Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第69話 たとえ死んでも

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「・・・カハッ・・・・・」

 

 パイクの身体からプスプスと煙が上がる。

 火傷どころか炭化している部分もあるのだろう、辺りに肉の焼けた焦げ臭い臭いが漂っている。

 全身を高熱の光線に包まれたパイクは力無く膝を折り、そのままうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「なんで、生きてるんだぁ・・・?胸を、撃ち抜かれて・・・死んだ筈、なのに・・・・・」

「まだ生きてるんだ、結構しぶといんだね・・・」

 

 息も絶え絶え、目も虚ろであるが尋ねずにはいられなかった。

 何故あの光線を受けて生きているのか、をである。

 いくら高熱な光線で瞬時に傷口が焼き塞がれていたとしても、それでも尚大量に出血しているのをしっかりと目撃しているのだ。

 

「何でピンピンしてるのか、だっけ?・・・確かに僕は撃たれたよ・・・え~っと・・・・・」

「クレスだ」

「そう、クレスに・・・・・でもね、当たってないんだよ」

 

 そう言ってルートは血だらけな服をたくしあげていく。

 するとそこには、傷ひとつついていない綺麗な肌色があった。

 

「・・・バカな・・・・・」

 

 じゃああの出血は偽物?そんなバカな、死んで気配が消えていく様まであんなにもリアルだったというのに・・・。

 

「師匠に教えられた『死んだフリ』が役に立つ日が来るとはね」

 

 ルートはあの時、パイクから自身の姿が隠れて見えるようにクレスの前へと立った。

 そこでクレスだけに見えるように死んだフリグッズを取り出し脇の下を撃つように誘導、あとはタイミングを合わせて出血したように見せかけたというわけだ。

 

「気配には気を使ったよ、君そういうの鋭そうだったから」

 

 やろうと思ってあそこまで気配を無に出来るものなのか?

 正直途中から死体という存在すら忘れてしまっていた。

 

「あとは俺の首を・・・虎視眈々と狙ってたってわけかぁ・・・」

 

 シンと呼ばれる少年の登場は偶然、それはクレスの表情や行動から見て取れた。

 だからこそ騙された。

 だからこそまんまと無防備な背中をルートに晒してしまった。

 自ら隙を作ってしまうとは・・・暗器使いとして情けないことこの上ない。

 笑うほどの体力も残っていないのに自然と笑みが溢れてしまう。

 目は霞み体温はどんどん低下、最早痛みすら感じなくなってきた。

 これが死か・・・案外あっさりしたものだなぁ・・・・・───っ!?

 

「・・・何を?」

「まだ死なせねぇ」

 

 止まりかけていた心臓が再び動き出した。

 死を受け入れ手放そうとした意識を無理矢理引き留められる。

 閉じていた瞼を開けると、目の前には自身の胸に手を当てているクレスがいた。

 その手からは淡い緑色の光が発せられており、今自分の心臓はクレスの治癒魔法によって動かされているのだと理解する。

 何故こんなことをするのか・・・・・そんなこと決まっている。

 

「お前からまだ『切り裂きジャック』の情報を聞いてねぇ」

 

 やはりそうだ、この男が敵である自分を助けることなどありはしない。

 

「知ってるならさっさと言え、さもなきゃ殺す」

「ここまでやっておいてよく言うねぇ・・・・・悪いが知らないよ・・・」

「隠しだては・・・」

「してないよ・・・」

 

 あんな狂人に肩入れする気なんてないよ。

 俺達が同じ〝魔人〟だとしても、奴はそんなこと気にしない。

 奴は切りたければ切る。

 そう、たとえ相手が誰であっても・・・。

 

「・・・そうか、残念だ・・・・・」

「──待って!」

 

 治癒魔法を止めようとするクレスをルートが制す。

 何だ、まだ死なせてくれないのか・・・。

 

「カリバーンを盗むよう指示したのは誰?」

「・・・答えると思うのかぁ?」

 

 死ぬと分かっていて味方の情報をベラベラ話すバカがいると思っているのか?いや、こいつはそんな間抜けじゃないはずだ。

 ・・・なら延命しながら拷問でもするか?

 

「・・・正直に答えるなら、治療した後身柄の保証を国と掛け合うよ」

 

 ・・・・・そう来たか。

 厳しい監視の目がつくだろうが身の安全が保証されるのなら悪い話ではない。

 むしろ破格の条件だと飛び付く奴等が大半だろう。

 こいつ、俺達組織の情報にそれだけの価値があると見抜いたのか?

 確かに聖剣奪取なんて大国に喧嘩を売るような大それた事、余程のバカか同じ大国くらいしかやりはしない。

 実際派手な陽動を使った訳だし下手な言い訳は通用しないのを見越してるんだろう。

 だからこそ身の安全を保証すると言ったんだ。

 裏切り身を売った者への制裁から守ると安心させるために・・・。

 

「・・・随分と破格の条件だなぁ」

「悪くないでしょ?」

「あぁ悪くない。・・・だけどその条件を守ってくれる保証はあるのか?」

 

 いい取引だがあくまでこいつの口約束だ。

 国がこの条件を素直に飲むとは考えにくい。

 

「国家の危機を回避できるなら安い買い物だと思うけど?」

 

 国家の危機、か・・・。

 こいつはこの騒動からそこまで推測してるってのかよ・・・。

 

「どうかな?」

「・・・・・断る」

「・・・何でか理由を聞いても?」

 

 答えが最初から分かっていたのか、ルートは特に意外そうな顔を見せず『やっぱり』といった納得した表情をしている。

 対してパイクは動けない体ながらも力強い目をルートに向ける。

 

「理由も何も、最初から覚悟していただけさ。〝死〟という覚悟を」

 

 死が怖くないわけではない。

 ただその恐怖を抱えてでもやり遂げるべき事だっただけだ。

 

「・・・僕には理解できないな」

「理解してもらおうなんて考えちゃいないさ」

 

 生きるという選択肢を放り捨ててまで死を選ぶというプライドがルートには理解できなかった。

 元々人間としての感情が希薄だったルートはパイクの覚悟を正しく認識はしたが、何故その答えを選んだのかは分からないようだ。

 しかしクレスは違った。

 仇である〝切り裂きジャック〟、奴をこの手で殺せるのならば自身の命を捨てる覚悟があるクレスは、パイクの並々ならぬ熱意が理解できてしまう。

 死ぬかもしれないからとか危険だからとか、そんなありきたりなものは立ち止まる障害にすらなりはしない。

 きっとパイクにも己を突き動かす〝何か〟があるのだろう。

 そう、自分にとっての『母』のように・・・。

 

「黙して死を選ぶ・・・それでいいんだね?」

「なんなら尋問でもするかぁ?俺が喋っちまうのが早いか、それとも脱け殻になっちまうのが早いか、我慢比べだなぁ・・・」

「う~~~ん・・・僕的にはそっちでもいいんだけど・・・・・」

 

 恐らくクレスはそういうのは嫌いな類いだ。

 尋問しようとしてもクレスが治癒を止めてしまえばパイクは直ぐに死んでしまう。

 かといってここで情報源を失うのも美味しくない。

 未だ定かではないが国家規模の何かが起こっている。

 国はともかく自分達に火の粉が振りかけるならば早めに排除したい。

 その為にもパイクにはまだ生きていてもらわなければ困る。

 たとえ少ししか情報を得られなくてもゼロよりはマシだ。

 よし、まずはクレスを説得して・・・あそこに倒れてる騎士達に身柄を引き渡して・・・・・ん?何か上に・・・──っ!?

 

 その時、上空より強力な魔力の塊が放たれた。

 

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