Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第103話 戦いを止めたのは

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 ウィリアムにアナスタシアを人質にとられたシュバルツとアステリオスは怒りに震えていた。

 大気が震えるほどの殺気と共に抑えきれない程の濃密な魔力が体から溢れ出し、ただでさえ劣化し弱っている廃屋の壁が悲鳴を上げるように軋んでいる。

 

「小僧、今すぐアナスタシアを解放すれば()()()()助けてやろう」

「おっかねぇなぁおい・・・こっちはなんとか話し合いで済ませようってのによぉ」

 

 このままでは落ち着いて話し合うどころかここら一帯が吹き飛びかねない。

 アステリオスと呼ばれる魔人の力は未だ見ていないが、溢れ出る魔力と凄まじい圧力からはシュバルツ以上の実力を感じとれる。

 

「やめなさい二人とも!私は大丈夫だから安心して?」

「そうだ嬢ちゃんもっと言ってやってくれ!」

 

 どうやら彼女だけは幾分か冷静でいてくれているようだ。

 ここで戦闘になるのは勿論、それによる住民への被害を出すことだけはなんとしても避けたいところである。

 かといってここで彼女らを逃がすのはもっと避けたい。

 少なくとも彼女らの目的を聞き出し、危険性がないと判断できるまでは解放することは出来ない。

 とは言うものの、このまま彼女らがおとなしく話し合いに応じるとは思えない。

 特にシュバルツとアステリオスの二人は喧嘩上等()る気満々で対話することすらままならないかもしれない。

 どうやらこいつらは相当仲間意識が強いらしい。

 人質をとったのは愚策だったか・・・とウィリアムが思考を巡らせていたその時、その頭上ではひび割れたランプがアステリオスの魔力の圧を受けユラユラと揺れていた。

 そしてとうとう圧に耐えられなくなったのか、柱とランプを繋いでいた紐が途中でプツリと切れアナスタシアの頭上へと落下してきた。

 

「───あぶっ!」

「キャッ!?」

 

 瞬間的に危険を察知したウィリアムはアナスタシアの体を自分に引き寄せ素早く後ろへと跳び退き避けてみせた。

 アナスタシアの目の前にランプが落下しガラスが割れて辺りに飛び散る。

 そこはさっきまで自分が立っていた場所、ウィリアムに引き寄せられなければまず間違いなく自分の頭に直撃していただろう。

 死にはしなかっただろうが傷を負うことは免れなかった筈だ。

 人質である自分を、敵である可能性の高い自分を助けてくれた。

 この男の素性は未だ確かではないが、少しは信用してみてもいいかもしれない。そう思ったアナスタシアだったが、その気持ちを他の二人が知る由もなく、ウィリアムの意識が一瞬ランプに移った瞬間、二人はウィリアムを仕留めるため同時に動き出していた。

 シュバルツは一瞬で気配を消し、アナスタシアがいるせいで死角となり且つ刀を持っていない左手側へと回り込んだ。

 その間アステリオスは素早く地面へ魔力を送り込み、ウィリアムの足下の土を操作する。

 重心を崩すように足下を凹ませその周りからは体を貫く刃へと、熟練の魔術師も真っ青な速さで地面が形を変えていく。

 

「こりゃまずいな!」

 

 アナスタシアを傍においたままでは対処に困ると判断し、その場から離すように背中を押し安全な場所へと追いやる。

 前につんのめりながらもアナスタシアが振り返ると、今にも土の刃とシュバルツの剣に切り裂かれそうなウィリアムの姿が目に映った。

 

「ダメよ二人とも!!」

 

 急いで止めようとするがもう遅い。

 あと一秒も経たないうちに彼は全身を貫かれ絶命してしまう。

 そんな悲惨な未来が見えたその時だった。

 皆の動きが・・・・・〝止まった〟。

 まるで時が止まってしまったかのように皆の体がピタリと静止してしまったのだ。

 いや体だけではない。土魔法による地面の変形も同じように止まっている。

 

「こっ、これは!?」

「っ!まさか!?」

「こいつは・・・」

 

 どうやら顔だけはある程度動くようで三者三様それぞれが驚いたリアクションを見せている。

 そして三人が三人ともこの謎の現象に心当たりがあるという顔をしている。

 何故か一人だけ静止を免れているアナスタシアにもこの光景は見覚えがあった。

 

「三人ともその辺りにしておけ」

「あぁ、来てくれたのね」

 

 誰よりも強く、気高く、今アナスタシアが最も頼りにしている存在。

 プラチナブロンドの髪を颯爽と靡かせその男は現れた。

 

「フルセルク!」

「フルセルク殿!」

「・・・・・・・・・」

 

 フルセルクと呼ばれる男はアナスタシアへ軽く微笑むと止まっている三人の元へと歩いていく。

 フルセルクがウィリアムとシュバルツの目の前に立つと漸く三人は謎の拘束から解放された。

 

「何故止めたフルセルク!」

「ちょっとアステリオス!」

 

 体の自由が戻ったアステリオスがフルセルクに語気強く詰め寄るのをアナスタシアが制止しようとする。

 フルセルクは必要ないとそれを手で制すと、涼しい表情のままアステリオスに向かって答えた。

 

「あのままではシュバルツが斬られていた」

「なにをバカなことを!今の瞬間を見ていなかったのか?あの状態でどうやってシュバルツを斬ることができる!」

「その通りです!仮に私を斬ろうとしても逆にアステリオス殿の土の刃に斬られていただけです!」

 

 シュバルツの剣を防ごうとすれば土の刃に、土の刃を防ごうとすればシュバルツの剣に斬られていたであろうあの場面。

 足下が不安定だった状態で同時に二つを対処するのは不可能だと思われる。

 もしあの状態でシュバルツに刀を振るっていたとしても、満足に力の入っていないやけくその一撃など当たるわけもない。

 

 二人の言い分を黙って聞いていたフルセルクは少し考えると、『なら・・・』と形成途中だった土の刃に目をやった。

 

「これでどうだ?」

 

 コツン、と足のつま先で土の刃を軽く小突くと、ちょうど膝くらいの高さからポッキリ折れてしまったかのように倒れ落ちてしまった。

 ひとつが倒れると周りの刃も連動するように次々と倒れていく。

 

「これは!!」

「そう、この男にとってあの状況はなんらピンチではなかったということだ」

 

 先が倒れた刃の断面、折れたにしては表面が凸凹していない、というか綺麗すぎる。

 まるで人参を包丁で真っ二つに切ったかのようだ。

 もしかしなくてもウィリアムがあの一瞬で切り払ったに違いない。

 だとしたら先程のシュバルツを助けたというフルセルクの言葉もあながち嘘ではなさそうだ。

 なにせこの男は自分達が感知できない程の速さで刀を振るっていたのである。

 あのまま斬り込んでいればシュバルツは返り討ちにあっていたかもしれない。

 それに気付き互いに肩を落とすシュバルツとアステリオス。

 

「過大評価しすぎだぜ・・・・・頭に血が上ってなきゃこれくらい直ぐに気付けたさ」

 

 ウィリアムは刀を鞘に納めながらフルセルクの前に立つ。

 

「相変わらずの謙遜ぶり・・・15年前と変わらないな、ウィリアム」

「おめぇこそ、なんもかんもあの頃のままだぜ、フルセルク」

 

 互いに不適な笑みを浮かべながら睨み合っている。どうやら二人は昔からの知り合いらしい。

 

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