Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第51話 スラム街の日常

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 トレス王国。

 人間、獣人、エルフ、ドワーフなど多種多様な民族が暮らす国。

 どの種族にも平等な権利が与えられており、15年前の聖戦にも大きく貢献したことから多くの同盟国をもつ大国だ。

 しかしどんな大国であろうと、陽の当たるところあるならば当然陰が覆う場所も存在する。

 そのひとつがスラム街、皆に平等な権利があるならばそれと同時に皆に平等な義務が発生するのもまた然り。

 ここには仕事、金、家族、夢、希望、あらゆるものを失った者達が身を寄せあって暮らしている。

 自業自得でそうなった者もいれば誰かに嵌められた者、誰のせいでもなくしょうがなくここに辿り着いた者、なんならここで生まれ育った者もいる。

 ここにいる者達は生きるために必要な金がない。

 中には金を手に入れるため汚いことに手を染める輩も少なくないため世間からは好く思われていない。

 というのも、スラム街からほど近い商店等では日々万引き、強盗などが横行しているのだ。

 ほら、今も目の前で10才にも満たない少年が店主の目を盗んでリンゴ5つを服の中に隠して走り去っていく。

 これがこの辺りの日常。

 

「こういうところはどこの国でも変わらんな・・・」

 

 白い修道着を身に纏い、金色の髪を風になびかせる男、クレス。

 弱冠20才にしてSランク冒険者である超有望株、そんな彼はどこの国に居座るでもなく、いつ終わるとも知れないあてのない旅をもう10年近くも続けている。

 

「あまり帰れてないし、そろそろ皆に土産の1つでも持っていかないとな・・・」

 

 走り去る子供に、自身が育った孤児院の仲間達の姿を重ねて思わず呟く。

 思えば自分がいつも着ているこの修道着も、かつて教会だった孤児院を出るときに院長から貰った思い出の品だ。

 満足な援助もないあの孤児院の皆を笑顔にするため、今回は何を買っていこうかと通りをぶらつく。

 

「前は服が多めだったからな・・・今回は飯がいいか、ならなるべく日持ちのするものだな」

 

 とりあえず野菜を多めに、肉類は塩漬けなど加工してあり日持ちするものを選ぶ。

 それだけだと子供達に文句を言われそうなので生のいいお肉をマジックバックに保管する。

 すでにいくつか持っているので1つくらい渡しても問題はない。

 決して安くはないマジックバックを複数個所持している、流石はSランク冒険者というところだろう。

 

「あとは本かな・・・」

 

 字の読み書きなどはシスターであるナタリーや院長が教えてくれるが、将来のためには色々な知識が必要だろうと各分野の本を選んでいく。

 

「・・・おっ、こういうのも必要だろうな・・・」

 

 そう言って手に取ったのは『勇者クロイツの冒険』というタイトルの本。

 勇者であるクロイツが、魔王に連れ去られた自国の姫を仲間達と共に取り戻しにいくという作品である。

 こういうものに少年少女達はよく食いつくので買っておいて間違いはない。

 

「あとは・・・これか・・・・・」

 

 最後に立ち寄ったのは魔導書を扱う店。

 魔法を扱えるようになれば選べる仕事の幅も広がるし、何より自衛の面でも役立つ。

 ということで初心者用の本をいくつか買っていく。

 

「こんなもんでいいか・・・もう昼だし、孤児院に寄るのは明日の朝からにしよう・・・・・ん?」

 

 思わず歩みを止めたクレスの視線の先には二人の少年少女、身なりを見るにスラム街の子達だろう。

 両方黒髪で顔もなんとなく似ている、恐らく兄妹だろう。

 孤児院にいたプラスとマイナの兄妹を思い出す。

 だが注目すべきはそこじゃない。

 走る二人の目からは恐れと焦りの表情が見える。

 チラチラと後ろを気にしているので何者からか逃げているのだろう。

 何か盗ったのか?と思ったがそうではなさそうだ、スラム街へと続く路地裏に入った二人をチンピラ風の男達5人が追っていく。

 男達の目に怒りの表情はなかった、あったのは欲望にまみれた表情だけ。

 二人の背中に知り合いの兄妹の姿を重ね、どうにも他人事と思えなくなったクレスは後を追うことにした。

 

 

「ハァッ、ハァッ、頑張れネイ!あとちょっとだぞ!」

「お兄ちゃん、もう、限界・・・」

 

 スラム街へと続く道を走る兄妹、兄シン、妹ネイ。

 二人は自分達の住む村へと懸命に走っていた。

 突然襲ってきた5人の男達、彼等に捕まれば何をされるか分からない。

 自分達が何かしたわけでもないのに突然現れて執拗に追って来ている。

 しかし周りの大人達はそれを静観するだけで誰も助けてはくれなかった。

 だがそれがここでは普通。

 スラム街のガキが二人くらいどうにかなろうが彼等には関係ない。

 下手に手を出して自分がとばっちりを受けるくらいなら黙っていよう、どうせ嫌われもののスラム街の住人なのだから構いやしない。

 口には出さないが多くの人間がそう思っていた。

 

「クソ!なんで俺達が!」

「お兄ちゃん・・・・・──っ危ない!!」

「──グァッ!!?」

 

 後ろに気をとられていたシンを横道から出てきた男が殴り飛ばした。

 見ればさっきのチンピラの一人だ。

 最短ルートで進んできたのだがやはり大人、速さを活かして先回りされていた。

 

「クソ、俺達に何の用だ!」

「あ?お前にはねぇよ、用があるのはこっちだけだ、なぁ?」

「いや!放して!!」

 

 目的はネイ一人、今のところ手をあげられてはいないのでネイの身は安全なのだがこの後は分からない。

 いや、男が女を拐う目的なんてほぼ一つだ、きっとネイは殴られるより酷い目に合わされるに違いない。

 それだけは絶対に許さない。

 

「ネイを放せクソ野郎!!」

「おっと、お前の相手をしてる暇はねぇんだよ。どうしても遊びたいってんなら・・・こいつらが相手してやるよ」

 

 追い付いてきたチンピラのうち3人がシンを囲む。

 ネイを捕まえたチンピラは残りの一人と共に大通りへと向かって歩いていく。

 

「ネイ!待ってろ!直ぐに取り戻しにいくからなぁぁぁ!!」

「お兄ちゃん!お兄ちゃぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

 

「しかし結構人に見られたなぁ、大丈夫なのか?」

「問題ねぇだろ、きっとあのお方がなんとかしてくれるさ・・・それにこいつらはスラムのガキだぜ?誰も気にも止めねぇよ」

 

 男は目的のネイを無事捕らえられて上機嫌だった。

 これで大金が手に入る。

 たかがスラムのガキ一人連れていくだけで1ヶ月は遊んで暮らせるなんて実にいい仕事だと。 

 しかし、あの調子ならまた次も頼まれるかもと内心期待をしていると一人の男が目の前に立ち塞がった。

 

「おい、その子を放しな」

 

 

 

 突然自分達の前に立ち塞がった金髪の男はネイの解放を呼び掛けてきた。

 

「なんだテメェは?こいつの知り合いか?」

「いや、全く知らん」

「あぁ?なら手は出さねぇ方がいいぜ、ヒーロー気取りならよそでやんな」

 

 そう言ってナイフを取り出し男に突き付ける。

 警告は一度きり、歯向かえば命は無いぞ、と。

 

「おいおい、街中で物騒だな・・・」

「へっ、ブルってんのか?」

「いや、そっちの方が話が早い・・・──フッ!」

 

 カキィイン!という金属音のする方を向くと、今持っていた筈のナイフが壁に突き刺さっている。

 何で?と握っていた手に視線を移すと・・・ボッキリと90度曲がって折れていた。

 強烈な蹴りを食らったのだろう、認識した途端、じわじわと痛みが襲ってくる。

 

「ぎゃあああああっ!腕が、腕がぁぁぁあっ!」

「おいおい、腕の一本くらいでそんな喚くなよ・・・」

 

 クレスは折れた右腕を抑えてのたうち回っている男を一瞥してネイを捕まえている男に歩み寄る。

 仲間が一瞬でやられてしまい完全に腰が引けているがネイの腕は放さない。

 

「あんたはどうする?」

「くっ、来るなぁぁぁ!こいつがどうなってもいいのかぁぁぁ!?」

 

 ナイフをネイの首に突き付け、ネイを盾にしてジリジリと後ろに下がる男。

 この期に及んでまだネイの拉致を諦めてはいないようだ。

 ハァァァ、と溜め息をつくと修道着の中から魔銃を取り出し逆に男に突き付ける。

 

「痛い目見ないうちにその子を放して消えろ」

 

 視線を鋭くして放ったその一言で人質は無意味だと覚ったのか、男はネイを突き飛ばして直ぐ様走り去る。

 しかしそれをクレスは許さない。

 突き飛ばされたネイを優しく抱き止めると走る男に照準を合わせ魔銃を放つ。

 眩い一筋の閃光が真っ直ぐ男の背に向かいその身を貫く。

 短い悲鳴と共に道に倒れた男は今の一撃で気絶したのかピクリとも動かない。

 

「解放しても攻撃しないとは言ってねぇ・・・・・大丈夫か?」

 

 恐怖が抜けていないようでフルフルとぎこちなく首を縦に振るネイを優しく地面に座らせてから先程腕を折った男に近づく。

 

「誰に頼まれた?」

「・・・殺されるぞ貴様!」

 

 痛みに慣れてきたのか、少し平静を取り戻した男は腕を押さえながらも強気に吠える。

 

「そういうのはいいんだよ早く言え」

「アガァァァアアアッ!?」

 

 容赦なく折れた腕を蹴飛ばすクレス。

 男は堪らず蹲り玉のような汗をダラダラかいている。

 

「もう一度だけ聞く、誰に頼まれた?」

 

 次は無いぞ、と目で訴えると男は観念したのかゆっくりと語り出した。

 

「俺達を雇ったのは・・・ターコイズ侯爵のご子息、コバルト様だ・・・・・何でもそこのスラムの娘を通りで見かけて気に入ったらしい」

 

 こいつらは金で雇われただけで直接的な関係はないらしい。

 しかし気に入ったから拐ってこいってとんだ下衆だな。

 侯爵の息子か・・・侯爵自身が関与しているかは謎だが厄介なことに首を突っ込んでしまったな・・・ 

 ん?そういえばもう一人はどこだ?チンピラ共も3人ほど足りない。

 

「お前のツレはどこにいる?」

「──ッ!そうです!兄を助けてください!」

 

 

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