Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第36話 ルートの闇魔法

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初めはジーコが圧倒していた。

歳もあり全盛期の技のキレが落ちていたが、魔人化して身体能力が跳ね上がったことで全盛期以上の動きを見せていた。

エッチャーのように手数で、エムゥのようにパワーで勝負をしてこなかったジーコ。

それは第一に柔術という流派、次に体格などの身体的な面があったからなのだが、決して柔術だけを鍛えてきたわけではない。

実戦では一切使われてこなかったが、あらゆる流派、それこそ格闘術だけではなく剣や槍などの武器の扱い、戦い方を日々修練してきた。

それは柔術に限界を感じたからではない。

むしろ無限の可能性を感じ、それを極めんとする為であった。

戦場ではルールなんてものは存在しない。

殺らなければ殺られる、そこに男も女も大人も子供も関係ない。

だからこそ、ジーコは戦場に出た。

己の武を極めるため。

己の武を最強だと証明するため。

そんな果てし無い武の極みを探し始めて数十年、身体の限界を感じ始め昔のようにどこか荒々しくも繊細な動きが出来なくなっていたこの頃。

エヌルトの件もあり武を諦めようとしていた時に復讐のため参加したケンカ祭り。

久し振りに純粋な武に触れ、気付けば本気で楽しんでいる自分がいた。

もしこのまま武を楽しめ続けられたらどんなに幸せだったろう。

しかし時は来た。

純粋に武を楽しみたいと思うのと同じ、いやそれ以上に復讐の闇が自分を包む。

準決勝で戦ったルートとまたしても一対一だが、自分は魔人化、ルートは本来のスタイルであろう刀を使っている。

いくら先程は負けたといっても今は状況が全く違う。

ルートが刀を使ってどのくらい強くなるのかは分からないが、少なくともジーコの力は先程迄の十倍以上になっているだろう。

ただでさえ柔術は少ない力で相手を抑える武術なのだ。

その力が何倍にもなった今のジーコなら巨大なマンモスの魔物でさえ軽々といなしてしまえる実力がある。

そんな力、技、スピード全てを兼ね備えたジーコの猛攻に刀を持っただけで魔人化も何もしていないルートは防戦一方だった。

今までは。

 

 

 

「(・・・・・ふぅ、何とか慣れてきた・・・・・まさかここまで身体能力強化を使わされるとは思わなかったな・・・・・)」

 

ジーコの猛攻を辛くも紙一重でかわし続け流石に冷や汗をかく。

 

「(多分本人も気付いていないだろうけど、まだ身体に慣れていないのか僅かにズレがある・・・・・問題はあの固い皮膚だな。チマチマ攻撃してたんじゃチャンスが無くなる)」

 

より力強く、より速く動くため、身体強化の魔法をもう一段階上げる。

 

「(いや、まだだ。この後の魔人戦を考えるならより確実にいくべきだ!)」

 

そう思いさらにもう一段階強化する。

見た目こそ変わってはいないものの、今の身体能力は魔人化しているジーコとさほど変わらないレベルまで引き上げられてる。

スピードに関して言えばルートの方が勝っているだろう。

 

「行くぞ!」

 

一瞬にしてジーコとの距離を詰めるルート。

ジーコもそれに反応して動く。

この動きは居合で胴を横に薙いでいく筈、ならば左手で刀の柄を押え勢いを利用して顎に強烈な突きを喰らわせてやろう。

と、そう考えたのか勝手に反応したのかはわからない。

それでもジーコの体は動いていく。

ジーコの左手が柄に触れる、その瞬間・・・・・

───ルートの姿が消えた。

 

「 ッ!!?」

 

これはエリアルドも体験したルートの技。

 

「"影法師"。からの・・・"(アヤメ)"!」

 

完全無防備なジーコの背後から居合一閃、黒い闇の魔力を纏った一撃が下から上へ斬り上げられる。

ズバァァァッ!と固い皮膚を打ち破り赤い鮮血を撒き散らす。

しかしエリアルド戦で見たからか、咄嗟に前へと踏み込んでいた為致命傷には成り得ない。

 

「グゥゥゥウウヴ、フ、フクシュウ、ヲ、ハタ、スマデ、ハァァァ!!」

 

痛みに呻いている中で確かに聞こえた。

完全に理性を無くしていると思われていたがまだ魂の奥底に自我が残っているのかもしれない。

 

 

 

「ほぅ!少なからず自我が残っているとはうれしい誤算だ!これは次のステップに進むのが楽しみだ!」

「よそ見しておる場合かっ!」

「おっと・・・」

 

飛んできた岩を軽々と避ける。

お返しとばかりに炎弾をハゴロモへと放つが土の防壁によって阻まれる。

 

「おいおい邪魔をするなよ・・・お前の相手は後でちゃんとしてやるからさぁ・・・」

 

空気読めよお前とばかりに軽蔑の眼差しをハゴロモへ向けるバーズは、先程から魔人達の戦いを眺めているばかりでハゴロモを倒しに来るようなそぶりが全くない。

本当に戦闘データを取りに来ただけのようだ。

ハゴロモもそれを分かっているからこそ全員が揃うまで無茶な攻撃を仕掛けずにいる。

 

 

 

「エヌ、ルトォォォォォッ!!」

 

ジーコの自我の残骸が叫ぶ。

本音では今すぐにでもエヌルトをここに差し出してやりたいがそれでジーコが収まるとは思えない。

エヌルトを殺しても活動がそこで終わることはなく、きっとその後は目的を失いただ暴走するだろう。

最早ジーコとも呼べないであろうモンスターは今ここで倒さなければならない。

ルートとしても武人のまま終わらせてあげたい。

だから、斬る。

悲しい復讐劇をここで文字通り絶ち斬る為に。

 

「"敷夜(フヨウ)"」

 

そう唱えるとルートの足下から闇の魔力が広がっていく。

半径20メートル程まで広がると、そこから黒い霧のようなものが出始め辺りは一面黒一色で一メートル先も見えない。

手を伸ばせばそこに自分の指がちゃんと5本あるのかどうか分からなくなるほどだ。

しかしこれではルート自身もジーコを見失ってしまうのでは?という心配はいらなかった。

ルートは迷うことなく混乱するジーコの背後へと駆けていく。

 

「"闇討ち"」

 

ズバッ!ズバッ!と黒い霧の中から肉を裂く音が聞こえる。

漸く霧が晴れてきたと思ったら全身を切り裂かれたジーコが膝をついていた。

魔人化の影響で浅黒かった肌は己の血で真っ赤に濡れている。

一応まだ生きはしているがもう長くないのは誰の目にも明らかだ。

すると踏ん張る気力がなくなったのか頭を前にだらんと下げる格好になった。

それはまるでギロチンによる処刑を待つ罪人のようだ。

ルートはゆっくりとジーコに近づくと刀を高々と振り上げた。

 

「さようなら、ジーコ」

 

ザシュッ!

 

最後の瞬間、ジーコが笑っているような気がした。

 

 

 

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