Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第41話 シンディ、看病する

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・・・・・雲ひとつ無い夜空、暗闇を塗り潰さんと輝く星々、そんな星々の輝きすら霞んでしまうほどの荘厳さを見せる大きな満月。

そんな景色が今、ルートの目の前には広がっている。

ルートは今海の上に仰向けに浮かび、その幻想的ともいえる宙を見つめているのだ。

海に浮かんでいるのに水の冷たさは不思議と感じない。

それどころか、肌が濡れる感触すら感じない。

それに加えて、まるで金縛りにあったかのように体が動かせない。

指一本すらピクリとも動かせないのになぜか目だけは自由に動かせるので、先程からこの大パノラマを一人堪能しているのだ。

これは夢だ、それはハッキリと分かる。

分かっているのだがどうにもできない。

ひょっとして朝自然と目が覚めるまでこのまま海を漂っていろというのだろ─────

 

「なかなかいい景色だろう?」

 

透き通るような声が響く。

突然のことに驚くが声も出ないし表情すら変えられない。

波の音すら聞こえないというのに、その声は直接脳に語りかけているかのようにひどくクリアに聞こえた。

視線だけを動かし声の主を探すと、ハゴロモが着ていたような藍色の・・・・和服?だったかを着た子供が立っていた。

顔は陰になっていてよく見えないが、後ろで三つ編みにした長い白髪は実に美しい。

声だけでは少年少女の判別がつかないが、どちらにしても端整な顔立ちをしているだろうと何となく想像がついた。

 

「時間ももったいないし、さっさと用件を済ませよう・・・僕の名は"ツクヨミ"、君が見ている"これ"は夢だけど夢じゃない」

 

夢だけど夢じゃない?

 

「うん、ていうのも君の脳に直接干渉してるからね」

 

・・・・・なるほど・・・・・

 

「あれ?あまり驚かないんだね」

 

驚けば何かなるわけでもないしね

 

「冷めてるなぁ~・・・まぁいいや、君風邪ひいたでしょ?実はそれ、僕のせいなんだよね」

 

・・・・・嫌がらせ?

 

「違う違う!僕はそんなに暇じゃないよ。別に風邪をひかせたかったわけじゃないんだよ・・・君、魔人に負けただろ?だから新しい力を授けたんだよ。本当はもうちょっと後にしようかと思ったんだけど・・・ほら、君割と無茶しそうだから・・・・・」

 

新しい力?それでなんで体調崩すのさ

 

「大きな力に体が耐えられなかったからさ・・・君はまだ15才、器がまだ完成してないのに大きな力を無理やり与えたからね、そりゃあ体調くらい崩すさ。むしろ風邪で済んで良かったね?」

 

体が動かなくて良かった、今すぐにでも殴り飛ばしてやりたいよ

 

「ひどいな~・・・この先絶対役に立つからさ。それに、まだ力の全部を与えたわけじゃないんだよ?・・・って無駄話してる場合じゃない、とりあえず今回与えた力なんだけどね────」

 

 

 

 

「・・・・・・・んっ、うぅぅぅん・・・・・・朝か・・・・・」

 

あの後得た力の説明を受けた。

一瞬本当はただの夢だったんじゃないかとも思ったけど、体の奥に今までとは違う異物のような魔力を感じることから夢じゃなかったことが分かる。

早く実践してみたいがまだ風邪が治っていないようで体がダルい。

昨日のように意識すら保てないというほど酷くはないが、恐らく今日一日はベッドから動けないだろう。

 

コンコンッ

 

「起きてるかい?」

「あぁメアリーおはよう、今起きたよ」

「気分はどうだい?」

「だいぶマシになったけどまだ動くのは無理かな?」

 

メアリー達にはツクヨミのことは話さない方がいいだろう。

あれは実際に体験してみないと信じられないと思う。

どうせ風邪のせいで見た夢だと言われるに決まっている。

 

「あたし達は道具なんかを買い足してくるから、あんたは大人しく寝てるんだよ?」

「分かってるよ」

 

まったく、メアリーはお母さんみたいだな。

・・・・・本人に言ったら多分怒られるから言わないけど・・・

とにかく早く治して力を使いこなせるようにしないとな。

・・・そういえばまだ与えていない力があると言っていたけど、毎回こんな風になってたら旅もままならないぞ?

 

 

 

ガチャッ

ルートの部屋を出て一階の食堂へ向かう。

 

「おっ、どうだった?メアリーちゃん」

「やっぱりまだ動くのはしんどそうだったよ」

「でも良くはなってるンスよね?」

「あのおじさんに感謝だね」

「そういえば名前聞くの忘れてたな」

 

そうだった。

昨夜さっさと帰ってしまったから名前を聞くタイミングがなかったがやはり恩人、街に出るとき探してみよう。

 

「なんだいなんだい、朝から騒々しい・・・」

「あっ、お継母様・・・」

 

二階から一人の女性が声をかけてくる。

年は・・・40手前くらいだろうか、赤みがかった茶髪が特徴的なつり目のオバ・・・・・女性だ。

シンディは明るい金髪だし顔つきも似てない・・・って実の親子じゃないから当たり前か。

 

「あら、どちら様でしょうか?」

「シンディさんのご厚意で昨夜からこちらに泊めていただいている者です」

「あ、あの、昔使っていた客室が余っていたので・・・・・」

「客室?・・・・・あぁ、あったわねそんなの・・・何にしても、うちもボランティアではやっていないの、宿泊金は払ってもらいますからね」

「勿論です」

 

それだけ言うとシンディの継母さんは奥へと引っ込んでしまった。

なんというか、客商売をしてるにしては当たりがきつかったな。

 

「姉二人はまだしばらくは起きてこないと思いますのでまた後でご紹介します」

 

シンディと継母の対応の差が凄いな、自分だったらとても一緒には住みたくない。

シンディの情報だと姉二人も継母に似てきつい性格らしい。

まぁあの継母の実子であるから分かると言えば分かるが。

 

 

 

 

「ふぅ、朝ごはんも済ませて皆さん買い物に出掛けたし次は掃除でも・・・・・っていけない!ルートさんにも朝ごはんを持っていかないと!えっと、お粥でいいよね?」

 

 

 

コンコンッ

「ルートさ~ん?入りますよ?」

 

シーーーン

・・・・・返事はないけど・・・寝てるのかな?

とりあえずお粥作っちゃったし、テーブルにでも置いておこう。

ドアを開けて中に入ると、予想通りルートが寝ていた。

まだ頬が若干赤いが呼吸も落ち着いているし問題ないだろう。

 

「ここにお粥置いておきますね」

 

一応小声で伝えておきソロリと部屋を出ようとする。

 

「んん・・・・・ふわぁぁぁぁ・・・・・・・」

「あっ、起こしちゃいました?」

 

大きくあくびをしながらルートが体を起こす。

寝ぼけ眼で目を擦る姿はなんだか可愛い。

 

「た、体調はどうですか?」

「ん~~、汗がベタベタで気持ち悪い」

「あっ、直ぐにタオルを持ってきますね!」

 

風邪の時は体を冷やしちゃいけないから早く汗を拭いてもらわないと

 

「はい、タオルです。拭き終わったらテーブルにでも置いておいてくださいね?」

「ん~~、メアリー、拭いてくれない?」

「ええっっっ!!」

 

ええっっっ!!もしかして私だとわかってない?ていうか、メアリーさんいつもそんなことまでしてあげてるの!?もしやお二人はははははははは────

 

「んん~?メアリー?」

 

はっ、いけない!たとえ間違われていたとしても今は汗を拭いてあげなければ!

・・・・・で、出来ます!このくらい朝飯前です!!

・・・・・朝食はさっき済ませてしまいましたが・・・・・

 

「し、失礼しま~す・・・・・」

 

まっ、まずは服を脱がせないと・・・・・

・・・・・・・・・・ゆっ、指が震えてうまくボタンを外せません!!

落ち着いてシンディ、こんなときは深呼吸深呼吸。

 

「スゥー、ハー、スゥー、ハー・・・・いざ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ、なんとか外せました。

よし、ではいよいよ脱がせ・・・て・・・・・

いやいやいや!何を変に意識してるの私!これは看護!医療行為!やましいことなんてひとつもないっ!!

 

意を決してバッ!と勢いよく服を脱がせると、細身の割りによく鍛えられた身体、そこにじんわりと浮かぶ汗、仄かに香る甘い体臭。

プスプスと頭から煙を出しながらもおぼつかない手つきで汗を拭き取っていく。

 

「んんっ・・・」

 

くすぐったいのか気持ちいいのか、男にしては艶やかな声をルートがあげる。

 

「・・・・・・・・・・・・で、出来ました・・・次は・・・・・下?」

 

ボフッ!!と熟したトマトより真っ赤になったシンディは思考が停止してしまった。

 

「─────・・・・・・ッハ!・・・・あれ?終わってる?」

 

気づいたときには汗も拭き終わっており、新しい服も着せ終わっていた。

時計を見れば5分ほど時間が進んでいる。

つまり、彼女は5分間意識を失いながらもルートの世話をこなし続けたということだ。

シンディは妙な達成感を感じながらもふと気づいた。

 

「あっ、お粥!」

 

テーブルに放置されたお粥に急いで駆け寄る。

 

「良かった、まだ冷めてないみたい・・・・・」

 

出来立てではないもののまだ湯気はゆらゆらと漂っている。

むしろ適度に冷めていて食べ頃かもしれない。

 

「ルートさん、お粥、食べられそうですか?」

「うん、なんとか・・・・・メアリー、あーん・・・・・」

「ええっっっ!!(part2)」

 

まだ寝ぼけてるんですかルートさん!?

あーん、なんて経験したこともされたこともないのに!

・・・・・・・いやいや、さっきよりかは難易度は低い筈、落ち着いてやれば大丈夫よシンディ・・・・・

 

さっきのように2回ほど深呼吸をする。

 

「い、いきますよルートさん、はい、あーん・・・」

「あーん・・・・・・・?」

 

ルートの口先まで差し出されたスプーンは突如として引き戻される。

 

ルートさん!目を瞑ってあーん、なんて無防備な顔しないでください!あっ、睫毛結構長いんだな~、とか思わず見とれちゃったじゃないですか!!

・・・・・・それに・・・・・・・・あーん、って口元に意識が集中するから・・・・・なんかいけないことしてる気持ちになっちゃうじゃないですかバカァァァァァっ!!

 

その後、なんとか気持ちを落ち着かせお粥を食べさせきるのに1時間を擁したのは言うまでもない。

そして、メアリー達が帰ってくるまで身体の熱が引かなかったのも言うまでもない。

 

 

 

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