「ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!??」
男の悲鳴が聴こえたと思ったら再び辺りを静寂が支配する。
エミリーは困惑していた。
誰かが助けに来たのか?
彼らが仲間割れでも起こしたのか?
もしかして魔物でも襲ってきたのか?
エミリーは暫く考えたが、辺りは静かなままだ。
コツッ コツッ
誰かが上がってくる。
この部屋に、自分に近づいてくる。
恐い。恐い。死にたくない。死にたくない。
ここまで心を強く保ってきたが、やはり年頃の少女。
どんなに頑張っても恐怖には勝てない。
(神様! 助けて!)
コツンッ
自分の後ろで立ち止まった。
すると
パサッ ブチッ!
目隠しと縛られていた縄が外された。
「あなたのお父上の依頼により助けに来ました。」
そこには褐色の肌になめらかな白銀の髪、見ているだけで吸い込まれそうな漆黒の瞳をした少年が立っていた。
「え!?えと・・・あ、あなたは?」
自分を助けに来た人だとは分かりきっているが、あまりに突然なことにエミリーはそう聞いてしまう。
「自分は冒険者の"ルート"と申します。ご安心を、輩達は全員倒しました。後は貴方を街へ連れて帰るだけです。」
少なくとも、自分を拐った奴らだけでも5人以上はいたはずだ。
それを皆、しかも音もたてずに倒したというのか?自分とそう歳もかわらなく見えるこの少年が?
エミリーが驚いて何も言えないでいると、
「大丈夫ですか?どこか怪我でもなされましたか?」
少年にとっては造作もないことのようだ。
返り血ひとつ浴びていない。
「だ、大丈夫です。あっ、助けていただきありがとうございました。」
自分がまだお礼を言ってないことに気づき、慌てて礼をする。
「いえ、仕事ですから。・・・さぁ、外に馬を用意してあります。早く帰ってお父上に元気な顔を見せてあげましょう。」
「・・・・・」
どこまでも紳士的で、恐怖から救ってくれた。その上顔も良いとなれば見惚れてしまうのは無理もない。
「エミリーさん?聴こえてますか?」
「ハッ!?す、すいません!!そうですね。早く帰りましょう。」
赤くなった顔を見られるのを避けるため、部屋から出ようと立ち上がる。が、
「キャア!?」
「おっと、大丈夫ですか?」
長らく縛られていた上、今は靴も履いていない。
それを忘れていてつい転んでしまった。
ルートは素早くエミリーを抱き止めて転倒を防ぐ。
「ご無理をなさらないでください。自分が下までお連れします。」
そういうと、ルートはエミリーをお姫様抱っこすると、馬の元へと歩き出した。
「エェ!?いや、そこまでしていただかなくとも!」
「いえ、このくらい軽いものです。」
「うぅぅ///」
エミリーはもう真っ赤ッかだ。
意味が違うと分かっていても、軽いという言葉に反応してしまう。
それに、お姫様抱っこなど初めてだし、この体勢だと自分の赤面を彼に見られてしまう。
「わ、私が連れ去られたのはお昼のことなのに、ず、随分早く来られたのですね///?」
自分を落ち着けるため、疑問をぶつけてみた。
「あなたが連れ去られて直ぐ、身代金の要求が届いたそうで、あなたの身の安全を心配されたお父上が冒険者ギルドに依頼を出したのです。人質になった方は大抵無傷では済まないので、今回は少し急ぎました。」
「そ、そうですか///」
ルートの答えにエミリーは嬉しく思う。
自分が心配で急いできてくれたのだ。
「それに、相手が誘拐の素人で助かりました。」
「え?彼らは武器を持っていましたし、特に変なところは・・・」
そうだ。
拐われたときも素早かったし、手紙でのやり取りで相手に直接接触はしていない。
自分には手馴れたプロにしか見えなかった。
「拐った時間が昼で、人通りも決して少なくない場所でしたし、街から出ていくところも人に見られています。逃げた先は砂地だったので馬の足跡を辿られやすい。見張りも一人ずつで数も多くなかった。武器も手入れがずさんなものでしたし、素人ですよ。」
確かに言われてみればそうなのかもしれないが、この短時間でそれらを見極め、一人で乗り込み制圧するなんてすごい思った。
「ず、随分慣れた様子ですね?なら、プロの誘拐犯ならどう連れ去られるのかしら?」
「そうですね。・・・まず、あなたの行動パターンからあなたが夜一人になるところを狙い誘拐。夜中のうちにこっそり街を出ます。そして朝に身代金要求の手紙を送ります。」
「なぜ朝まで待つの?」
「自分達が逃げるまでの時間稼ぎと、逃走した際の痕跡を消すためですね。砂地なら夜風できえてくれますから。」
なるほど、それなら確かに足はつきにくい。
そう考えると今回の犯人の計画は少しずさんだったのかもしれない。
「見張りは二人組。もしくは一人一人が目の届くところに配置する。ですかね?」
「それはなぜ?」
「今回のように誰かに奇襲された際、他の仲間に直ぐ知らせるようにです。」
本当によく考えている。
とても同世代くらいとは 思えない。
と、そうこうしていると馬の元へとたどり着いた。
「さぁ、帰りましょう。お疲れでしょうから寝ていてもよろしいですよ?」
この時間が終わってしまうのは淋しいが、心身ともに疲労が溜まったからか、エミリーは直ぐに眠ってしまった。