ついに一撃がエリアルドに入った。
くっ、何が起こった!? 確かに当たっていた筈だ。あのタイミングでかわせるワケがねぇ!
エリアルドは混乱していた。
攻撃を受けたことは勿論、目の前の敵を一瞬とはいえ見失ってしまったことに衝撃を受けていた。
しかしまだ試合中、いつまでもこのまま悩んでいてもしょうがないと、攻撃を受けてからコンマ3秒ほどでその場を飛び退いた。
落ち着け俺、まずは整理だ・・・あいつは俺の目の前から消えた。なら瞬間移動とかの魔法か?いや違うな、そんな魔力の変動はなかったし、そもそも身体強化以外の魔法は禁止の筈だ。あいつがそんなマネするとは思えねぇ。なら幻術かなんかを見せられてた・・・ってわけでもねぇか。
鳩尾へのダメージを回復しつつ先程の攻撃の考察をするエリアルドだったが、どうしても答えが出ない。
勿論ルートもそんな時間に付き合ってくれる筈もなく次なる攻撃を仕掛けてくる。
「ちっ、考えてる暇もねぇな!まぁいい、今度は油断しねぇ。お前が何をやってんのか見切ってやるぜ!」
そう言って防御体制をとるエリアルド。
その目はルートの一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりにルートを睨み付けている。
それがすでにルートの術中であるとも知らずに・・・
それからいくつかの攻防があった。
相変わらずルートが目の前から消えては次の瞬間攻撃が入ってくる。
それでも、冒険者としての勘から致命傷となりそうな急所への一撃は避けていた。
「くそっ、何とか致命打はさけてるが、まだ動きを捉えられてねぇ・・・何となくあいつの"消える"タイミングはわかってきたけど・・・このままじゃ先にガス欠おこしちまうぜ」
何となく、本当に何となくだがルートの攻撃を直感で避けられるようになったエリアルドだが、ルートの消える原理を突き止められてはいなかった。
魔法を使っていない以上人間に出来ることには制限がある筈だが、まるで煙のように消える原理がエリアルドには分からない。
これはルートが圧倒的優勢だと誰もが思ったが、ルート自身はそうは思っていなかった。
・・・まさかここまで粘られるなんて・・・・・あの一撃で仕留められなかったのは痛かったな。
少しずつこっちの動きにも慣れてきてるみたいだし、エルの能力を考えると、もうかすっただけでも決まっちゃうだろうなぁ・・・
ルートもまさかここまで長引くとは思っていなかった。
いや、エリアルドの能力を考えるとここまで長引かせたくなかったという方が正しいだろう。
『ダメージを受ければ受けるほど攻撃力が上がる』
デメリットが多そうな能力だが、エリアルドのタフネスと危機察知能力による急所回避が組合わさると本当に面倒くさい。
長引けば長引くほど一撃必殺の危険があるのだからたとえ有利でも油断できない。
早急に終わらせる必要がある。
そう思い立ったルートはできれば使いたくなかった奥の手を使うため最後の攻撃を仕掛けることにした。
ん?向こうも何か考えてると思ったが、覚悟決めたみてぇだな・・・なんとしても一撃決めねぇと勝てねぇ・・・ていうかメアリーちゃんにいいとこ見せれねぇのは困るぜ!
狙うはカウンター。あいつが消えたあと、出てきた瞬間にちょっとでいいから当たってくれよ?
今の自分の一撃の威力に期待を込め、多少大きなダメージを負うことになろうと次で決めるとこちらも決意をし構えるエリアルド。
今までと同じように数度打ち合い・・・・・またしてもルートが消える。
が、それは想定済み、問題はどこに現れるかだ。
エリアルドは全神経を集中させる。
どこだ?どこに現れる?
─────ッ!?
消えた瞬間から本当に一瞬、エリアルドは自身の右後ろに気配を感じた。
反射的に裏拳を繰り出す。
必殺の威力を持った裏拳がルートに迫る。
これは避けられない、自身にも言えることだがエリアルドはこの攻撃の成功を確信した。
次の瞬間─────フッ
「─────えっ?」
そんな間抜けな声が出てしまった。
ルートの拳がエリアルドに、エリアルドの裏拳がルートに当たるというその瞬間、 "また" ルートが消えたのだ。
バカな!?また消えた?いったい何がどうなっ────!!!??
今度は考える余裕すらなかった。
なぜなら
「アアアァァァァァァァアッ!!!??」
必殺の一撃を受けてしまったから・・・・・
あまりの激痛に動けないエリアルドはただ叫ぶことしかできない。
しかし、そんな無防備なエリアルドをルートが放っておく訳がない。
「陰月流、無刀、"月華"!」
ルートの神速の連激が無防備なエリアルドの全身の急所を正確に攻撃していく。
抵抗もなく一方的な攻撃は10秒もかからなかった。
ルートが動きを止めるとエリアルドは白目を向いてゆっくりと後ろに倒れていった。
""股間""を押さえたまま・・・・・
そうである。
エリアルドの動きを止めたのはルートによる金的、男性ならば想像しただけで悶絶してしまうあの金的だ。
その一部始終を見ていた男性の観客は皆股間を押さえて顔を青くしている。
その一部始終を見ていた男性の観客は皆エリアルドに同情の視線を向けている。
そう、観客には"見えていた"。
観客にはルートが消えているようには見えなかったのだ。
「いっ、今のなんだったンスか?何か相手がちょいちょいルートさんを見失ってたみたいスけど・・・」
「あぁ、それは実際・・・に・・・あれ?ハゴロモ達はどこ行ったんだい?」
ルートの技を解説しようと股間を押さえているロックの方を向いたメアリーだったが、ハゴロモ達がいつの間にかいなくなっていたことに気づいた。
「あれ?そう言えばいつの間に?」
どうやらロックもいついなくなったのか分からないらしい。
メアリー、ロック、ハゴロモ達の順番で座っていたので気づかなかった。
が、ご飯でも調達しに行ったのだろうとあまり気にせず解説を続けることにした。
「あれは"影法師"って言ってね、相手が自分を強く意識しているときに気配を消して相手の意識から外れて攻撃する技さ。お互いが高速で動きあってて自分に意識が向いてれば向いてるほど消えたように感じるらしいさね。まぁ、こればっかりは体感してみないと信じられないだろうけど」
「きっ、金的も技の一部だったンスかね?」
「いや、あれは苦肉の策だったんじゃないかい?相手が結構タフだったから適応されるのを嫌がったんじゃないかい?」
なるほど~と未だ股間を押さえて納得しているロックを尻目に、司会に勝利宣言されて観客に営業スマイルを振り撒いているルートを見つめるメアリー。
長年連れ添っている相棒とも言える少年が皆から祝福され歓声を浴びているのを見ると何だか自分のことのように嬉しくなってしまう。
これは今日はお祝いだと、好物のケーキでも買ってやるかと、たくさんのケーキに囲まれて至福の表情を浮かべる少年を想像して思わずにやけてしまうメアリー。
そんな彼女らを遥か上空から見つめる二つの赤い瞳、メアリー達に今、危機が迫っていた。