Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第38話 もう一人の魔人

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「あぁ~~あぁ、油断してるから負けちゃうんだよなぁ」

「!!?」

 

バーズを倒し気を許していた全員がその声の主に顔を向ける。

日も暮れ始め朱に染まった太陽を背に柔和な笑みを浮かべる青年がそこにはいた。

その微笑みに頬を染めない女性はいないのではないかと思うくらいその青年は魔性の魅力を持っていた。

しかしこの場にいる女性であるメアリー達の顔には焦りと不安の表情が浮かんでいる。

なぜならその青年は灰色の肌に蝙蝠のような翼を動かし空に浮かんでいるからだ。

 

「・・・・・・・魔人・・・・・」

 

誰が呟いたかは分からない。が、誰もが同じことを思っているのは確かだろう。

その青年にもバーズとは形状が違う魔紋(マナクレスト)がしっかりと見てとれる。

 

「最初から本気で戦っていればこんな無様な負け方はしなかったろうに・・・・・この魔人の恥さらしがッ!!」

 

バーズの元へ降りてくると、突然柔和な笑みを崩し語気を荒げバーズの腹を蹴りつけた。

バーズはもう死んでいるので声こそあげないが段々と血が滲んでくる。

蹴り続けるうちにビチャッヒチャッと生々しい音が加わってくる。

すると、しばらくして満足したのかフンッと鼻を鳴らすとしゃがみこみバーズの左目を抉り出した。

グチャリとさっきより生々しい音が響く。

液体の入った小瓶に目玉を入れ布巾で血を拭きとり手を綺麗にしてからようやくルート達の方へ向き直った。

 

「さて、と・・・データは回収できたしもうここに用はないんだけど・・・バーズがやられてハイサヨウナラってわけにはいかないよねぇ多分・・・・・」

「───ッガッ!!?」

 

面倒くさそうに呟いてこっちを見たと思った瞬間、ルートの左足に激痛が走った。

見ると太股の辺りが軽く焼け焦げている。

ビリビリと麻痺する感覚があるので恐らく雷魔法を受けたのだとかろうじて理解する。

しかし魔法を撃った瞬間が見えなかった。

 

「───ウガッ!?」

「───ウゥッ!」

「───アァッ!」

 

魔人は間髪入れずルート以外にも攻撃を与えていく。

皆避けることもできず次々倒れていく。

ルートは傷ついた左足を押えながらその光景を見る。

すると、辺りをフヨフヨと飛来する黒い塊を発見する。

そしてその黒い塊がピタリと止まったかと思うと次の瞬間、一筋の電撃が放たれた。

 

「───ッ!グッ!」

 

何とか直撃は避けたが少し腕にかすってしまった。

痛みをこらえ意識を集中魔力探知をすると自分達の周りを同じ黒い塊が十数個飛び回っているのを探知した。

 

「皆!周りの小さな黒い塊に気をつけて!」

 

そう伝えるが全方位からの電撃をそう簡単にかわせるわけもなく皆傷を負っていく。

ルートも足をやられ満足に動けはしないが他よりは器用に避けていく。

 

「へぇ~、やっぱり"君達"は他とは違うね」

 

魔人は素直に感心しながら二人を見る。

持ち前の反応速度で電撃をかわし続けるルート。

電撃を撃ち出す黒い塊そのものを神通力で逸らしているハゴロモ。

現状膝をつかず辛うじて戦闘状態にあると言える二人。

そんな防戦一方の二人へさらに黒い塊を集める。

 

「君達には特別に"黒蜂(ブラックビー)"の真髄をあじあわせてあげるよ」

 

黒い塊、もとい黒蜂(ブラックビー)がルートの周りに集まる。

恐らく一斉放射で倒す気なのだろうが、発射のタイミングさえ間違わなければ避けられないこともない。

なぜならあの電撃は直線にしか進まないのだから。

 

雷撃の連鎖(ネクサスボルト)

 

発射と同時に横へと避ける。

痛む足をこらえそのまま魔人へと反撃をしようとしたが、今度は腹に鋭い痛みを覚えた。

避けた筈の電撃が腹を貫いているのが見える。

なぜ?という疑問と共にルートはその場に倒れる。

気絶こそしなかったものの、直ぐに立ち上がるのは無理そうだ。

 

「ルートッ!!」

 

ハゴロモが急いで駆け寄りルートの安否を確認すると、ルートは弱々しくも手を挙げ無事であることを伝える。

 

「黒蜂からは逃れられないよ。電撃は黒蜂同士に連鎖する。数が多ければ多いほど網目状に連鎖していくのさ。そこに人間がかわせるだけのスペースなんて存在しない」

 

自分の技によほどの自信を持っているのか丁寧に解説をしてくれる。

しかし自分は動けない。

ハゴロモも電撃自体を逸らしているわけではないのでかわせない。

魔人はそんなのお構いなしで黒蜂を周りに配置している。

このままではハゴロモも倒れ全滅してしまう。

 

「やっぱり人間なんてこんなものか・・・・・雷撃の───」

「ナァーーオ」

 

それはひどく場違いなかわいい声、いや鳴き声。

その鳴き声の主はルートを背に魔人を見上げる形でもう一度、今度は少し低く鳴いた。

まるでそこまでだと警告するかのように。

 

「・・・・・猫?」

 

流石に魔人も驚いて魔法を中断してしまう。

それもそうだろう、まずこんなところに猫が飛び出してくるのも驚きだが、動物が苦手であろう電撃を恐れもせずにこちらを睨む黒猫に注目しないはずがない。

その時だった。

 

「なんだあの猫?いったいどこ─────っ雷の抵抗(オーム)!!」

 

魔人が急いで作った雷の盾に何かが激突した。

黒猫が何かしたのかと思い顔を見るがそういうわけではなさそうで呑気にあくびをしている。

その何かは明後日の方向から突然飛来してきた。

その威力は相当なもののようで 、あの魔人が今尚真剣な顔で魔力を注ぐ雷の盾を貫かんとギャリギャリ音をたてている。

 

「───────ググググゥ、クソッ!」

 

遂に盾が破られ攻撃が魔人に迫るが何とか身を反らせて回避を試みる。

魔人を襲った攻撃がルート達の手前にグサッと音をたてて着弾した。

それは一本の槍だった。

どこにでもあるような鉄製の槍。

しかしそれは先の衝撃に耐えられなかったのかビキビキと所々ひび割れている。

 

ポタポタッ

 

「クソッ、あの英雄がここにいるなんて聞いてないぞ・・・」

 

槍がかすったのか腕から少し血を流している。

槍が飛来してきた方角を睨みながらそう呟くと、くるっとこちらに向き直る。

 

「君達は運がいいね・・・僕の名前はグランツ、魔王の軍勢(デモンストラトス)で最強になる男だよ。今度戦うときは邪魔が入らないといいね」

 

そう言い残して何処かへ高速で飛んでいった。

笑みを浮かべてはいたがルートには分かる、あれはプライドの高い者が苛立ちを隠している時の表情(かお)だった。

何にせよ、これで皆助かったのだ。

槍の持ち主が誰なのかは知らないが完全な敵ということはないだろう。

遠くから馬の足音が聞こえる。

一頭分だけということは一人だろうか?

とりあえずお礼を言わなければ・・・あれ?力が入らない。

というよりも抜けていく・・・・・瞼が・・・重い。

今まで気を張っていた反動が来たのか、ハゴロモの腕のなかで気を失ってしまったが今日くらいは許されるだろう。

今日一日一番頑張っていたのをここにいる皆は分かっているのだから。

 

 

 

「・・・・・ナァーーオ・・・・・」

 

無事を確認して安心したのか、黒猫は小さく鳴くとやって来た夜の闇へと溶け込むように消えていった。

 

 

 

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