Empty of the story   作:うえすぎけんしん

63 / 103
第63話 魔人パイク

____________________

 

 『聖剣カリバーン』、トレス王国に代々伝わる大魔宝具(アーティファクト)であり、歴史上勇者と呼ばれた者達に限り己を握ることを許したとされる伝説を残す剣。

 本当に剣に意思があるかどうかは定かではないが、七英雄が一人『エリック・ディ・アルステイム・トレス』の死以降、この慰霊碑の前より1ミリたりとも動いたことはなかった。

 多くの人間がカリバーンを引き抜こうと柄を握ったがその全てが徒労に終わった。

 何をもって勇者と判断しているのかは分からないが、エリック以降の勇者は未だ現れてはいない。

 

「おいおい静かにしてくれよぉ~、誰か来ちまったらどうしてくれるんだ?せっかく騎士共の目が街の外に向いてるってのによぉ~・・・」

 

 カリバーンの警備を任されていた騎士が力なく倒れる。

 流れ出る血の量とピクリとも動かない体から既に死んでしまっていることが窺える。

 騎士を殺したであろうその男は、既に事切れている騎士に向かって肩を竦めながらやれやれといった表情を見せる。

 

「こんな時にこんな場所で何してるのかな?〝魔人〟・・・」

 

 人間離れした灰色の肌、人間を心底見下しているのであろう赤い瞳、背に携える蝙蝠のような翼、そして男の顔に走る緑色の魔紋(マナクレスト)、間違いなく魔人である。

 

「あ~あぁ~・・・本当に来ちゃったよ・・・けどまぁ見た感じ騎士じゃ無さそうだし・・・ねえ君!危害加えないから大人しくしててくれない?俺はパイク、怪しい者じゃない」

 

 見事な営業スマイルを張り付けて提案してくるが足元に死体が転がっているので説得力皆無だ。

 それに奴の言うことを素直に聞いてやる義理もない。

 

「ちょっとこのカリバーン()を借りてくだけだから、ね?」

 

 胡散臭く親指と人差し指で少し隙間を作り問いかけてくる。

 何が目的だ?何故魔人が聖剣を欲しがる?

 

「何で聖剣が必要なの?」

「ん?そんなん知らねぇ~よ、俺はただ盗ってこいとしか言われてねぇからなぁ~・・・」

「モンスターの群れは陽動でこっちが本命なの?」

「そいつはどうだろうなぁ~・・・」

 

 一瞬目が泳いだ、つまり図星・・・1万ものモンスターを率いてやって来た目的がカリバーンってことか・・・。

 でもカリバーンは勇者にしか扱えないらしいし・・・いや、〝使いたい〟のではなく〝使わせたくない〟のか?新たな勇者が立ち塞がるのを阻止したいとか・・・。

 けどいつ現れるかも分からない勇者の為に1万ものモンスターをけしかけるか?カリバーンにはそれだけの価値がある?

 ・・・・・・・だめだ、結論を出すには情報が少なすぎる。

 

「考え事は終わったかぁ?」

「うん、君をふん縛ってそれからゆっくりと考えることに決めたよ」

 

 頭を振って余計な考えを一旦外し刀を構える。

 おちゃらけているが奴も魔人、決して油断はできない。

 今回は一人だが救援が望めない以上やるしかない。

 最悪時間稼ぎをして騎士団が増援に来るのを待つことになるかもね・・・。

 

「何だよ、結局こうなんのかよぉ~・・・」

 

 魔人を中心に風が吹き始める。

 ゴォゴォと風は徐々に勢いを増し辺りの落ち葉を舞い上げる。

 

「(・・・・・───来るっ!!)──フッ!」

 

 視界に落ち葉が拡がっている最中直感で攻撃が来ると判断したルートは反射的にその場を飛び退いた。

 

 スパンッ・・・ガシャン

 

 ルートが飛び退いた刹那、ルートの後ろにあったベンチがとても綺麗に真っ二つになった。

 滑らかな切断面でくっつければ分からないほどだ。

 

「おおっ!良く避けたなぁ~、初見で避けられたのは久しぶりだ」

 

 嬉しそうに笑う魔人だが両手には何も持っていない。

 つまり今のは剣などの武器ではなく風魔法とかによる斬撃の類いか?

 その後も二度三度と振るわれる攻撃を直感を頼りにかわしていくルートだが攻撃の正体を掴めないでいた。

 ・・・・・おかしい、魔法特有の反応を感知できない・・・。

 魔法を使うときには魔力を使う、当たり前のことだ。

 魔力を使っている以上魔法が使える人間にはそれを感知される、これも当たり前のことだ。

 特に攻撃魔法のように一発ずつ放つものは目で見なくても感覚として迫ってくるのが分かる。

 それなのにあの魔人の攻撃には魔力を感じられないのだ。

 せいぜい落ち葉を舞い上げている風に少し感じる程度だ。

 視界が悪い中での不可視不感知の攻撃、これは流石のルートでも少し堪える。

 正体が分からないというのがこれまた神経を磨り減らしてくれる要因だろう。

 

 

 

 いつもは無気力な人間が行き来するだけのスラム街も今日ばかりは様子が違った。

 スラム街とはいえここは大国トレス王国の王都ティラストリアだ。

 国で一番安全である筈の王都に住んでいて1万ものモンスターの襲撃の経験などありはしない。

 聖戦の折もトレス王国は多くの国家の主翼となって戦ったが、主な戦場になった場所は今のブリガント帝国や獣王国ミズガードの領地だったこともあり、国民の多くは身近に戦場を感じたことはない。

 対岸の火事と、外の世界を知らないからこその恐怖が押し寄せていた。

 つい先程まではターコイズ侯爵家からの寄付という名の迷惑料である食料などの物資を貰い有頂天に舞い上がっていたからこそ、感情の起伏が激しくなってしまっているのだろう。

 

「慌てんなお前ら!頑丈な建物の中に隠れてろ!」

 

 慌てふためく人達に避難の指示を出すクレスは自身も緊急クエストに向かうため急ぎ身支度をすすめながら指示を出す。

 王都の中まで侵入させることは無いとは思うが、何やら嫌な胸騒ぎがするので念のため避難準備もさせる。

 自分も実物を見ていないので実感はないが、1万ものモンスターなんて普通じゃない。

 そんな嫌な予感に舌打ちをしているとシンが近づいてくる。

 

「何やってんだ、(ネイ)と一緒にさっさと隠れてろ」

「いないんだ・・・そのネイがいないんだよ兄ちゃん!」

 

 ネイが消えた。

 シンの話では気づいたらいなくなってたらしい。

 クレスはクエストに向かうのを一時中断し、周りの人達にネイを見ていないかを聞いて回る。

 すると、つい30分ほど前に大通りの方へ向かうのを見たという情報を得た。

 何をこんな時にと思わず頭を掻くがこのままにしてはおけない。

 向こうでも情報は入っていると思うがまだ帰ってこないことを考えると何かしらのトラブルに巻き込まれているかもしれない。

 コバルトの件があったばかりなのでその不安はどんどん高まっていく。

 

「くそっ、俺探してくる!」

 

 シンもコバルトの事を考え冷静さを失ったのか大通りの方へ走って行ってしまう。

 

「おい待て!・・・ったく、前回ボコボコにされたの忘れたのか?」

 

 とりあえずシンの暴走を止めるためクレスも後を追う。

 何もなければいいんだが・・・・・。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。