Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第66話 取引

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 流れ出る血を地面に落としながら逃げるパイクは街を出るため今出せる全速力で飛行していた。

 とは言っても屋根の上の空を飛んでいるわけではなく、そのまま上体を起こせば地に足が着いてしまうほどの超低空を飛んでいる。

 その理由は二つ。

 まず一つとして目立ってしまうからである。

 騎士達の目が街の外のモンスター軍に向いているとはいえ街中に魔人がいると分かれば面倒くさいことになってしまう。

 そして二つ目、単純にそこまでの飛翔能力が現在使えないからである。

 ルートから受けた傷は致命傷には至らないとはいえ決して浅いというわけではない。

 なのでこの低空飛行もかなり無理をしているのだが生き延びるためには泣き言は言ってられない。

 こうしてる今も追って来ているであろうルートを妨害するため、痺れの引いていない手を使って簡素ではあるがトラップを仕掛けている。

 

「人通りがなくて見られることはないけど・・・逃げづらいねぇ~・・・・・」

 

 外出禁止令が出ているからか辺りには人っ子一人見当たらない。

 魔人である自分を見られることがないので騒ぎにならず済むのだが、隠れ蓑にする人間がいないのでルート(むこう)もこっちを追いやすいだろう。

 

「──っ!・・・ふぅ、直ぐに手当てしないと意識がとびそうだなぁ・・・そろそろ撒かないとヤバイねぇ~・・・」

 

 出血のせいで朦朧とする頭を振って意識を正す。

 

 地上ではいつ人目につくか分からないし不利・・・なら地下に逃げるか?トレス王国の王都だ、下水設備も整っている筈。

 下水道ならトラップも仕掛けやすいだろう。

 醜い逃走劇になるが生き延びるためには仕方ない。

 

 逃走計画を立て下水への侵入口を探す。

 大抵点検用として人の通れるサイズの出入口が街の何ヵ所かにある筈なのだ。

 

「どこだぁ~・・・・・───っとぉっ!!」

 

 下水への出入口を探しながらも周囲への警戒を怠ってはいなかったパイクは横から放たれた光線を回避する。

 魔力の感じからルート(さっきの奴)ではないことが分かる。

 

「お前、魔人だな?」

 

 魔銃を構えた修道服の男がえらい殺気の籠った目でこちらを睨み付けている。

 親の仇と言わんばかりの表情を浮かべているがあいつに何かしたか?

 ・・・・・いや、確実に初対面だ。

 ならなぜいきなり光線をブッパされるんだ?

 

「初めまして・・・だよね?俺が何かしたかな?」

 

 まずは下手に出て隙を探ろう。

 今の光線だけでもこいつが強いってのが分かる。

 傷を負った状態でそんなのと戦っている余裕はない。

 

「なに、お前が魔人だから引き止めただけだ」

 

 引き止めた?殺しにかかったの間違いだろう・・・。

 

「安心しろ、お前が何で傷を負ってるのかなんて興味無ぇ。一つ聞きたいことがあるだけだ」

「聞きたいこと?」

「あぁ、ある男を探してんだ・・・」

 

 本当に害を加える気はないのか?ならさっさと済まし───

 

「───っと、危ない危ない・・・」

 

 咄嗟にその場を飛び退けたパイクは後方からの攻撃を間一髪回避する。

 自分が立っていた場所には見覚えのある暗器、麻痺毒針が刺さっていた。

 

「追い付いたよ」

「・・・あんなトラップじゃ足止めにもならなかったかぁ~」

 

 思わず冷や汗を垂らすパイク。

 やっとこさ逃げ仰せる目処が立ったところにこれではため息の一つも吐きたくなって当然だろう。

 どちらか一人を相手するのも厳しいのに同時に相手取るなんて無茶もいいところだ。

 諦めからか乾いた笑みを溢すパイク。

 ルートはその姿にも油断せず、追走によって乱れた息を整えながら刀を構え近付いていく。

 しかし、

 

 ジュウゥゥ・・・。

「・・・・・何のつもり?」

 

 歩みを止めたルートの足先1メートルの距離に光線が撃ち込まれた。

 やったのは勿論修道服の男、クレスである。

 

「こいつにはまだ用があるんだ、殺らせるわけにはいかねぇ」

「・・・・・・・・・・・・手短にね・・・」

 

 数秒の沈黙の後、ルートは引き下がる選択をとった。

 見たところこのまま逃がす気は無いようだし、無理に揉めてその隙に逃がしてしまえばそれこそ本末転倒になりかねないと思ったからだ。

 用とやらが終わるまで手は出さないが警戒は決して怠らない。

 きっとパイクも生き残るため、自分以上に頭を回転させて状況の打開策を練っている筈だからだ。

 

「・・・・・それで、何だったっけ?男を探してるんだったかな?」

 

 この男には感謝すべきだねぇ・・・お陰で策を考える時間が取れた。

 事態は何も好転していないけど・・・まだ望みはありそうだ・・・。

 

「あぁ、『切り裂きジャック』を探してる」

 

 切り裂きジャック・・・・・なるほど、確かに同じ〝魔人〟に聞いた方が合理的だな。

 

「切り裂きジャック、ねぇ・・・なぁ、なんであんな全国的殺人者を追ってんだぁ~?」

「お前には関係ない」

「国からの依頼か?それとも被害者遺族から?それともあんたの家族が──」

「関係ねぇって言ってんだろっ!!」

 ドシュゥッッッ!

 

 パイクの横を極太の光線が通り過ぎていく。

 当てる気はなかったが殺す気はあった。

 理性で押さえてはいるがいつ爆発してもおかしくはない。

 つまりこれはこいつの〝地雷〟・・・・・ならそれを利用させてもらおう・・・・・。

 

「ん~~~、情報を教えてもいいが・・・あんたは俺に何をしてくれる?」

「交渉できる立場だと思ってんのか?」

 

 やはりそう簡単にはいかないか・・・・・。

 

「このまま情報を喋って用済みにされたんじゃ割りに合わないよぉ~」

「・・・替わりに身の安全でも保証しろってか?」

 

 回答の代わりにチラッとルートに視線を移す。

 クレス(この男)は家族の仇の為ならどんなことでもするって顔だ。

 加えて相手は神出鬼没の殺人鬼、次いつ有力な情報に出会えるか分からないとなれば断る可能性は低い筈。

 

「・・・・・なるほど・・・」

 

 パイクの要求を理解したクレスはルートを見つめるとパイクに向けていた魔銃の照準一旦外し、別の目標(ターゲット)へと再度構え直した。

 

 カチャッ

「・・・・・あれぇ~?」

 

 構え直された銃口の先にあるのはパイクの額、胸元へ向けていた先程と違い銃口が当たりそうな距離にまで近づいている。

 

「お前今、俺のこと〝目的の為なら手段を選ばない奴〟って思ったろ・・・・・それな・・・当たってるぜ?」

 

 あぁ、こいつ〝悪人には一切情け容赦しない(こっちの)〟タイプだったのか・・・。

 流石に腹を決めようかと思ったその時、

 

「クレスさん?」

 

 あまりにも場違いな少女の声が辺りに響いた。

 

 

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