準決勝二試合目、ルートとジーコの対戦。
ゴングが鳴ってから数分、未だ互いに動いてはいない。
暫くは独特な緊張感で包まれ静寂を守っていた観客達も不満を漏らし始めていた。
しかし、それを背に受けながらも二人はまったく意に介していないようでただ互いの一挙手一投足に注意を払い続けている。
見ている観客は退屈かもしれないが、ある程度戦闘経験がある者にしてみれば実にハイレベルな戦いだと口を揃えて言うだろう。
というのも、二人は動いていないように見えて実は細かな仕掛け合いをしているのだ。
呼吸のリズムや重心の位置などを見て相手の動きを予測し、細かなフェイントを挟みそれに対しての反応を見て攻撃するタイミング、箇所を計っているのだ。
(・・・・・隙がないな・・・・・反応が速いから迂闊には手を出せないな・・・・・かといって向こうから動いてくれるようには見えないし・・・しょうがない、動いてみるか)
そこからは苛烈だった。
ルートの攻撃をジーコが捌いていく。
殴り、蹴り、投げ、あらゆる攻撃を防いでいく。
予選、本選と力を見せつけ観客の目を惹いてきたルートに隠れてはいるが、このジーコも相当な実力者である。
派手さこそないが、ここまで無傷で勝ち上がってきたのはこの二人だけなのだ。
「フム、若いのにかなりの鍛練を積んできたようじゃな・・・しかし無駄じゃ。わしには未来が見えとるからな・・・」
「・・・未来?」
「そうじゃ・・・おぬしが繰り出す攻撃も見えておったから防げた。それだけのことじゃ」
ジーコの言うことが本当ならこちらの攻撃はあらかじめ分かっており、あとはそれを防ぐだけ・・・なんならカウンターも決め放題ということだ。
「さ、流石に冗談ッスよね?」
「当たり前だろ?そんなのあり得ないさ」
信じられないといったロックにあり得ないと一蹴したが、メアリーの内心は否定しきれずにいた。
現にルートの攻撃をここまで完璧に防いでいるのだから。
息を乱していないのはルートも同じだがジーコはまだ攻撃していない。
これは長期戦になる・・・・・メアリーはそう思った。直後だった。
ダンッ!!ババババババッ!!
ルートがジーコの元に飛び込み攻撃をしだした。
しかも先程よりも動きが速い、身体強化の魔法だろう。
しかし、ジーコはそれすらも防ぎきる。
これでもダメかと、メアリー達が悔しがる最中、ルートは見逃さなかった。
ジーコが流した、一筋の冷や汗を。
「さっきの話、半分嘘でしょ?」
「・・・なに?」
「未来が見えるって話」
「あんなのが『未来が見える』力なんだったら僕にも使えるよ」
「あれはわしが二十年の鍛練の末に身に付けた力。お主のような若僧には使えるはずがない!」
「なら攻撃してみなよ?」
そう言って挑発すると、ジーコは一瞬躊躇ったが癪に障ったのか攻撃してきた。
先程のルートにも劣らぬ激しい攻撃、しかしルートはそれをジーコのように全て防いでみせた。
「!!?くっ、ならばっ!!」
少し動揺したジーコだったが、身体強化をさらに上げ本気の攻撃を繰り出した。
そのスピードはもはや素人には目にも止まらぬ速さで何が起こっているのか分からない者が多いだろうがメアリーには見えていた。
ルートも身体強化を上げそれらを防いでいたのだ。
流石に余裕綽々ではないが安心して見ていられる。
思わず笑ってしまうメアリー。
「バカな!?本当にお主も未来が見えるのか?」
「僕に防がれる未来は見えなかったの?・・・だから言ったでしょ。僕にも使えるって」
「えぇっ!?ルートくん本当に未来が見えるンスか!?聞いてないッスよ!!」
「バカだねぇ、未来なんて本当に見えるわけないだろう?まぁ、それに近いものは見えてるんだろうけどねぇ・・・」
ロックが『そんな凄い力があったなんて』とキラキラした目でルートを見ているので軽くつっこんでおく。
「あなたは未来が見えているんじゃない、未来を予測しているだけだ」
「!?」
「おそらく無意識だろうけど、身体強化を目に多く使ってるんだよ。それで敵が動く瞬間の筋肉の動きや反応を最速で察知してるんだ。20年の濃密な戦闘経験がそこまでの反応を見せてるんだろうね・・・」
「でっ、でもっ!それじゃあ相手が動くのは察知できてもどんな動きかまでは分からないんじゃあないッスか?」
いつの間にか観客席の最前列まで移動していたロックがルートに聞く。
「そこまでの察知能力を身に付けられたなら微妙な筋肉の動きの違いからどう攻撃してくるか分かっても不思議じゃないさ」
「なるほどぉ・・・ん?じゃあまだ若いルートくんはジーコさん以上の濃密な戦闘経験があるンスか?」
「・・・うん・・・まぁ、師匠が・・・スパルタでね・・・・・」
少し遠い目をするルート、何があったのだろう。
「そうか、わしには未来は見えておらんかったのか・・・」
「無意識のうちにその境地へ至ってたのは凄いと思うよ」
「おぬしが言うと皮肉に聞こえるが、まぁありがたく受け取っておこうかの」
「それで・・・決着を着ける?」
「フッ、決着ならもう着いておろう。わしの敗けじゃ」
「・・・いいの?」
「勝てぬと分かっていながら無駄に挑むことはせん。それにこれからもう一戦しなければならんからのぉ。なぁに、お主の本気は決勝でしっかりと見せてもらおう」
そう言ってジーコは会場を後にした。
ちなみに、お昼をはさんで行われた三位決定戦エムゥ対ジーコは、攻撃が当たらぬ上に向こうから仕掛けてきてくれないからとエムゥが早々に降参した。
本人はエリアルド戦の疲れがまだ残っているからと言っていたが、実際のところはどうなのだろう。
さぁ、残すは決勝戦。
エリアルドとルート、優勝は果たしてどっちか・・・
「・・・・・そろそろ、動くかの・・・・・」