Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第70話 現れる氷の魔人

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 ルートはネイを、クレスはシンを抱え急ぎその場を飛び退いた。

 上空より飛来した魔力弾はパイクに直撃し、強烈な冷気と共に辺りを凍らせていく。

 見上げれば灰色の肌に赤い瞳、蝙蝠のような翼で滞空する男がいた。

 最早見慣れたその外見から魔人であることは明白だが、パイクと決定的に違うのはその圧倒的なまでのプレッシャー。

 足元に漂う冷気すら暖かく感じるほどの底冷えするような魔力は、実質敗北を喫したあのグランツよりも重く感じる。

 

「パイクよ、安らかに眠れ」

 

 魔人は目を閉じ、剣を胸に当て、眼下にて凍りつき息絶えたパイクに黙祷を捧げている。

 

「今のは口封じってやつかな?」

 

 仲間の情報を知られないためにと僕らごと消しに来たのか・・・。

 

「パイクは口を割らんよ・・・死への恐怖から解き放っただけのこと・・・」

 

 冷静に、それでいて確信をもって答える。

 ルート達を見下ろす鋭い目はまるで『つまらんことを聞くな』と訴えているようだ。

 

「ではな・・・」

「・・・ハ?・・・・・・・ぅおおぉぉぉいちょっと待てっ!!」

 

 強敵との対戦に身構えるルート達を前に魔人はあっさりと飛び去ろうとする。

 思わず呆気にとられるが、我に返ったクレスがそれを制す。

 

「俺達を見逃すのか!?」

 

 止めは刺していないにしても、仮にも仲間を倒した奴等を見逃して帰るなんて普通じゃない。

 まして大きな力量差があるのだから仇を討つのだって難しくはないだろう。

 そりゃこちらとしては危機が勝手に去ってくれるのはありがたいのだが・・・・なんというか・・・口には出さないものの『眼中にはない』と言われたみたいで少しムカつくのだ。

 

「見逃すも何も、もうここに用はない」

「お目当てのカリバーンはいいのか?」

「ここに来る前に試したが、あれはどうやっても動かんことが分かった」

 

 なんと、既にカリバーンの元へ行っていたとは・・・・・全く気づかなかった。

 ・・・セリフから察するに地面ごと持っていくなどの方法も試したのだろう、それでも無理だったから諦める、と・・・。

 

「・・・仇として狙わねぇのか?」

「たった一人の死に拘ってどうする?奴も魔人族の戦士、覚悟はしていた筈だ」

 

 淡々と言い切った。

 その目には、その言葉には・・・一片の迷いすら、感情の起伏も感じられなかった。

 

「・・・たった一人の死、だと?・・・・・・・」

「もういいか?」

 

 項垂れるクレスを余所に再び飛び立とうと翼を広げる魔人。

 ルートとしてはこのまま魔人が帰ってくれた方が面倒がなくて助かるのだが・・・クレスの表情を見るに面倒事は避けられないようだ。

 

「待ちやがれぇぇぇっっ!!」

 

 咆哮と共に特大の光線が魔人に放たれる。

 しかし当の魔人は特に焦った様子も見せず、くるんと身を翻すと腰に差した剣を抜きスパッ、と実にあっさりと光線を縦に切り裂いた。

 二つに切り分けられた光線が虚しく空に消えていく。

 

「・・・何のつもりだ?もう用はないと言った筈だが・・・」

「そっちになくてもこっちにはあるんだよ・・・」

 

 何が琴線に触れたのか、クレスの瞳は猛烈な怒りに染められている。

 そして、視線は魔人に向けたままシンをこちらに投げ渡してきた。

 

「そいつら連れて離れてろ・・・」

 

 空いた手で魔銃をもう一丁構える姿を見るに、どうやら本気でやりたいということらしい。

 やるのは構わないが自分を巻き込まないでほしいな、と思いながらも巻き添えを食わないよう二人を連れて距離をとる。

 

「・・・で、用とは何だ?」

「切り裂きジャックの居場所を知ってるか?」

「・・・どうだろうな?」

「・・・曖昧だな・・・まぁいいか、力ずくで吐かせりゃよぉっ!」

 

 そう言うや否や魔銃を思いっきりぶっ放すクレスだったが、先程と同じようにあっさりと両断されてしまう。

 

「即実力行使か、とんだ野蛮人だな・・・」

 

 血の気の多さに呆れながらも、連射される光線を次々と剣で両断していく。

 

「ちっ、舐めんな!」

 

 自身の攻撃がいとも簡単に捌かれるのを見てクレスは連射を止め、二丁の魔銃を前方に並べて構える。

 

「くらえ、猛火の光〝(ブレイズ・レイ)〟!」

 

 一拍の後、さっきまでとは比べ物にもならない熱量と魔力が凝縮された巨大な光線が炎の渦を帯びながら向かっていく。

 

「ほぉ、大したものだ」

 

 直視するだけで目をやられそうな殺人光線が迫っているというのに魔人は冷や汗ひとつかきはしない。

 肌を焦がすような熱風も何のその、まるでそよ風に吹かれているようで見れば微笑みすら浮かべている。

 

「・・・・・〝氷盾(スクエド)〟」

 

 炎を伴った光線が魔人を包み込んだ。

 そのままの威力で放射は続けられ、目を覆うほどの閃光はその後5秒程経ってようやく萎んでいった。

 

「ハァ、ハァ、ちっとやり過ぎたか?」

 

 自分の中の怒りをある程度発散できたのか、クレスは笑みを浮かべて魔銃をホルスターに収める。

 たがルートはしっかりと見ていた。

 光線が当たる直前、魔人の体を冷気が包み込んでいくのを。

 だからルートは油断せずに目を凝らす。

 すると、未だ光線の熱による蜃気楼で歪んで見える空中に何か球体のようなものが浮かんでいるのが見えた。

 そして次の瞬間、その球体の中の影が何かを振るうように動いた。

 

「まだだ!」

 

 攻撃が来ると判断して注意を呼び掛ける。

 

「ちぃっ!」

 

 ルートの声を聞き見上げれば多数の氷の槍が迫ってきていた。

 即座に反応し回避行動をとりながら魔銃の照準を合わせる。

 そうしてかわしきれないと判断した氷の槍を撃ち落としていく。

 

「反応はまずまず・・・だが撃破の確認もしないで矛を納めるとは慢心が過ぎるな」

 

 ピキッ、パキパキッ、パァァァンッ!

 体を覆っていた氷球の膜が弾け、中から先と変わらぬ涼しい表情の魔人が現れる。

 

「・・・チッ、無傷かよ・・・」

「いや、威力は中々だったよ。普通の魔人であれば今ので消し炭だ」

 

 つまり自分は普通ではない、ということ。

 グランツをも凌ぐプレッシャー・・・易々と切り裂いていたがクレスの魔銃から放たれる光線の威力は其処らの魔導師の比じゃない。

 それなのにまるで糸を断ち切るかのように軽々とやってのけるその実力。

 加えてクレス渾身の攻撃を防ぎきった氷の膜、予備動作もなく瞬時に展開してあの強度とは並みの練度と魔力量ではない。

 幸い向こうに戦う気は無いようだが早くここを離れた方がいいに越したことはない。

 

「・・・フゥゥゥ・・・・・フンッ、あれを防ぎきったくらいでいい気になんなよ?」

 

 一度深呼吸をして気持ちを整えたようでクレスの顔にはもう動揺の色はない。

 

「さぁ、第2ラウンドといこうぜ!」

「なんと、今ので力の差を理解できないというのか、それだけの力を持っているというのに・・・」

 

 クレス(あの人)、子供達が近くにいるって忘れてないよね?・・・・・念のためもう少し離れていようか。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「・・・・ん、うぅぅぅんっ・・・・・・・ここは・・・・・」

 

 クレスが魔人と戦い始める少し前、とある宿の一室で一人の少女が目を覚ましていた。

 

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