Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第67話 命の選択

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「クレスさん?」

「───っネイッ!?」

 

 ここ数日の間ですっかり聞き慣れてしまったこの声の主は出くわしたこの状況をまだ理解できていないのか固まっている。

 これは不味いとルートはネイの元へと向かおうとするが、あのパイクがこの好機を逃す筈もなかった。

 クレスの意識がネイに割かれている隙に素早く走り出す。

 

「──っ!?待てこら!!・・・ッチッ!」

 

 即座に魔銃を構えるクレスだったが発砲はしなかった。

 いや、出来なかった。

 パイクが向かった先はネイだったのだ。

 射線上にネイが重なるように走ったお陰でクレスからの発砲はない。

 ルートも距離があったため間に合わなかった。

 

「これで形勢逆転、かなぁ~?」

 

 ネイの体にはワイヤーが巻き付いている。

 はっきりと目に見える太さなのは人質だということをより視覚的に訴えるためなのだろう。

 現にその効果は出ているようでクレスは動けないでいる。

 

「・・・汚ねえマネするじゃねぇか・・・・・」

「俺だってやりたくはないさぁ~・・・」

 

 怒りで震えるクレスはそれだけで相手を殺せるのではないかという程の視線をパイクにぶつけるが、それがどうしたと涼しい顔で受け流されてしまう。

 

「え?あ・・・・・え?」

 

 出会い頭に突如として人質とされたネイは事態が急展開過ぎてまだ状況を把握できないでいる。

 それでもなんとなく自身の身の危険は感じているようで目にはじわりと涙が浮かび始めている。

 

「・・・チッ、見逃せばいいのか?」

 

 撃ちはしないが一応魔銃を構えながら尋ねる。

 

「う~ん・・・・・いや、君にはカリバーンを取ってきて貰おうかなぁ~?」

 

 人質をとり優勢になったからか余裕の表情だ。

 

「聖剣カリバーンか?・・・・・一体何のために───」

「おいおい・・・いいかい?これは命令なんだよぉ?余計な詮索なんていらないから黙ってさっさと取ってきてよぉ~」

 

 上下関係をはっきりさせるためにネイに巻き付いているワイヤーをこれ見よがしに締め付ける。

 

「・・・・・水を差すようだけど、カリバーンは勇者じゃないと引き抜けないんでしょ?」

「引き抜けなくても周りの地面ごとくり貫いてくればいいんだよぉ」

 

 つまり聖剣として扱うつもりはないということか?

 もしくは勇者無しでも聖剣を扱える手立てがある?

 いやいや、勇者が向こう側に居るという可能性も・・・・・

 

「いいからさっさと取って──『そこで何をしている!!』・・・あら・・・」

 

 怒声と共に現れたのは三人の騎士、防具も武器も統一された物であることから階級は下の方であることが伺える。

 表情から察するに・・・巡回中怒声が聞こえ駆けつけたら男が少女を拘束している現場に遭遇した・・・って感じかな?

 

「っ!貴様魔人か!?」

「魔人!?どっ、どうする!?」

「どうするって、直ぐ隊長達に知らせないと!」

 

 魔人を見るのが初めてだからかどうか知らないが、人質がいる状況で慌ててどうする・・・。

 

「そっ、そうだな・・・・・よし!お前は応援を呼びに行け!俺達はあの子の保護を試みる!」

 

 三人の中では比較的落ち着いている騎士が仲間に指示を出す。

 

「分かった!直ぐに呼んでくる!」

「急げよ!」

「おいおい、んなことさせると思うかぁ~?」

「うぐっ、ぐ・・・・」

 

 体を百八十度回転させて、いざ仲間を呼んで来ん!と意気込む騎士だったが、勿論そのまま行かせるパイクではない。

 人質であるネイの拘束を強め、その苦悶の声にて騎士の足を止めさせる。

 騎士として民間人の命は守らなければならない・・・上からの命令によっては例外もあるだろうが基本は人名第一、その弱味につけこむ・・・・・人質の使い方としては模範的回答と言えるだろう。

 

「まったく、こんなことしてる場合じゃないってのによぉ~・・・」

 

 柄にもなくイラついてるな・・・・・いや、焦ってる?

 それだけカリバーンが重要ってことなのかな・・・。

 

「あぁ~、数も増えて面倒だぁ!おい、こいつらを殺せ!」

 

 考えることが面倒になったのか思いきった指示を出すな・・・。

 

「・・・カリバーンは取りに行かなくていいのか?」

「一先ずこの場を終わらせてからにするさぁ」

 

 早く心理的に余裕を持ちたいのかクレスを急かす。

 

「・・・・・・・分かった」

 

 ゆっくりと目を瞑って承諾すると、クレスは魔銃をルートに向けて構える。

 

「おっ、おい!本気なのか!?」

「俺は冗談で魔銃(コイツ)を使わねぇよ・・・」

 

 騎士三人は必死になってクレスを止めようとするが、クレスの銃はその鋭い眼光と同じく全くと言っていいほどブレない。

 その瞳が次は自分達に向けられると思い至ったのか騎士達は恐怖で動けなくなった。

 しかし説得すらも出来なくなった騎士達とは違い、ルートの顔には恐怖のきの字すら浮かんではおらず、今から撃たれることを何とも思っていないかのように実に落ち着き払っていた。

 

「悪いな・・・」

「人質がいるんじゃしょうがないよ、それに・・・逆の立場なら僕も同じ選択をすると思うしね」

「・・・・・そうか」

 

 ビシュゥゥンッ・・・・・

 

 引き金はあっさりと引かれた。

 一拍の後、ルートの膝が地に着きそのまま前のめりに倒れる。

 それと同時に倒れたルートの胸元から少しずつ血であろう赤い液体が広がっていく。

 背中からも血が滲んでいく様子が見られることから胸の中心を文字通り撃ち抜いたということが分かる。

 

「・・・・・へぇ~~、まさか本当に撃つとはねぇ~・・・しかも心臓を・・・・・」

 

 いくら自分の大切な人が人質になっているからといってもあんなにあっさりと他人を殺せるとは少し意外だったが、今の状況下では結果嬉しい誤算だったと心の中で感謝する。

 

「その方が苦しまなくて済むだろ・・・」

 

 そう言って振り返ったクレスからは殺してしまったルートへの罪悪感は一切感じられない。

 あるのはただ、パイクへの明確な殺意のみだった。

 

「次はアンタ等だな・・・」

 

 パイクを睨み付けること数秒、指示された標的である残りの騎士三人に視線を向ける。

 騎士達もクレスが本気だと理解したのだろう、素早く剣を構え直し臨戦態勢をとる。

 

「抵抗すんなら・・・・・痛ェ目見んぞっ!!」

 

 

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