿論気配の消し方、察知に至るまであらゆる面で優れていた。

 特に身のこなしについてはまだまだ余裕を感じられた。

 奇襲に次ぐ奇襲で仕留められたのは運が良かったといっていいだろう。きっと次はこうはいかない。

 

「それで・・・あの人はどうなったの?」

 

 シュバルツの無事を喜んでいたアナスタシアが沈痛な面持ちで尋ねてくる。

 彼女は優しい。優しすぎる。

 争いを拒み、敵であっても安否を気にしてしまうお人好しだ。

 故にウィリアムがどうなったのか心配なのだろう。

 

「生きてはいるでしょう・・・ですが、しばらくは動けないでしょうね」

「っ!・・・・・・・そう、直ぐに追ってこられないのは喜ぶべきことなのだけれど・・・やるせないわね・・・・・」

 

 あの爆風を直接食らったのだ。

 足を掴んでいたため受け身もとれず、家屋と共にどこかに吹き飛ばされてしまっただろう。

 一応死なないようにと威力は抑えたが、それでも家がバラバラに吹っ飛ぶ位だ。

 どれだけ体を鍛えていようとどれだけの鎧を着ていようと無傷では済まない筈。

 最低でも骨の二、三本は折れてしまっているだろう。

 そう伝えるとやはり心が痛んだようで、胸の前で手を組んで目を瞑り小さく祈りを捧げ始めた。

 どこまでも優しい、聖母のようなお人だ。

 自分達が守るべき人物の姿を見て改めてそう感じる。

 

「姫が気に病むことではありません」

「そうじゃ、己とワシ等の力量差も分からず挑んできたあやつの自業自得よ」

「でも・・・・・」

「そいつ等の言う通りだぜ、嬢ちゃん」

 

 ここにはいない筈の、爆風の直撃を受けて動けない筈の、この場所を知らない筈の、今一番聞きたくない男の声が、響いた。

 

「俺から売った喧嘩だ。恨まれこそすれ謝罪される覚えはねぇよ────っとぉいっ!」

 

 皆が動揺を見せる中、いち早く正気に戻り胸元へ斬り込んでいったのはやはりシュバルツだった。

 ウィリアムも危なげなく刀を抜き受け止める。

 

「なぜ分身爆破(アレ)の直撃を受けて動ける?」

「おいおい、またそっちの尋問タイムか?・・・そりゃあ・・・」

 

 ギリギリと激しい鍔迫り合いで火花を散らす中空いている左手をひょいと軽く上げると、これまた軽くパチンッと指を鳴らした。

 すると今まさに刃を交えていたウィリアムが文字通り泡となり弾けて消えてしまった。

 ウィリアムが使う水分身だ。

 アナスタシアとアステリオスは驚いているがシュバルツは先程見ているので動じていない。

 

「なるほど、やはり考えることはお互い似ているようだな」

 

 そう言うとシュバルツは鋭い目でアナスタシアを、いや正確にはアナスタシアのすぐ後ろを睨んだ。

 

「そういうこと」

「きゃっ!?」

 

 突然聞こえてきた背後からの声にアナスタシアは思わず可愛らしい声を出してしまう。

 アナスタシアの背後にはいつの間にちかづいたのかウィリアムが立っていた。

 

「悪いな嬢ちゃん、また逃げられたら敵わねぇからよ」

 

 向かってくるシュバルツだけを相手にしていてはまた二人に逃げられてしまう。

 それでは困るということでウィリアムはまずアナスタシアを人質に取ることにした。

 今までのやり取りを見る限りアナスタシアは他の二人より位が高く、最優先で身を守るべき対象だと思われる。

 ならば迂闊に動けなくさせるためにと隙を突いたのである。

 

「さぁ、今度こそ色々聞かせてもらうぜ?」

 

 ウィリアムの尋問タイムが始まる。

 

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