Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第65話 真の隠し玉

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「残念だったねぇ~・・・」

 

 パイクの右腕がゆっくりと掲げられた。

 ヒュッ、パシッ。

 ルートの左手首が動いたかと思った瞬間、何かがパイクの顔目掛けて放たれた。

 しかし、パイクは驚く様子も見せず冷静にソレを指で挟み込み受け止める。

 パイクの指に挟まっているのは〝針〟、先程ルートを背後から襲ったパイクのトラップの針である。

 動揺くらいは誘えるかと思っていたのかルートの顔は驚きに満ちている。

 

「何だぁ、まだ何か隠し玉を持ってるのかと慎重になってみればこの程度かぁ。予想の範疇だったなぁ・・・じゃあ、今度こそ終わりだよぉ~」

 

 再び掲げられる右腕。

 今度は邪魔も入らず真っ直ぐにルートの首へと迫っていく。

 

 ・・・何だ?何か嫌な予感がする。

 この状況でまだ何かしてくる気なのかぁ?・・・いや、それはないな、これから動き出したんじゃ遅すぎる。

 もう何をしても手遅れ・・・・・?

 

 自分の風の刃がルートの首へ吸い込まれていくその刹那、ルートの左目が青色に変色しているのに気付く。

 何だ?と思うがもう遅い。

 振るわれた刃は最早自分で止めようとしても間に合わない程にルートの首へと迫っていた。

 風の刃がルートの首に触れる・・・そのほんの少し手前、何かに弾かれるようにして刃が爆ぜた。

 今正に敵の首を掻っ切ろうとしていた刃が突如消えた、その事実を脳が正しく処理するよりも早く衝撃が体を襲う。

 もしかしなくてもルートから発せられたであろう衝撃波はパイクの体を数メートル吹き飛ばしたがそれまで、大したダメージは負わせられていない。

 

「ふぅ、まさかこんな隠し玉が残っていたとは・・・──っつぅっ!?」

 

 衝撃波によって巻き起こった土煙の向こうからパイクの使っていた針が飛んできて右肩に突き刺さる。

 謎の衝撃波で不意を突かれた為か流石に今度は避けきれなかった。

 

「本当に往生際がわるぅぅぅっ!!?」

 

 右肩の調子を確認しながら次なる奇襲に備えようとしたその瞬間、土煙の中からワイヤーで縛っていた筈のルートが飛び出してきた。

 手には落とした筈の刀がしっかりと握り締められている。

 

「(そうか、さっきの衝撃波の本当の目的は拘束しているワイヤーを外すためか!)」

 

 直ぐに外さずにいたのは油断を誘って自分に近付かせるため、針を投げてきたのももう手札は無いと思わせるために敢えて止められることを分かって投げたのだろう。

 なら今の針の奇襲は刀を拾う時間を稼ぐためか?ルートの考えを読みながらも反撃の為にワイヤーを振るおうと手を動かす。

 

 ビリビリッ

「つぅっ!」

 

 ワイヤーを振るおうとした瞬間腕に電撃のような感覚が走り発動を止められる。

 

「これは麻痺!?何でこんな時に・・・───まさかっ!!?」

 

 右肩に突き刺さった自分の針、よく見ると何かの液体が塗布されている。

 他に要素が見つからないことから十中八九こいつのせいであることは間違いない。

 

「(本当の狙いは麻痺(こっち)か!)──っだがまだ間に合う、左で!」

 

 まだ生きている左腕で急ぎワイヤーを放つ。

 しかし既に見切られている攻撃、紙一重でかわされ更に接近を許す。

 

「(しょうがない、ここはまた距離をとって・・・)」

「遅いっ!」

「ぅおっ!何だ!!?」

 

 先程と同じように風魔法を前方に噴射してルートを押し戻そうと試みるがルートが左手を突き出す方が一瞬速かった。

 パイクが風魔法を放とうとしびれる腕を前に構えようとしていると、突き出されたルートの左手に急速に体が引き付けられていく。

 後ろに跳ぼうと地面を蹴っているのに勢いに反して体は前へと引っ張られる。

 二人の距離が急速に縮まるが急な反動で体勢を崩されたパイクは隙だらけだ。

 

「くそっ!!」

 

 せめてもの抵抗で風魔法により自身の体を少しでも後ろに飛ばそうとするが、そんなものでルートの刀身から逃れられるものではない。

 振り抜いた一閃はパイクの肩口から脇腹にかけてを一直線に切り裂いた。

 

「ぐおぉぉぁぁぁっ!!」

 

 パイクの絶叫が辺りに木霊する。

 

「ぐぅぅぅ・・・ハァハァ、やるねぇ・・・まさかあんな隠し玉が残ってるとは思わなかったよぉ・・・」

 

 血が溢れ出ている傷口を押さえながらパイクがルートに語りかける。

 未だ冷静を装っているが、ダラダラと額を流れる冷や汗の量が隠しきれない焦りを物語っている。

 

「真の隠し玉ってのは本当の最後まで取っておくものさ」

 

 そう答えるルートはパイクよりは余裕そうなものの、攻撃を紙一重でかわしつつ正体を見極めるという極限の集中作業を行っていたためか同じように滝のような汗をかいている。

 

「そうか、背後からのトラップもあれで防いだのかぁ~・・・」

 

 衝撃波を背後に展開出来るのなら防御体勢をとる必要も無いわけだ、と納得する。

 

「ところで〝今の(衝撃波)〟、どうなってるんだい?発動時に魔力を感じなかったけど・・・」

 

 通常の魔法は発動時に魔力が感知できるものなのだ。

 攻撃魔法ならそれが顕著に現れるものだ。

 パイクがワイヤーに風魔法を纏わせても気付かれないでいたのも、気付かれないほどの微量の魔力だったからこそなのだが、ルートの使った衝撃波や引き寄せレベルなら確実に感知できる筈なのだ。

 

「わざわざ説明すると思う?」

 

 ルートは止めを刺すため、さっきとは逆の構図でパイクに近寄っていく。

 

「冥土の土産に教えてくれてもいいじゃないかぁ~・・・」

「まるでこのまま死んでくれるみたいな言い方だね・・・気づいてるよ?最後の魔法で致命傷は避けてるんでしょ?」

 

 斬られる寸前に使った風魔法、最後の悪あがきではあったが確かに効果は発揮していたようだ。

 しかしそれを見逃さないルートは確実に息の根を止めるために一歩一歩と近付く。

 念のためもう一度麻痺毒を塗った針を両腕に撃ち込んでおく。

 

「随分と念を入れるねぇ~・・・」

「どんな時でも慢心するなって言われてるからね・・・」

 

 いよいよパイクの元に辿り着き刀を振り上げる。

 

「そういえばさっきの君の言葉・・・『真の隠し玉ってのは本当の最後まで取っておくもの』、だっけ?・・・俺もそう思うよ」

 

 ニヤッと笑ったかと思うと突如胸が輝き出す。

 見覚えのあるソレはパイクの使うトラップの魔方陣だ。

 慌ててその場を跳び退くルートの鼻先を飛び出してきたワイヤーが掠める。

 それと同時に煙幕が視界を遮りパイクの姿を隠してしまった。

 

「くそっ!」

 

 どんな襲撃にも対応できるようにと身構えるルートだがなかなか攻撃が飛んでこない。

 

「・・・・・っ!?しまった!!」

 

 何かに気づいたルートはパイクが倒れていた場所に向かって駆け出す。

 が、既にパイクはそこにおらず、逃走を図られた後だった。

 

 

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