ズルズルズル モグモグモグ
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
割と賑わっている店内で只黙々と蕎麦をすする席がある。
味の感想を言うでもなく、むしろそれに触れてはならないかのように無心で蕎麦をすすっている。
その現状を生み出している理由を知っている店主は苦笑しつつも他の客へ出す蕎麦を作っている。
暫くすると流石に沈黙に耐えられなくなったのか、ハゴロモが口を開いた。
「・・・・・・・なぜ・・・なぜ誰もしゃべらぬのじゃ!!なにも言われぬ方が逆に傷つくのじゃ!」
今まで沈黙を生み出していた原因はハゴロモチームが作った蕎麦である。
先程打った蕎麦を食べ比べしたのだが、どちらの蕎麦が美味かは見るからに明らかで食べるまでもなかった。
ルートチームの蕎麦はきちんと均等な太さに切られておりそのまま他の客に出しても問題ない仕上がりなのだが、ハゴロモチームの蕎麦は太さがバラバラなのだ。
素麺のような太さのものや本に挟む栞かと見紛うばかりのものなどとにかくバラバラなのだ。
蕎麦は均一の太さに切らねば茹でたときに火の入りがまばらになり風味を損ねたり食感が悪くなってしまう。
それなのにここまで太さがバラバラな蕎麦が美味しいわけがない。
原因はもちろんハゴロモの切りの工程だ。
店主は堪らず打ち直そうとしたのだが勝負事だからと止められそのまま茹でて仕上げてもらった。
美味しくないだろうとははじめから分かっていたのだが、コレを生み出した本人であるハゴロモが何も言わないので誰も触れられず今に至っているのだ。
「美味しくないのは妾とてよう分かっておる!せめて笑い話にでもしてくれ!」
自分の料理センスのなさに泣きそうになっている。
いや、料理センスの問題なのか?ルートの手本のような蕎麦切りを横で見ていたのにも関わらず、押さえの板も使わずルートのスピードに対抗してめった切りにしていた。
『アハハハハハッ』と高笑いしながら蕎麦を切るその姿に狂気を感じた面々は何も言えず、止めることもできずにいた。
「いや~、自分達で打った蕎麦は格別だね」
「貴重な経験させてもらったよ」
「やっぱりできたてはコシが違うッス!」
ハゴロモチームの蕎麦のことには触れず自分達の蕎麦の感想を言い合う。
「ぬぅぅぅ~、あくまで妾達の蕎麦には触れぬ心積りか・・・」
「しょうがないでしょう・・・私達もあまりコレには触れたくありませんし・・・」
「美味しくないよぉ~」
自分達の主の不甲斐なさに呆れる二人。
自分達がほぼ万全の状態でバトンを繋いだのにそれを台無しにされたのだ擁護はできないだろう。
「しかし、切り方ひとつでここまで味が変わるとは・・・蕎麦は奥が深いなぁ・・・・・」
流石にかわいそうに思ったのか、ルートはようやく双方の蕎麦に触れた。
沈黙もなくなり、その後はお互いの蕎麦の感想などを語り合い楽しい食事を楽しんだ。
「なんだこの店は!!!」
突然怒号が店内に響き渡る。
皆が何事かとその声の方へ視線を向けると豊かな髭と見るからに高そうな服を身に付けているいかにもな貴族風の男が店員に怒っていた。
「うまい蕎麦があると聞いてきてみれば、周りの輩はやかましい上に個室も無い!そもそも誰も吾輩に頭ひとつ下げぬでわはないか!吾輩を誰だと思っている!?トレス王国が男爵、ガルパス・フォン・プールスであるぞ!!」
やはり貴族だった。
トレス王国の貴族ということは外交で此処に訪れているのだろう。
しかし外交先でこのような騒ぎを起こすとはバカなのだろうか?
そう思っているとハゴロモが立ち上がった。
「なんじゃお主は?妾達は楽しく食事をしておるのじゃ黙っておれ」
男爵相手にズバッと言い放った。
「な、なんだ貴様は!吾輩が男爵と知っての物言いか!?」
「お主がどこの誰かなど関係はない。ここは楽しく食事を楽しむ場ぞ、静かに食事を楽しみたいのであれば店を間違えておるぞ」
「なんだとぉぉぉ!吾輩が直々に店に出向いてやっているのだぞ!?店側がそれに合わせるのは当然であろう。他の客などとっとと帰すのが常識よ」
男爵の物言いに客達はイライラして睨みをぶつけている。
それでも反論しないのは相手が男爵だからだろう。
「そのような自分勝手な常識をこのような大衆向けの店に求めるな!まぁ、仮にそのような店があったとしてもお主にそこまでの価値があるとは思えぬがの・・・」
完全に正論だ。
客達はよくやったという顔をしているが男爵は顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
「この吾輩をここまでこけにしおって・・・・・ええい貴様!表に出い!叩ききってやるわ!!」
またしてもトラブルに巻き込まれてしまった。