Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第59話 盲目の剣士、ウタカタ

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 ボトッ、誰もが常日頃から見馴れ使い馴れた右腕(それ)は、実にあっさりと傭兵(持ち主)から離れ落ちた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 絶叫と共に溢れ出る鮮血。

 無意識に左手で二の腕を押さえるも出血の勢いは止まらない。

 それでも痛みに馴れてきたのか、はたまた出血により痛覚が麻痺してきたからなのか、男は激痛に顔を歪ませながらもある程度冷静さを取り戻していた。

 

 っ落ち着け俺、一旦冷静になれ!

 何が起こったかはよく分からねぇがあの女が何かしたのは明白だ。

 さっきは不意を突かれたがもう油断しねぇ、ぶっ殺してやる!

 

「覚悟しろこの(アマ)ァァ『シュッ』ァァッ!」

 

 ボトッ、と今度は男の頭が地に落ちる。

 男は自分が何をされたのか分かっていなかったのだろう、地に落ちた生首は己の腕を切断したであろう女への憤怒の表情のまま変わっていなかった。

 首無しの男の体は首から血を吹き出しながらも、その事実に気付いていないようにそのままフラフラと女へ歩み寄っていったが、三,四歩歩いたところで限界が来たようでビクンッ、と痙攣したかと思うとそのまま前のめりに倒れて動かなくなった。

 

「やれやれ、腕一本で勉強できたと思いやしたが・・・」

 

 女がやれやれといった風に首を振る。

 

 仲間が殺られた筈だが、傭兵達は直ぐには動けず皆息を飲んでいた。

 その理由は女の実力をまざまざと見せつけられたから。

 腕の時は分からなかったが、警戒していたお陰で今のは少しだけ見えた。

 女の右手が杖の上部を握った瞬間体がぶれ、元に戻ったと思った時には男の首が切れていた。

 恐らくあの杖は仕込刀、目にも止まらぬ速さにて刀を抜き首を飛ばした後また刀を鞘へと戻したのだろう。

 やったことは単純、しかしあまりにも速すぎる。

 単純であるからこそ女の技量の高さがとてつもないと理解できてしまう。

 

「さて、順番が逆になってしまいやしたが警告させて頂きやす・・・あ~ゴホンッ、あなた方には今すぐ引き返すことをおすすめしやす。この先へ進もうとするお方は・・・それ相応のお覚悟を!」

 

 男達の予想通りであった仕込刀から少しだけ刃を覗かせ威嚇する。

 女の覇気に怯む男達であったが、ここで退けばコバルトに処断されるのは確実である。

 何より自分達は戦うことが仕事の傭兵、女一人を相手に退くなどプライドが許さない。

 やってやる、女一人だと油断はしない、傭兵の戦い方ってやつを見せてやる!

 

 

 

 男達はここで大人しく引き返すべきだった。

 処断の可能性が大きくてもそこに生存を賭けるべきだったのだ。

 気付いた時にはもう遅い、戦うことを選択してしまった時点で男達はあらゆる生存の道を閉ざされていた。

 

 白刃と共に手足が舞い、薄暗い路地が鮮血により紅く染まっていく。

 夕日が差し込まない暗い雰囲気だった路地が今ではレッドカーペットでも敷いたかのように真っ赤になっていた。

 先程の意気込みとは正反対に腰が引けている男達は最早繊維の欠片もない。

 倒す、殺すという意気は無くなり、代わりに逃げたい、死にたくないというより強い思いが彼等を突き動かしていた。

 

「クソっ、こういうことかよ!」

 

 一人の男がようやく気付いた。

 女が何故道の途中で自分達を待っていたのか、それは自分達に傭兵としての戦い方を十全に発揮させないためだった。

 この狭い路地の幅では横に3人も並べない、剣を振るうことを考えれば二人でも狭い。

 つまり囲むことが出来ず常に正面で1対1の戦いを強いられるということだ。

 そうなれば視認すら困難な攻撃を一人で受けることになる。

 視認すら困難なのに防御や回避などできる筈もない、前にいた奴等はバッタバッタと斬られていった。

 それを見て何人かが逃走を試みるが、前も後ろも詰まっているうえに別の道にはバリケードが設置されており陣形を変えられない。

 なるほど、これらのバリケードは自分達をこの場に留めるために意味をもって設置されたのかと今になって後悔する。

 村へ向かう際は何の障害にもならない唯のインテリア、しかし村から逃げ帰る際は行く手を阻む数多の壁へと変貌する。

 これらのバリケードのせいで、本来無数に枝分かれする筈の路地は侵入者の逃げ場を奪う地獄の一本道へと姿を変えた。

 

「美味しいですかい?ムラサメの旦那・・・何?薄味過ぎる?そればっかりはあっしにはどうしようも・・・・・」

 

 先程からブツブツと独り言を話しているのが恐怖に拍車をかけている。

 前の奴等を援護しようと弓を射ろうとしても、前の奴等自身が女の盾となってしまうので援護も出来ない。

 ・・・だが大丈夫、こっちが集団で戦えないということはあちらも同じように一度に大人数は斬れないということ。

 そうなればじきに大通りへと出られる、そのときが本当の勝負時だ。

 殺られた奴等には酷だがうまく壁になってもらえて助かったぜ。

 

 

「・・・・・嘘だろ?」

 

 そろそろ大通りが見えてくるだろうという地点に差し掛かり、ようやくこの地獄から脱出できると少しずつ笑顔が戻ってきた男達の目の前に文字通り壁が立ちはだかった。

 

「何でこんな所にバリケードがあるんだよ!?さっきまで何も無かったじゃねえか!!」

 

 震える手でバリケードをガンガン叩くがびくともしない。

 継ぎ接ぎだらけのオンボロに見えるがなかなかどうして頑丈に作られている。

 これでは大通りに出るどころかここから生き残ることさえ難しい。

 ザッザッ、ザシュッ、ザッザッザッ、ザシュザシュッ。

 地獄の使者がどんどん近づいてくるがもうこれ以上は進めない、なら覚悟を決めるしかない。

 

「ウォラァァァァッ!!殺ってやるぞ!高々女一人に俺達がやられてたまるかってんだぁっ!!」

 

 完全な空元気だが無理矢理にでも士気を上げないととても平静ではいられない。

 すると他の男達からも雄叫びが聞こえてくる、どうやら他の奴等も覚悟を決めたようだ。

 

「おや、まだまだ元気でございやすねぇ・・・」

 

 何十人と人を斬殺しているとは思えないほどにケロリとしているこの女、この(バケモノ)は一体何者なのか、平静を取り戻した今だからこそ浮かんできた疑問だった。

 敵の正体を知らぬまま戦いを挑むのはバカのすることだ。

 だからこそ今は少しでも情報を手に入れて生き残る確率を1%でも多く引き上げたい。

 

「おい女!お前一体何モンだ?」

「おや今更ですかい?・・・では失礼して・・・あっしはウタカタ、ヤマトは駿河より流れ流れてこの土地へ、盲目の身ではありやすが、刀片手に今は冒険者を名乗らせて頂いておりやす・・・」

 

 盲目?目が見えないのにあんな簡単にバッサバッサと俺達を斬り裂いてたのか!?

 目が見えていない女に俺達は傷の一つも負わせられてないってのか!?

 またひとつプライドがへし折られた気がする・・・。

 

「も、盲目の剣士、ウタカタ?ハハハっ、嘘だろ・・・?」

「おい、どうした?」

 

 自分の横で一人が乾いた笑いをあげながら剣を落とした。

 

「冗談じゃねぇよ・・・・そいつもSランクだ!」

 

 なっ!クレスだけじゃなく、こいつもSランク冒険者!?

 なら俺達が何人束になったって叶う筈がねえじゃねぇか!

 ふざけんな!スラムからガキ二人を連れてくるだけの簡単な仕事だったんじゃねえのかよ・・・

 こんなバケモンがいるならどんなに金貰っても割に合わねぇぞ!

 

「なっ、なぁ!俺達はもう手を引く、だから見逃してくれよ!?」

 

 情けないとは分かっているが生きるか死ぬかの瀬戸際、もう形振り構っていられない、プライドなんてとっくの昔に捨ててきた。

 

「・・・・・警告はさっき済ませた筈でございやす・・・」

 

 目は開いていないが、その言葉には呆れと怒りがこもっていた。

 ここまで来て往生際が悪い、とゆっくり一歩一歩近付いてくる。

 

「待ってくれ!コバルトとももう縁を切る!何ならあんたの私兵として使って貰ってもいい!だから頼むよ!?」

「すいやせんが・・・・・『慈悲は一切かけるな』と言われてやすので・・・」

 

 また一人斬られた、また一人、また一人・・・・・どんどん目の前の仲間が減っていく。

 

「いやだ・・・・いやだ・・・・・・っ!?」

 

 気付けば周りにもう仲間はおらず、背中にはバリケードの無機質な冷たさがもう逃げ場は無いと告げている。

 

「クソぉ・・・・・俺が、俺達が何かしたってのかよぉぉぉっ!?」

 

 自分達はまだガキ二人に出会ってもいない。

 実際にあいつらに手を出したのなら話は分かるがこれはあんまりではないか?

 

「・・・・・可笑しな事を仰る・・・お言葉を返すようではございやすが、何かを〝したから〟ではなく、何かを〝しようとしたから〟こうなってるんじゃあございやせんか?」

 

 言葉通り、一切の慈悲の無い殺意がぶつけられる。

 そして、その言葉に男が何かを思うよりも速く、その白刃は最後の首を斬り飛ばした。

 

 

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