Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第55話 ラーメンとギョーザとチャーハン

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 食事──人間が生活をするために必要な衣・食・住のひとつを司ると同時に、三大欲求のうちの一角を占める重要なファクター。

 人間、獣人、魔人、果てはモンスターまで、ものは違っても食べるという行為は同じ、飢えた身だけでなく時に心までをも満たしてくれる〝ソレ〟は、扇情的に人を魅了し、狂おしいほどに人を迷わせるのだ・・・。

 

「・・・・・ムムムゥ・・・・・」

「おいルート・・・まだ決まらねぇのか?」

 

 ルートがかつてないほどに真剣な顔でにらめっこしているのは1枚のメニュー表。

 そこにはおよそ20種類の品が写真つきで載っている。

 そのどれもを見たことがないルートは過去一番と言っていいほどに苦悩していた。

 

 

 そもそもの始まりはほんの15分前、城を出た一行は昼食をとるため大通りの飲食店を見て回っていた。

 国が違えば文化が違う、それ即ち食文化も違うということ。

 流石多数の国と国交があるトレス王国、普段あまり見かけない他国の料理店が沢山並んでいる。

 ドワーフ族の鉄板焼、海人族の海の幸、小人族のムスペリアン、獣人族のカリー、最近広まってきたヤマト食なんかも揃っているのだから驚きだ。

 そんな中一行の歩みを止めたのは、何度も王都を訪れているエリアルドでさえ嗅いだことの無い程の芳醇な香りだった。

 ちらりと見える店内からは忙しなく鍋を振るう音と店員の元気の良い声が聞こえ、客の前に置かれている器からは熱々の湯気が立ち昇り、自分達の立っている店の外まで鳥や豚を長時間煮込んだのであろう旨さを確信させる臭いが漂ってくる。

 気付けば全員がゴクリと生唾を飲み込み、思い出したようにお腹を鳴らしていた。

 口には出さないものの、全員が『ここしかない!』と感じていた。

 

 入ったのは『サザン料理専門店』の『キュウ』というお店。

 何でも『ラーメン』という麺料理が有名らしい。

 人気なのは鳥を煮込んだ出汁に醤油を合わせた『しょうゆラーメン』と、豚をドロドロになるまで煮込んだ『とんこつラーメン』のふたつで、ルートは初ラーメンをどちらにするかで悩んでいたのだ。

 ちなみに、メアリーは魚介ベースの『しおラーメン』、エリアルドは味噌ベースの『みそラーメン』、ロックはゴマペーストで辛みが効いた『タンタン麺』、シンディは無難に『しょうゆラーメン』選んでいる。

 

「そんなに悩むことか?」

「いや、これは重要な問題なんだ。サザン料理のデビューを飾るに相応しいのはどちらか・・・これを誤るともうサザン料理に顔向け出来なくなってデザートの『杏仁豆腐』を頼めなくなるんだ・・・」

「そんなの初見じゃ分からなくないか?」

「うん、分からない。だからこそ間違えられないんだ・・・」

 

 何がルートをそこまで追い込むのかエリアルドには全く分からない。

 付き合いの長いメアリーは何度か同じ光景を見てきているのでやっぱりかという顔をしている。

 ルートは初めてのジャンルの料理を前にすると凄く悩むのだ。

 ルート曰く、初めて出会うからこそ第一印象を最高にしたいらしいのだが、味なんてものは実際食べてみないと分からないのだからそんなに気構えてもしょうがないと思う。

 現に過去、初めてカリーに出会ったルートは一番人気を頼んだのだが、甘党なルートは辛いスパイスの効いたカリーに舌をやられた経験があるのだ。

 まぁこの二つが辛い料理という可能性はほとんど無いが、人気というだけで必ずしもルートの舌に合う保証はない。

 

「あのルートくん?私がしょうゆラーメンを頼むからとんこつラーメンを頼んでシェアすれば良いんじゃない?」

 

 絶対に失敗できないと鼻息荒く熟考するルートにたまらずシンディが提案する。

 ちなみに、今まではルート〝さん〟と呼んでいたのだが、同い年ということと共に旅をする仲間になったということもありルート〝くん〟と呼ぶようになったようだ。

 

「・・・なるほど、シェアか・・・うん、それならふたつの味を確かめられるし・・・よし、その手でいこう!・・・なら次はトッピングを・・・」

「「「「もういいよ!!」」」」

 

 結局追加のトッピングは頼まず、代わりに『ギョーザ』と『チャーハン』という料理を頼んだ。

 店員が言うには常連さんはよくこの三品を頼むらしい。

 

 

 待つこと5分、美味しそうな湯気と共に料理が運ばれてきた。

 ルートとシンディは早速それぞれのラーメンを小皿に移し交換する。

 待ちに待ったこの瞬間、皆が示し合わせたかのようにスープをレンゲで掬う。

 

「・・・・・・・・・!!!」

 

 ゴクリとスープを飲み込み一拍、カッ!と目を見開いたかと思えば次はズルズルと麺を勢いよく啜る。

 

「うまあぁぁぁぁいっ!!」

 

 普段感情をあまり表に出さないルートが珍しく心の底から見せる満面の笑み。

 メアリー達もうまいうまいと箸やフォークが止まらない。

 本来このラーメンは箸で食べるのが一般的なのだが、箸はヤマトなどの一部の地域でしか普及していないためトレス王国等では慣れ親しんでいるフォークを使う人が多いのだ。

 

「このこってりとした豚のコク、それでいてしつこ過ぎず旨味が凝縮されている・・・そして麺、この細い麺にトロトロのスープがよく絡んで止まらない!更に麺が固めに茹でられてるから噛みごたえがあって───」

「・・・なんか、いつものルートと違うッス・・・」

「はい、こんなハイテンションなルートくん初めてです・・・」

「まるで別人だぜ・・・」

「美味しいもの食べたときのルートはテンション高いよ・・・まぁここまでのは珍しいけどね・・・」

 

 普段とあまりに違うルートのテンションに若干困惑しながらも空腹だったこと、本当に美味しかったこともありどんどん食べ進めていく一行。

 ルートはシンディとシェアしたしょうゆラーメンを食べた時も同じようにテンションを上げ、また長々と感想を述べていった。

 

 ラーメンを半分ほど食べ終えたところでそろそろギョーザとチャーハンも食べようと皿に取り分ける。

 まずはギョーザ。

 肉や野菜などの餡を小麦粉の皮で包み焼いたものらしく、茹でたり揚げたりとバリエーションも多いとのこと。

 まだ熱々のうちにタレをつけて頂くとしよう。

 

「ハムッ・・・ンムンムンム・・・・・うまいっ!」

 

 皮はモチモチとしているが底はパリパリ、噛んだ瞬間中に閉じ込められた旨味と香りが肉汁と共に口内へ弾け飛んでいく。

 肉だけでなく野菜も入っているのでしつこくなく、かといって物足りなさもない。

 サイズ感も丁度よく、これならどんどん入っていきそうだ。

 

 あっという間にギョーザをを平らげたルートは興奮冷めやらぬままチャーハンへとレンゲを伸ばす。

 型にはめたのだろう綺麗な半球状をした米料理。

 米、肉、野菜、卵を高火力で一気に炒める料理で、厨房から今もカァンッカァンッと激しく鍋を振るう音が聞こえる。

 レンゲで掬って目の前に持ってくるとよく分かる、米の一粒一粒が卵でコーティングされて黄金色に輝いて見える。

 

「ハフッ・・・ハフハフンムンム・・・・・んぅぅぅっやっぱりうまい!」

 

 なんだこれ!?パラパラとしていて米が一粒一粒独立している!かといってパサパサはしていない!?

 ・・・・・フム、なるほど・・・卵でコーティングすることで中の水分を無くさずにパラパラにしているのか・・・パラパラになっているから味も均等に入っているわけだな。

 

 その後もルートは、ラーメンのスープとチャーハンを一緒に食べて感動したりと、キラキラと眩しい子供のような眼で食事を進めていった。

 スープを飲み終えたルートは非常に満足した表情でお腹をさすっていた。

 

 

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