Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第53話 コバルトの悪評

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 ターコイズ侯爵家のとある一室は静寂に包まれていた。

 室内はとても人間が十数人いるとは思えないほど静まり返り、一人を除いて皆が一様に目を伏せていた。

 黒服の男達、壁一列に並ぶメイド達、その目には一様に恐怖の色が窺えた。

 目の前の男は女子供にも容赦がない、たとえ些細なことでも気に入らなければ平気で死を宣告するような男だと知っているからこそ、少しでも彼を刺激しないようにと存在を殺していた。

 

「それで、雇った奴らはどうした?」

「はい、既に始末しておきました」

「足は付かないだろうな?」

「も、勿論いつものように後処理は完璧でございます!それよりコバルト様、件の男、どうされますか?」

 

 自分達の主、コバルトの目に落胆と怒りを感じとった黒服はなんとか自分への矛先を避けようと話を移す。

 

「修道服の男、か・・・」

 

 黒服から視線を外し少し考える。

 スラム街の子供二人を助けた男、話を聞く限りではとても強くチンピラ5人を易々と倒したらしい。

 チンピラ達は自分のことを話してはいないらしいが、黒服が子供達に直接接触しているのでそこからバレる可能性は高い。

 スラムのガキ二人程度なら邪魔は入らないと過信したのがまずかったか・・・

 

「なんとしてでも探し出せ」

「はっ!・・・しかし、恐れながらコバルト様、奴が騎士団に通報するのでは?」

「証拠もないのに騎士団は動かん。奴とターコイズ侯爵家、どちらに与するのが得か分からん騎士団でもあるまい・・・」

 

 下手な正義感で首を突っ込んだのが運の尽きよ・・・俺を敵に回すということがどういうことか、思い知らせてやる。

 

 

 

 

 すっかり陽は落ちたが、まだまだ眠らせねぇとばかりに店の明かりがギラギラと輝き街を照らしている。

 昼とは違い、あちこちで仕事を終えた人達が酒を楽しんでいる。

 そんな活気に包まれる酒場にクレスはいた。

 

「おぉいたいた、探したぜクレス」

「いきなり悪いな、キーパー」

 

 クレスはキーパーに席を勧めると追加のエールを頼む。

 

「お前から誘われるなんて久しぶりだな・・・というか、何でローブなんて着てるんだ?」

 

 今のクレスは白い修道服の上に黒いローブを羽織っている。

 今までキーパーは白い修道服姿のクレスしか見てこなかったため、この酒場に入ったとき直ぐにはクレスを見つけられなかった。

 

「お前に聞きたいことがあってな・・・相手が大物かも知れないから一応お前の立場を考えてやったんだ」

「なんだ、お前も気を遣うことができたのか・・・」

 

 本当にビックリしたという表情を浮かべるキーパー、こっちが配慮してやっているのに酷い反応である。

 しかしそんなことに目くじらを立てていてもしょうがない、さっさと必要な情報を貰って帰るとしよう。

 ・・・本当は酒くらい奢ってやるつもりだったが気が変わった。

 自分の分は自分で出してもらおう。

 奢ってもらう気満々のキーパーは次々と料理を注文しているが関係ない、こっちは一言たりとも奢ってやるなんて言っていないのだから。

 

 

「なるほど、そりゃ恐らくコバルト殿の私兵だな・・・」

 

 クレスの話を聞き、租借していたチキンを飲み込むとキーパーはそう結論を出した。

 

「コバルト?何モンだ?」

「ターコイズ侯爵の一人息子で黒い噂が絶えない男さ。騎士団もマークはしてるんだがなかなか尻尾を出さなくて手を焼いてる。あくまで噂でしかないからな・・・」

 

 騎士団が手を焼くってことはそう簡単に解決は出来ねぇってことか・・・侯爵の息子って権力を好き放題に使ってんだな。

 

「ターコイズ侯爵自身はどうなんだ?」

「ターコイズ侯爵は別に悪い人じゃねぇ、ただ大切な跡取りの一人息子だから強く言えねぇってのはあるだろうな」

「ったく、息子の教育くらいマトモにしとけってんだ・・・」

 

 これだからボンボンは・・・と愚痴を溢しながら酒をあおる。

 

「で、黒い噂ってのは?」

「ああ、何でも目についた女を拐っては洗脳して専属のメイドにしてるとか、スラム街なんかの貧民を死ぬまでいたぶる趣味があるとか、怪しい傭兵と手を組んでるとか色々さ」

 

 なるほど、ネイが狙われるわけだな・・・とんだクズ野郎だ。

 

「お前、侯爵家と揉め事起こす気か?流石に今までとは規模が違うぞ?」

「やりあうかどうかはあっちの出方次第さ・・・」

 

 それはもう殺り合いますと宣言してるようなもんだろ・・・と思ったが敢えて口には出さない。

 この男がそんなことで引き下がるようなタマではないことは重々承知しているからだ。

 ギラギラと獣のような目で殺意を滲ませるクレスは黒いローブを翻し、店を出て夜の闇へと溶けていった。

 

「・・・・・・・あっ、会計!あの野郎・・・・・!」

 

 呼び出しておいて会計を踏み倒したクレス、闇夜に消えたその背中を獣のような目付きで睨み付けるキーパーであった。

 

 

 

 朝、昨夜の酔っぱらい達の姿は既に無く、早くから働き者達がせっせと忙しく通りを行き来している。

 二日酔いに苦しみながらも頑張って出勤する男、遅刻しそうなのか乱れている衣服を整えながら走る男、これから帰りなのか眠そうな目をしながら居住区に向かって歩く少し派手なメイクの女性、ここ王都では当たり前なそんな光景。

 

「おばちゃん、このリンゴひとつ」

 

 そんないつもの光景の中、朝の日差しで染め上げたかのような白い修道服をいつものように着込み、朝御飯代わりに新鮮なリンゴを齧るクレス。

 シャリシャリと小気味のいい音を響かせながら街を歩くクレスだったが、その白い修道服を追う影がふたつ。

 その気配に気付きさりげなく背後を確認するとやはりターコイズ侯爵家の黒服だ。

 大方自分を殺すか捕らえろと命令されたのだろう。

 思ったより早かったが期待通りだ、〝やるべきこと〟は昨夜のうちに済ませておいて良かった。

 

「おい、路地を曲がったぞ?」

「あそこは行き止まりだ、やるなら今しかない」

 

 黒服達は足音を鳴らさないように気を付けながら曲がり角まで近づく。

 懐からナイフを取り出し互いに頷き合うと息を合わせて一気に路地へ入る。

 

「オゴッ!」

「ブヘェッ!?」

 

 意気込んで路地へ入った瞬間、待ち構えていたクレスに一瞬で組伏せられてしまう。

 

「一応聞いておこう、誰の指示だ?」

「・・・・・・・・・・フンッ」

「だんまりか・・・まぁいい分かってるしな・・・いいかコバルトに伝えろ。『もう俺達に構うな、嫌ならお前の命を貰う。文句があるなら直接言いに来い』ってな」

 

 そこまで言い終え二人の意識を奪い取ると、二人を路地に放置し何事もなかったかのようにまた通りへと戻っていった。

 

 

 

「なんだとっ!!?」

 

 ターコイズ家にコバルトの絶叫が響き渡る。

 クレスからの伝言を聞いたコバルトは怒り狂っていた。

 貴族の息子である自分に対してここまで不遜な態度をとった奴は初めてだ。

 さっき入った報告によれば奴はSクラス冒険者らしいがそんなことは関係ない。

 いくら強かろうと貴族に逆らったあいつは淘汰されるべきである。

 

「いいだろう、俺が直接話をつけてやる・・・〝あいつら〟を呼べ!・・・フフフ、一人で来いとは言ってないよなぁ、クレス・・・」

 

 

 

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