大きな衝撃が数度、それだけだった。
「だから言ったろ・・・」
それだけ言うとクレスは戦闘体勢を解いた。
クレスに襲われた三人の騎士達はぐったりと倒れ伏している。
まだ死んではいないようだが再び立ち上がる力は残っていないだろう。
「終わったぞ」
「・・・・・・・まだ死んでないようだがぁ~?」
この場にいる全員を殺せと命じた筈だが騎士達はまだ生きている。
「もう助けを呼ぶ力も残ってねぇよ」
確かにクレスに倒された騎士達は起き上がることも叫ぶことも出来ていない。
苦悶の声なのか必死に呼吸をしようとしているのか「・・・う・・・・・あぁ・・・・・」とくぐもった声が微かに聴こえてくるだけだ。
「それに、お前の目的は聖剣カリバーンなんだろ?余計な時間食ってる暇あんのか?」
そんな暇はない、あるわけがない。
本来ならもうカリバーンを奪取して王都を離れている筈だった。
それなのに・・・・・ルートと出会い、戦い、逃げざるを得なくなったと思えばこれである。
カリバーンを奪えず無駄死にするという最悪の展開は免れたものの今のこの状況・・・決して好転しているとは言い難い。
そもそも、ここまで計画が崩れてしまったのならもうカリバーンなんて放っておいて逃げの一択となるのが普通なのだが、残念ながら〝あの方〟の頭は普通じゃない。
尻尾を巻いて逃げ帰れば即首チョンパ・・・いや、逆に時間をかけてゆっくりと凍りづけ、なんてこともあり得なくはないだろう。
残念ながら自分に自殺願望はないので引き続きカリバーン奪取作戦を遂行するしかない。
「フッ、まぁいい・・・3分で戻ってこ──「ネイッ!!」──・・・・・今度はなんだぁ?」
ようやく計画を軌道修正出来ると思ったのに誰だ!邪魔したのは!!
ピキッと額に青筋が浮かぶが何とか感情をコントロールする。
こういう時こそ冷静にならねばならんのだ。
ジロリと声の主を睨む。
するとそこにいたのは子供、成人するまでまだ数年はあるであろう少年だった。
「お兄ちゃん!!」
血生臭いこの場に今まで大人しく、というかぐったりしていた
お兄ちゃん、ということは兄妹なのか・・・なら存分に利用させてもらおう・・・。
「お前、ネイに何をしてるんだぁぁぁっ!!」
妹が捕らわれているのを目の当たりにしたせいで理性が弾けとんだのか、溢れんばかりの殺意と咆哮をもって向かってくる。
う~ん、もう少し賢くて分をわきまえるようなら使い道もあったのに・・・これじゃあお荷物になるだけだなぁ・・・。
〝コレ〟はいらないと走り込んでくるシンに右腕を向けワイヤーを射出する。
漸く痺れも引いてきたので試し撃ちには丁度いいと考えたのだ。
「・・・───っうぉっと!!」
シンの体が真っ二つ、という一歩手前まで迫ったワイヤーの軌道を慌てて逸らす。
対象を外れたワイヤーは奥に積んであった木箱を斜めに切り落とした。
「・・・・・この子も君の大事なものってわけぇ~?」
シンが目の色を変えた瞬間から無謀にも突っ込んでいくことが予想できていたクレスは、自身の身を盾にする形で二人の間に立ち塞がっていた。
パイクとしては、クレスにはこれからカリバーンを奪ってきてもらわねばならないので殺すわけにはいかない。
より確実にカリバーンを奪取してきてもらう為には行動に支障が出るような傷はまずいのだ。
「クレスの・・・兄ちゃん?」
「落ち着け、大丈夫だ・・・ネイは俺が必ず助けてやる」
パイクを睨み付けたまま言うので表情は分からなかったが、シンの頭にポンと乗せられた手はとても優しく暖かかった。
そう、まるでスラム街と貴族街を分け隔てなく照らすあの太陽のように暖かい手のひらだった。
「仲良し小好しはもうその辺にしときなぁ~、ほら、さっさとカリバーンを取ってくるんだよぉ~」
ワイヤーを出した手をあっさりと引っ込めるとクレスに急ぐよう発破をかける。
きっとこれ以上の面倒は御免なのだろう。
「よっこらせっと」
そう言って立ち上がったクレスはくるりとシンに向き直った。
軽く膝を曲げて視線を合わせると、もう一度頭の上を手のひらでポンポンと叩く。
そしてその手をそのまま降ろしシンの目元を覆った。
「・・・?何をして──」
「分からない?」
突然聴こえた背後からの声に反応する暇もなかった。
背後に何者かの気配を感じた時には既に手遅れ、ネイを捕らえていた左腕の肩口を切り離されていた。
持ち上げていた左腕の拘束が外れ落下していくネイを見ても外傷はない。
つまりネイに当たらないように刃が肩口だけを器用に切り裂いたということである。
一体誰が!?
それを確認するため、痺れとは比べ物にならない程の激痛に耐えながらも背後を振り返る。
「───なっ!!?」
両目に映ったのは・・・つい先程胸を撃ち抜かれ死んだ筈のルートだった。
「バカなっ!?」
何故生きている?確かに心臓を撃ち抜かれていた筈だ。
さっきまで間違いなく死んでいたのに何故今生きている!?
パニックになり頭が混乱するパイクだったがルートがその隙を逃すはずもなく、刀を振り下ろした勢いそのままに前へと踏み込んでくる。
恐らく首でも撥ね飛ばして止めを刺すつもりなのだろう。
・・・だが返り討ちだ。
どんなトリックを使ったかは分からないが今度こそ確実に殺す。
死が間近に迫ってきたからなのか、混乱していた筈の頭が冴えてくるのを感じる。
パイクは乱れた魔力を一瞬で制御し直し、胸に仕込んだ緊急用のトラップ魔法を発動させた。
先のルートとの戦いで逃走するために最後に使ったあの魔法である。
パイクの胸に魔方陣が淡い光と共に浮かび上がり、大量のワイヤーが勢いよく飛び出していく。
このタイミングは避けられない、首を狙って前に突っ込んできている以上後ろは勿論、横に回避することも間に合わない完璧なタイミング。
「あ・・・れ・・・?」
完璧なタイミング・・・だった。
ルートが首を狙って真っ直ぐ前に出てきたのなら、である。
しかしルートはワイヤーに貫かれることもなく、パイクの体の横を通り抜けていく。
ワイヤーはルートの体を掠めることもなく、ただ虚しく宙を突き抜けていった。
刀を振るわずパイクの横を通り抜けたルートは、拘束が解かれ落下していたネイを地上に落ちる前に優しく抱き止めている。
何故今のタイミングで止めを刺しに来なかった?
殺しはしない主義?いや、あいつはそんな甘ちゃんじゃない。
腕を切り落とせば十分だと思った?いや、あいつは確実に止めを刺すまで油断しない奴だからそれはない。
反撃を警戒した?ならなんで先に人質の元へ向かったんだ?
ルートの意図が分からず、ただただ目だけでルートを追う。
それに気づいたのかルートもパイクに向かって振り返った。
二人の視線が重なる。
振り返ったルートは・・・笑っていた。
「ほら、また忘れてる」
そう呟くとルートはネイを抱えたまま大きく横へと飛び退いた。
と同時に自身の背後から高密度の魔力を感じる。
この短時間に目の前で何度も見てきた、全てを焼き尽くさんとする光の魔力。
「・・・くそ」
魔銃から放たれた光線は、日輪の如き閃光と共にパイクの体を呑み込んだ。