ケンカ祭り本選一回戦第一試合目、終始攻勢に出ていたイーラが優勢かと思われていたが、エリアルドがたった一撃でイーラを倒してしまった。
あの巨大で打たれ強そうなイーラを一撃で沈めた。
その事実が予選でのルートの活躍を消し去るかのように会場を熱狂させた。
しかし、観客達以上にエリアルドの実力を認めているのは本選出場者達だ。
実際エリアルドが何をしたのか、何が凄いのかを理解している人は僅かだろう。
現に会場の盛り上がりに反比例するかのように控え室は静まり返っている。
「どうなったんスか今の!?急所に当たったようには見えなかったんスけど・・・?」
今の一撃がよく見えなかったのか、イーラが倒れたことに驚愕しているロック。
「いや、当たったよしっかりとね・・・強烈なのが顎に・・・」
「・・・?でも、顎に当たったんならなんでエリアルドさんは吹っ飛んだんスか?」
「それは───」
「それはエリアルドがイーラの顎を殴ってはいなかったからじゃ」
「???」
メアリーの代わりに今日もモリモリ屋台飯を食べていたハゴロモが説明する。
「簡単な話じゃ・・・イーラの一撃にカウンターを与えイーラは自身の拳を顎に受けてしまった・・・それだけじゃ」
「なんでそんなことを?」
「エリアルドは自分の力だけで相手をダウンさせるには時間と手間がかかると思ったんじゃろう・・・それに、まだ一回戦じゃからな」
「ハゴロモ様どういうこと~?」
ロックだけじゃなくカンナも首を傾げて聞いてくる。
「優勝するにはあと最低三回戦わなければならぬ・・・これから戦う相手が試合を見ている中自分の力をわざわざ見せてやりたくはないじゃろう?そのため奴は真っ向から戦わず最小限の力で倒そうとしたのじゃ」
「「なるほど~~~」」
二人してウンウンと首を振っている。
実際凄いものだとハゴロモは思う。
昨日今日会ったばかりの、ましてや今回初めて戦う相手の攻撃に対して完璧なカウンターを決めるなんて相当実力がないとできないことだ。
イーラの攻撃を紙一重でかわしながらもしっかりと動きのクセを見極め仕掛けるタイミングを探っていた。
あの体躯から繰り出される一撃だ。
例え擦っただけでも相当なダメージがある筈、それを身体に当たるギリギリまで見極めるなんて相当な胆力と集中力がなければ出来ない。
・・・これと戦う場合ルートはどんな戦いを見せるのか楽しみだ。
「準備が終わりましたので二試合目を始めたいとおもいます」
ハゴロモが物思いに耽っている間に準備が終わりアナウンスがされる。
それと同時にルートが出てくる。
予選で活躍していただけに歓声が湧く。
その中にはエリアルドのようにもっと自分達を興奮させてくれというようなメッセージも含まれているのだろう。
さて、いよいよ僕の番だ。
これからのことを考えると下手に実力を見せるわけにはいかない。
エルのようにまずは様子見かな?
「エリアルドサン凄カッタデスネ!僕達モ熱イバトルニシマショウ!!」
カタコトながら話しかけてくるのは僕の対戦相手、Eブロックを勝利したケイン選手だ。
なんでもこの町出身で僕と同じ15歳、今年ようやく出場資格を得られて念願のデビューだったらしい。
小さい時からこの祭りを見てきて優勝するのが夢だったそうで、全てはこの祭りのために鍛えてきたと意気込んでいた。
「さぁっ!まだ一試合目の興奮冷めやらぬままですが続けて参りましょう!二試合目、開始ィィィ!!」
カァァァンッ!とゴングが鳴りケインが構える。
どうやら様子見する気は全く無いようで一気に突っ込んできた。
・・・・・・・十分後
「ハァ、ハァ、ヤリマスネ・・・!」
少し息を乱しながらケインが言う。
この十分間、ケインはずっと攻め続けていた。
ルートはそれを捌き、かわしていた。
流石はこの祭りのために鍛えてきたと豪語しただけのことはある。
「そろそろネタ切れかな?」
「イエ、マダ行ケマスヨ!」
そう言うや否や、再び激しい連激を仕掛けてくる。
「な、なんか凄いッスねあの人・・・」
「いろんな技ばっかりだね~!」
ロックとカンナはケインの技の量に驚いていた。
というのも、ケインは幼少の頃からこの祭りを見てきたため、いろんな選手の動きや技を目に焼き付けては練習して自分のモノにしてきた。
そのため、流派は元より打撃や締め技、全くタイプの違う武術を使用してくる。
クセを見つけようにも技の数が膨大でなおかつ相手の動きを見てから反応して技を仕掛けてくるので質が悪い。
同じ様なシチュエーションが何度かあったが繰り出す技は毎度違った。
恐らく本能的に警戒しているか、もしくはなんとなく違う技の方がここでは合っていると思ったのかもしれない。
だが、それでもルートは涼しい顔のまま冷静に捌き続けている。
「ハァ、ハァ、何デ当タラナインダ?」
今まで何十、いや何百という技を放ってきたのに未だにまともに当たっていない。
闘志こそ最初のままだが流石に困惑の表情を隠しきれない。
「・・・うん、技の種類は悪くない、むしろ多すぎるくらいだよ。ただ・・・・・」
「タダ・・・?」
「君だけのモノに出来ていない・・・ッ!」
「ガッッッ!?」
一瞬の隙を突かれ掌底を胸に受ける。
後ろに飛ばされ咄嗟に受け身をとり起き上がるが追撃はしてこない。
「ハァ、ハァ、僕ダケノ、モノ?」
胸は少し痛むが大丈夫、まだやれる。
「それだけの武術を身に付けるのはさぞ大変だったろう?でもね・・・それだけじゃあダメなんだ・・・今の君は拾った武器を手当たり次第身に付けているだけなのと同じなんだ」
「・・・・・!!」
「君の見てきた選手達の技はさぞや凄かったんだろう・・・きっと必死に修業して身に付けたんだろうね・・・だからこそ君は君だけの武術を極めるべきだ。でなければ君は一生ケンカ祭りで優勝はできない」
「ソ、ソンナ!」
「今の君じゃあ一流にはなれない・・・」
そこまで言うとルートは一気にケインに近づく。
「・・・!!?」
咄嗟に反撃するケインだが、より速いスピードでいなされ気づいたときには身体が宙を舞っていた。
ダァァァァァンッ!!
「カハッッッ!!」
地面に叩きつけられてからようやく自分が投げられたのだと理解するが、
「マ、マイリマシタ・・・・・」
自分の鼻先数ミリのところで止められた拳を見て敗けを認める。
正直反応できなかった。
「勝者!ルートォォォォォ!!」
ワァァァァァァァァァァァ!!!!
またしても歓声が舞う。
「僕ノシテキタ事ハ無駄ダッタンデスネ・・・」
自分の身に付けた技では優勝できない・・・余程ショックだったのだろう、すっかりうなだれている。
「いいや無駄じゃないよ?」
ルートが顔を覗き込みながら言う。
「デモ!僕ノ技ジャア一流ニハナレナイッテ!」
「"今の君じゃあ"って言った筈だけど・・・」
「エ・・・?」
「今の君には余計なものが多すぎる。自分にはいらない、合わないモノは排除していかなきゃ」
「排除シテイク・・・?」
「そう・・・人生に無駄な事なんてない。けど、その全てを自分のモノにするには人間は小さすぎる。だからこそ、自分の身の丈に合うように周りを切り取っていかなきゃ・・・・・・って、師匠の受け売りなんだけどね」
「・・・・・・・・・・」
ただ黙ってルートの話を聞くケイン。
次第に涙が溢れてくる。
「いろいろお節介なこと言っちゃったね・・・じゃあもう行くよ」
そう言って試合会場から出て行くルート。
「アノッ!!アリガトウゴザイマシタッ!!」
涙で顔はぐちゃぐちゃだがハッキリとした声で感謝を告げる。
声だけでない、その瞳にも今まで以上の闘志がみなぎっている。
会場からは歓声だけではなく拍手も送られている。
それは勝者に送られたものか、はたまた明日へと一歩踏み出した若者に送られたものかは分からない。