Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第62話 緊急クエスト

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 トレス王国王都に悠然と聳え立つ王城『グリトニル城』。

 その堂々たる佇まいとは裏腹に場内は慌ただしく人が行き交っていた。

 騎士だけではなく文官までもが忙しく走り回っているその様は、長くこの城で働いている者でもここ10年は見たことがない光景だった。

 そんな多くの人が行き交う廊下を進む一人の壮年の男。

 男が近付くと皆が一様に道を開けるのはその地位か、はたまた溢れ出るその威厳か。

 やがて目的の部屋にたどり着き開きっぱなしのドアより入室すると、その姿に気づいた者から次々と敬礼の体勢をとり始める。

 

「お待ちしておりましたアイゼンハルト総長!」

「緊急時だ、作業を進めろ・・・それで?状況はどうなっている」

 

 フロー・アイゼンハルト。

 トレス王国騎士団のトップ、すべての騎士を束ねる総長。

 輝く金髪は獅子の如く、敵には威圧と恐怖を与え味方には安心と勇気を与える。

 また、壮年になりながらも衰えないその美貌は見る者を虜にして止まない。

 

「突如出現したモンスターの大群ですが、今のところ進行してくる様子はありません。数はおおよそ1万で種別は・・・まだ全ては確認できておりません」

「ドラゴンがいると聞いたが?」

「はい、現在3体のみ確認されています。こちらも進行の様子はなくモンスターの上空をグルグルと飛翔しています」

 

 部下からの報告を聞き、フム、と顎に手を当て少し考える。

 1万もの大量のモンスターの突如とした出現、別種のモンスターを争わせず統率する力、それに加えてドラゴンの使役、そこから導き出すとすれば・・・・・。

 

「敵にモンスターをコントロールしている術者がいるはずだ!索敵を急げ!」

「あの量をコントロール、ですか?」

「あぁ、あの数だ、複数人いると思うが・・・ドラゴンを使役していることを考えると魔人、もしくは魔人と同クラスの術者が少なくとも一人はいるだろうな」

 

 ドラゴンを使役するのは容易ではない。

 強さ、賢さ、生命力、精神力、魔力、そのどれもが恐ろしく高いドラゴンを屈服させることが出来るのはせいぜいが魔人くらいだろう。

 それこそ魔王か、それに準ずる上位魔人だけ。

 だとすれば戦力が心許ない。

 

「急ぎ冒険者ギルドに緊急クエストの要請を出せ!防衛軍を組織しモンスターの進行に備える!」

 

 直ぐ様緊急依頼書を書き起こし騎士団総長である自身の名を記す。

 指令を受けた騎士が早馬のように部屋から出て冒険者ギルドへと向かった。

 

「指揮はどなたがとられますか?」

「私がとる」

「総長自らですか!?」

 

 総長が直々に指揮をとることなど今では殆どない。

 軍の指揮は団長や副団長の仕事であり、総長が戦場に立つのはそれこそ国家間の戦争時くらいなものである。

 それでも今回、総長が自ら指揮をとるのには理由があった。

 というのも、現在この王都にいる騎士の数が普段よりも少なく、団長、副団長も殆どが留守にしているのだ。

 兵の指揮を高め、民に安心感を与える為にも自身が出て確実な勝利を掴む必要がある。

 

盾の騎士団(ミネルヴァ)は有事の際に備え王族の保護と城の防備を固めろ!アルファードは空の騎士団(マーキュリー)を率い術者の捜索!キーパーは冒険者を率い本隊に合流せよ!」

 

 指示と共にその場の人間が一斉に動き出す。

 アイゼンハルトのカリスマ性からか、皆慌てることもなく勝利を確信しているかのようでその顔には自然と笑みが浮かんでいる。

 

 

 

 騎士により冒険者ギルドの依頼板に1枚の依頼書が貼り出された。

 『緊急クエスト──王都ティラストリア防衛──クエスト内容 モンスターの撃破、 報酬 未定、 対象ランク Cランク以上』

 緊急クエストは国が騎士団だけでは処理できないと判断した事案等に対して出される依頼で、普通のクエストとは違い対象の冒険者には受ける義務が発生する。

 これは規定額の違約金を払えば免れることが出来るが、危険を強いることになるので普通のクエストよりも報酬が高く、且つプライドにも関わるため殆どの冒険者は依頼を受けるのが普通だ。

 

「受けるのかい?」

「断る理由もないしね」

 

 リンベルで何故か手に入った〝新しい力〟を試すいい機会かもしれないし。

 

「と、いうわけで、シンディとロックは少し宿で待っててね」

「危ないから出てくるんじゃないよ?」

 

 依頼を受注し直ぐに集合場所へ向かうことにする。

 

「待ってください!わ、私にも何かお手伝いさせてください!」

「そうッス!俺っちもゴブリンくらいなら倒せるッスよ!!」

 

 自分達もやれるんだとごねる二人だが連れていくわけにはいかない。

 今回の戦闘ははっきり言って規模が違う。

 いつものように悠長に構えてなんていられない。

 見渡す限りのモンスター、倒しても倒しても次々現れる敵、初めて合う冒険者達との共闘、次々と味方が周りで倒れていくことへのストレスなど、昨日冒険者になったばかりのシンディや未だ未成年のロックにはとても経験させられない。

 しかしそう説明しても尚食い下がってくる二人。

 

「う~ん、こうなったらしょうがないか・・・『プシュッ』」

 

 おもむろに小瓶を取り出したかと思えばノズルを二人に向けてワンプッシュ、霧状の液体が二人の鼻へスゥッと吸い込まれる。

 すると次の瞬間、二人は目をトロ~ンとさせてその場へへたりこんだ。

 

「おいおいルート、二人に何したんだ?」

「ルートそれ、ひょっとしてミラさんに貰った・・・」

「そう、即効性睡眠薬」

 

 魔法薬好きな知り合いの魔法使いに貰った睡眠薬。

 嘗て逃げ出したペットを連れ戻してほしいという依頼を受けた際、気性の荒い虎でとても無傷で連れ帰られる様子ではなかったので使用した時の余りだ。

 研究所に顔を出すと毎回何かしらの新しい薬品を実験と称して渡してくれる。

 今回はそれが役に立った。

 

「よいしょっと、二人を宿に運んでくるからメアリーとエルは先に行ってて」

「いやいや、そういう役は力持ちな俺に任せとけって」

 

 小柄なルートよりは自分が担いで行った方が早いだろうと力こぶを誇示しながらアピールしてくるがそれはできない。

 

「エルが二人を担いでると女の子と子供を誘拐してる風にしか見えないからダメだよ」

 

 大柄な戦士系の男が眠っている若い娘と小さい子供を担いで宿に入っていく・・・犯罪の臭いしかしてこない。

 最悪通報されてしまう・・・というか自分が見かけたらまず間違いなく通報してしまう。

 エリアルドは膝から崩れ落ちたが・・・許しておくれ、これは君を思ってのことなんだ。

 

 というわけでさっさと二人を宿の部屋へと連れていく。

 勿論別々の部屋でベッドには優しく寝かせる。

 聞こえはしないだろうが髪を撫でながら一応小さく『ごめん』と言っておく。

 さぁのんびりとはしてられない、結構時間食っちゃったし集合場所へと急ごう。

 宿へ向かう途中パニックになっている人達が邪魔で二人を担いだ状態だと思うように進めなかったからな。

 多分もう街から出て陣形を組み始めている頃じゃないかな?

 

 宿から出ると避難したのか屋外に人は見当たらない。

 こりゃ好都合だと最短ラインを急いで向かうことにしようとしたその時、少し離れた場所から男の悲鳴と魔力反応を感知した。

 場所は恐らく昨日行った慰霊碑のある広場だ。

 一刻も早くメアリー達の元へ向かいたいが今のを見過ごすことはできない。

 正義感からではなく直感でそう感じた。

 今〝アレ〟を放置してはいけない、と。

 

 

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