陽が傾き朱く染まっていく街並。
陽が沈んでいくにつれて、影は夜が来るのを歓迎するかのように長く伸びていく。
「・・・待ちくたびれたぜ」
目の前で自分を取り囲む集団に伸びをしながら答えるクレス。
見渡す限りの黒装束の一団、まだ夕方なのにも関わらずこの公園だけは一足先に夜を迎えたかのようだ。
「で?コバルトのクソ野郎はちゃんと来てんだろうな?」
「ふんっ、そんな軽口が叩けるのも今のうちだけだぞ」
黒装束の先頭集団がパッと左右に別れたかと思うと、コバルトがゆっくりと前へ歩み出してきた。
「大人しく一人で来るとは思ってなかったが・・・いいのか?こんな堂々と人前に出てきて・・・」
「問題ない、ちゃんと人払いは済ませてある」
確かに周りには黒装束ばかりで一般人は一人もいない。
関わり合いになりたくないのか、近くの住宅は軒並みカーテンを閉めきっている。
「その怪しい黒装束達が例の傭兵か?」
「そうだ、喜べよ?Sランク冒険者であるお前の為にいつもより多目に連れてきてやったんだからな」
百を超えるであろう黒装束達をバックに、これが自分の力だ!と両手を拡げる。
「下民が貴族に楯突いたらどうなるか・・・今からたっぷりと教えてやる」
「ゲスな顔だなぁ・・・一応聞いておくが、俺に文句を言いに来たってことでいいんだよな?」
なら殺したって良いわけだ、そう警告したのだから。
ベンチから立ち上がると、コバルトを守るために黒装束が即座に防御体勢をとる。
なるほど、やり手の傭兵なのだろうよく訓練されている。
コバルトもこちらが黒装束に尻込みするタマとは思っていないのだろう、高みの見物をするために後は傭兵達に任せて後ろへ向かっているようだ。
どうやらコバルトはこの人数なら余裕で自分を倒せると思っているようだが・・・・・考えが甘い、甘過ぎる。
Sランク冒険者を舐めすぎだ。
「見せてやるよ・・・Sランクの力を、なぁっ!!」
先頭の傭兵に挨拶代わりの跳び蹴りをぶちかます。
不意を突かれた傭兵はガードすることもできずに勢いよく吹っ飛び、何人かの傭兵を巻き込んだ後完全に沈黙した。
身体強化と光の魔力を合わせた蹴りだ、一応手加減はしておいたが・・・死にはしないだろうが少なくとも肋骨は折れていて動くことも出来ないだろう。
「なっ、何してる!さっさと奴をなぶり殺せっ!!」
轟音に振り返ると自身の横を傭兵が吹っ飛んでいった。
その力に慄きつつも急いで反撃を命ずる。
戦力ではこちらが上回っている筈なのだ。
相手は一人、さっさと膝を折り頭を垂れるがいい。
それに、万が一の場合〝アレ〟がある。
「おらっ、さっさとかかってこいよ・・・晩飯に遅れちまう」
不適に笑いながら腰のホルスターより愛用の魔銃二丁を抜き構える。
挑発されたと分かったのだろう、一斉に武器を抜き怒声と共に襲いかかってくる。
だがダメだ・・・連携はうまく出来ているが、如何せん力が足りない。
まずは魔銃で前方の敵を凪ぎ払う。
左右から回り込んでくるが、左を魔銃で牽制し右側に渾身の蹴りをお見舞いしてやる。
右の脅威が消えたところで牽制しておいた左側に魔銃二丁の光線を叩き込む。
あっという間に前線がやられて傭兵達は尻込みしてしまった。
まぁ無理もないだろう、魔銃と蹴りによる遠距離近距離を同時にこなし、それがどちらも高威力で当たれば即ダウン級、しかも自分達の連携にも難なく対応しているとなればもう打つ手がない。
だがやらねばならない。
やらなければ自分達がコバルトに消されてしまうのだから。
「・・・何だこれは・・・・・」
目の前に倒れ伏す黒装束の群れ、呻き声が聞こえることから死んではいないが動けないのなら同じことだ。
まだやられていない奴等も目の前の惨状に恐怖して前に出ようとしない。
奴が一人目を蹴り飛ばしてからものの数分で半数以上をやられた。
こちらが攻めるのを止めて暇になったのか両手で魔銃をクルクルと回して遊んでいる。
まさかここまでとは・・・・・やはり切り札を用意しておいて良かった。
「おいクレス!スラムのガキは元気か?」
「・・・何?」
「実はな、傭兵はここだけじゃなくスラム街にも向かってるんだ・・・どういう事か分かるか?」
簡単だ、今回の件の発端とも言えるシンとネイを捕らえれば、クレスはこちらに手を出せなくなる。
確証はないがわざわざ貴族に喧嘩を売る位だ、よほどの親密な関係なのは間違いないだろう。
たとえ捕らえられずとも殺すことさえ出来ればクレスの心を砕くことくらいはできる筈だ。
・・・・・しかし遅い、報告はまだか?ガキ二人に何を手間取っている・・・
「
「何!?」
「なんせ・・・あいつがいるからな」
何だ?ガキ共を狙うのがバレていたのか!?それで騎士でも派遣したのか?いや、この辺の騎士なら俺の部下だと分かれば直ぐに手を退く筈、副団長クラスが動く筈はないし・・・誰だ?誰の話をしている!?
スラム街に入った傭兵達はシンとネイのいるという村に向かっていた。
途中にいたスラムの住人達は自分達の姿を見た途端野うさぎのように逃げていったのには笑った。
何故か所々にバリケードが設置されていたが、自分達が向かう村への道から外れた場所にばかり設置されていた。
一応抵抗する意思はあるみたいだが・・・やはりスラムのガキだな、てんで検討違いな所に作ってやがる。
これじゃあむしろ正しい道はこっちですよって案内してるようなものだぜ。
そう嘲笑いながら道を進んでいくと、もう村まではもうすぐというところで一際大きなバリケードが道を塞いでいた。
まぁ流石に村の正面を間違えるほどバカじゃないか、と迂回ルートでも探そうかとした時、道の端に杖を抱えて座り込む黒髪の女を見つけた。
スラムの連中ほどボロボロではないが少し汚れた服を着ている。
あまり見かけないが確かヤマト?の服だった気がする。
まぁその辺はどうでもいい、この先の村への道案内をさせよう。
「おいそこの姉ちゃん、バリケードのせいで道が通れねぇ。他の道を案内しろや」
素直に教えればそれでよし、断れば村の奴への見せしめに殺してやる。
いや、見た目もなかなかだしひん剥いてやるか?
「おぉ、やっと来やしたか。待ちくたびれて寝ちまうところでした」
閉じた目を擦りながら杖をつき立ち上がる女。
まるで来るのが分かっていたとでも言いたげな物言い、この人数を相手にも物怖じしないとは・・・さては寝ぼけててまだ状況が分かってないのか?
「おい、まだ夢から覚めてねぇみたいだな。しょうがねぇ、ちょっと恥ずかしい思いでもすりゃあ目も覚め───っぎゃあぁぁぁぁぁっ!!?」
瞬きをした瞬間、女へと伸ばした右腕の肘から先が消えていた。