翌朝、ルート達は次の街へ向かうための準備をしていた。
王子暗殺計画を阻止した今もうこの街に留まる理由はない。
次の街はトレス王国の王都だから少しのんびりするのもいいかもしれない。
アール王国では見ない珍しいスイーツを発見できるかもしれないから楽しみだ。
ルンルン気分で準備を進めるルートと対照的に、シンディは沈痛な面持ちで掃除をしていた。
はぁ、もうすぐルートさん達とお別れか・・・せっかく仲良くなれたのに・・・・・
でもしょうがない。
ルートさん達は冒険者、対して自分はしがない町娘。
今回はたまたま一緒に事件を解決しただけで、本来は接点を持つことなんてほとんどないだろう。
「さて、そろそろ行こうか」
準備を終えたルートが店を出ようとする。
このままドアを出て行ってしまえばもう2度と会うことはないかもしれない。
それは嫌だ。
「あの!・・・あの・・・・・」
思わず呼び止めてしまったが何も言葉が出てこない。
メアリーはシンディの心中を察したのだろう、少し悲しげな表情を向けている。
「どうしたのシンディ?」
言わないと、言わないともう会えない・・・・・
言わなきゃ・・・・・”一緒に行きたい〟って・・・・・
「あの・・・・・皆さん・・・また、来てくださいね?」
・・・言えない、お父さんの残してくれたこのお店を捨てることは出来ないし、きっとお継母様達だって許してくれない。
それに、私なんかがついていったって足手まといになるだけ、それなら変な夢見ないでいた方が皆のためだ。
「今度お店に来たら、旅の話をいっぱい聞かせてくださいね!」
私は
料理の腕をもっと磨いて、ルートさん達にまた来てもらえるように。
「何言ってるの?シンディも行くんでしょ?」
「・・・・・・・・・・え?」
コノヒトハナニヲイッテルンダ・・・・・・?
「え?シンディも一緒に旅するんじゃないの?」
「行けるわけないじゃないですか!」
「何で?」
「だって・・・お店もあるし、お継母様達もいるし、」
「あら、問題ないわよ?」
「ほら、問題ない、ってお継母様!?」
いつの間にかシンディの隣に立っていた継母。
一夜明けたが未だドレス姿、それに加え目の下にすごい隈ができている。
閉まっていたドアが開いていることからたった今帰ってきたことが窺える。
昨夜あんなことがあったのに今の今までどこに行っていたのだろうか?
というか、問題ないってどういうこと?
「さっき私の知り合いに話つけて今日から来てもらえることになったから」
えっと、つまり・・・・
「店の事は気にせず好きにしていいってことよ」
実は継母、舞踏会でのシンディを見て気持ちを悟り、休まず朝まで知り合いに店のことを相談していたのだ。
きっとシンディは自分達と店を気遣って身を引くだろうとわかっていたからこそ、ルート達が行ってしまう前に障害を取り除こうとしていた。
慣れない徹夜までして、ドレスが汚れることも厭わずに方々走り回ったのだろう、真っ赤なヒールが泥で汚れている。
「一応あなたの母ですもの、子供の気持ちくらい見てれば分かるわ」
「お継母様・・・・・」
「泣いてる暇があったらさっさと支度しなさいな、シンデレラ姫様?」
「気付いていらっしゃったんですか!?」
「一応母だもの・・・少し派手だったけど直ぐに分かったわ」
「もう・・・お継母様ったら・・・・・・」
笑顔と共に溢れる涙を拭きながら荷物をまとめに部屋に向かう。
「ごめんなさいね、もう暫く待っててもらえるかしら?」
「もちろん待ちますよ・・・いつまでも・・・・・」
二階から忙しなく聞こえるシンディの慌て声を聞きながら一同は継母の心中を尋ねる。
昨夜までの二人を見ていると、とてもここまでするような人には見えなかったからだ。
メアリーにはそれこそ正に、灰かぶり姫に出てくる悪い継母そのものだと思ったほどである。
「私たちは血が繋がってないでしょ?あの娘が心を開いてくれる前に
家族であるにも関わらずどこかかしこまった他人行儀な態度、それは不仲以前にお互いが歩み寄れていなかったが故にできてしまった溝。
互いの性格上一歩引いた付き合いしかできなかったからしょうがないとはいえ、もっと上手くできたはずだと自分でも分かっている。
だからこそ、自分達の固まった日常を壊してくれたルート達には本当に感謝している。
あんなに頑張るシンディを見たからこそ自分もあの娘の為に頑張ろうと思えた。
「だから、あなた達には本当に感謝してるわ・・・娘をよろしくお願いします」
「・・・・・勿論です」
継母の本当の気持ちを聞き届け、それに応えることを強く誓った。
「お待たせしました~!」
旅支度を整えたシンディが階段を駆け降りてくる。
「そっ、それでは、ふつつか者ですが今後ともよろしくお願いします!」
「畏まりすぎだよシンディ、それじゃあ結婚するみたいじゃないかい?」
「あっ・・・・・・///」
自分の言葉を思い返し、正にその通りであると理解した瞬間顔を真っ赤に染め上げる。
しかしまんざらでもないという表情をしたシンディを継母は見逃さなかった。
「あなたにもようやく王子様が見つかったのかしら?」
ルートをチラッと横目で一瞥しシンディに耳打ちすると、耳を真っ赤にしてあたふたしだす。
「おっ、お継母様!?」
「あら、図星かしら?」
からかいからかわれ、朝早くから戯れる二人は誰が見ても”普通の親子〟であった。
「それではお継母様、お姉様、行ってきます!」
「たまには帰ってくるのよ?」
「お土産よろしくね!」
「虐められたら言うのよ!」
旅立つ我が子を見送る継母と姉達、その背が見えなくなるのを見届け我が家に戻る。
シンディのいない我が家、元々賑やかな家庭ではなかったがやはり寂しく感じる。
姉二人も少なからずそう感じているのか何も語らずに部屋へと戻っていく。
「まさかあの娘の背中を見送るのが一番早いなんてね」
残った娘二人にも早くいい人が現れるのを願いながら椅子に座る。
綺麗に掃除された席で目を閉じ、出会ったばかりの頃のシンディを思い出す。
時がたつのは早いものだ。
思い出を懐かしみながらポケットを探り一冊の本を取り出し優しく撫でる。
「物語はやっぱりハッピーエンドじゃなきゃね」
そう笑う継母の手には灰かぶり姫の本、シンディと同じく継母も愛読していたのであろう、シンディのそれよりも年期が入っていた。
ルート達の旅立ちを見送るロバート殿下。
「シンデレラ、いやシンディ・・・・・いつの日か君を私の妻に迎える・・・・・」
そう一人宣言するロバートの手にはガラスの靴が消えずに残っていた。