Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第52話 兄妹の再会

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 薄暗く人通りも全くない狭い路地で男達の殴り合う音だけが響く。

 少年シンは大人3人を相手によく奮闘していた。

 体格が全く違うにも関わらず、殴られても殴られても変わらず相手に向かっていく。

 頬は腫れ、額からは血がダラダラと流れ片目も殆ど開いていない。

 そんな状態になっても男達に挑むのを止めない、諦めない。

 たった一人の家族、妹ネイを絶対に取り戻す、という強い思いが限界を越えた体を動かし続けていた。

 

「おいおい、まだ倒れねぇのかよ・・・」

「いい加減此処を離れねぇと誰か来ちまうぜ?」

 

 半分意識が飛んでいてもなお向かってくるシンに、完全有利な男達の方が参り始めていた。

 自分達が負けることはあり得ない、だがこの少年はそんなこと関係ないと文字通り死に物狂いで向かってくる。

 

「ちっ、抵抗するなら痛め付けろとだけ言われてたがしょうがねぇ・・・殺しちまうか・・・」

「おい!流石に殺しはまじぃんじゃねぇかっ!?」

「別に構いやしねぇだろう。たかだかスラムのガキ一人、気に止める奴なんざいねぇさ、それに・・・絶対に殺すなって指示も受けちゃいねぇ・・・」

 

 持っていた角材を放り投げ、仲間が制止するも無視して腰に下げていた剣を引き抜く。

 こいつを大人しくさせるにはもう殺すしかない、大義名分は得たとそう自分に言い聞かせ剣を振りかぶる。

 こいつを振り下ろせば面倒な仕事も終わり金も入る。

 殺し一人くらいなら雇い主が揉み消してくれる、だからなんの遠慮もいらない。

 

「じゃあな、クソガキ」

「お前がな」

 

 男達のでも少年のものでもない第3者の声と共に一筋の閃光が走り、振り上げられた剣と右腕を飲み込む。

 

「あがぁぁぁぁぁあああっ!!?」

 

 プスプスと煙を上げる腕、蹲る男は痛みに冷や汗が止まらない。

 

「お兄ちゃん!」

「・・・ネイ?」

 

 ネイが兄シンの元へ駆け寄る。

 殴られ蹴られ、全身に痣と出血、骨も数ヶ所折れているだろう・・・酷い傷だ。

 これで今の今までよく戦っていられたものである。

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」

「ネイ、無事で良かった・・・・・ウッ!」

「お兄ちゃん!?」

「問題ない、気絶しただけだ・・・お前が無事だと分かって安心したんだろう」

 

 もう無理をする必要はないと体が判断したのか糸が切れたようにグッタリと動かなくなる。

 

「おっ、お前何でここに!?あの二人はどうした!!」

 

 突然の襲撃に呆然としていた男達だったがようやく息を吹き返す。

 腕を焼かれた男を抱き起こし、この場で異彩を放つクレスに問い詰める。

 ネイが一人で逃げ出せる訳がない、ならこの修道着の男が手を貸したに決まっている。

 

「お前は何者だ!?」

「誰でもいいだろ・・・それで?お前らはどうする?」

 

 お前らごときに名乗る名前などない、と道端の小石でも見るかのような目で男達を見つめ、来るなら来いと手招きにて挑発する。

 

「クソがっ!」

「舐めやがってぇっ!!」

 

 剣を抜き息を合わせ、左右から同時に斬りかかっていく。

 

「うぅぅぅ・・・・・」

 

 2対1程度で相手になるわけもなく、数秒後には地面に這いつくばる羽目になっていた。

 

「おいお前!俺達の雇い主が誰か知ってるのかっ!?」

「知らんな」

「なら教えてやる、俺達の雇い──「おい止めろ!」──何で止めるんだよ!?」

「喋ったなんてバレたら俺達が殺されるぞ!?」

 

 あっさりやられたくせに威勢がいいな、この程度の事件くらい簡単に揉み消せるっていう自信か・・・となると相手は余程の大物ということか。

 しかし相手が分からないのは良くない・・・が、こいつらが素直に話すとも思えない。こいつらも死にたくないだろうからな。

 ならこいつらが口を割らない以上ここに留まる理由はない。

 こいつらの増援が来ないとも限らないからな。

 そう判断したクレスは当て身で男達の意識を刈り取ると、気絶したシンを肩に担ぐ。

 

「おいネイ、お前らの家はどこだ?」

 

 

 

 

 お兄ちゃん!助けてお兄ちゃん!!

 ネイ!待ってろ!必ず助けるぞ、ネイィィィっ!!

 

「ネイ!!」

 

 ガバッ!

 勢いよく起き上がったシンの目に映るのはいつもの自分達の家。

 壁も天井もボロボロだが最も自分達が落ち着ける暖かい場所。

 

「なっ、何で?俺は確かに・・・・・──痛っ!」

 

 ひょっとして全部夢だったのかと錯覚しそうになったが、鋭い体の痛みが先程の戦いが現実であったと告げてくる。

 

「よう、もう起きたのか」

 

 ボロい布が暖簾代わりについているだけの玄関から修道着を着た金髪の男が入ってくる。

 

「誰だお前は!?ネイをどこにやった!!」

「おいおい、命の恩人に対してありがとうも無しかよ・・・」

「いいから答えろ!ネイはどこ──イツツッ・・・」

「無理すんなよ、骨折までは流石に完治できて無ぇんだからよ・・・」

 

 脇腹の痛みに悶えるシンは、クレスの言葉に己の体を見回してみる。

 そういえば痛むのは腕や脇腹だけで他は殆ど痛くない。

 開いていなかった左目も今はしっかりとクレスを捉えられている。

 

「あんた・・・何をした?」

「唯の治癒魔法だよ」

 

 ぶっきらぼうな物言いだが、伊達に修道服は着ていないということか。

 

「お兄ちゃん!起きたの!?」

 

 シンの怒鳴り声を聞いたネイが慌てて家に入ってくる。

 手に持ったかごを見るに野菜を洗っていたであろうことが分かる。

 

「ネイ、大丈夫なのか?」

「もう、それはこっちのセリフだよ・・・あっ、あのね?こちらのクレスさんが私達を助けてくれたんだよ?」

 

 そう言われれば思い出してきた。

 あの時は殆ど意識がなかったが、修道着の男がチンピラ達を倒す姿は朧気だったが覚えている。

 

 

 

「さっきは失礼な発言、ごめん・・・でした・・・」

「まぁあの状況ならしょうがねぇだろう・・・それと敬語はいらねぇ」

 

 ようやく落ち着いたシンは、ネイ特製の鍋を囲みながらクレスに謝罪する。

 命の恩人に対し感謝もせずに怒鳴り散らしていたのだから罰が悪い。

 敬語にも慣れていないため言葉が合っているのかも分からない。

 そんな言葉選びに苦戦するシンをクレスは笑いながら許す。

 

「それはそれとして、お前ら何で追われてたんだ?」

「それが・・・俺達にも分からないんだ」

「分からない?」

 

 何でも、二人は日々の金を稼ぐために自作の小物等を通りで売っているらしい。

 先程もいつものように小物を売っていたところ、突然チンピラの男達が現れネイを拐おうとしてきたらしい。

 何とかネイを連れて逃げ出せたが、男達は執拗に追ってきたらしい。

 

「突然・・・ねぇ・・・・・なぁ、その前に変な奴とか来なかったか?」

「変な奴?・・・あっ!そういえば、朝、黒い服を着た男がネイに言い寄ってた!」

「言い寄ってた・・・本当か?」

「はい、たくさんお金が貰えるからこの後一緒に来てくれないか?って・・・」

 

 恐らくそいつがチンビラ達をけしかけてきたんだろう・・・しかし〝お金が貰える〟か・・・黒幕はその黒服の雇い主か・・・

 

「それでその黒服は何か言ってたか?」

「いえ、特に何も・・・」

「断ったら『残念だよ・・・』ってすんなり帰っていったぜ?」

 

 金でダメなら力ずくか・・・金持ちのやりそうなことだぜ・・・

 こういう奴は一度欲したものは何がなんでも手に入れたくなる質だからな・・・今回はなんとかなったが次も助けが入るとは限らねぇ・・・しょうがねぇか。

 

「なぁ、2、3日ここに置いてくれねぇか?」

 

 孤児院に行くのは少し先伸ばしになるが、こいつらを見て見ぬふりすんのも寝覚めが悪ぃもんな・・・。

 

 孤児院の家族達を思い出し、どうにも見捨てる気持ちになれないクレスは、早急にカタをつけることに決めた。

 

 

 

 

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