Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第71話 駆け出す乙女

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 閃光と冷気がこの場を支配する。

 剣と魔銃、体術と魔法とが高速で入り乱れる。

 

「どうした、その程度か?」

「ぅるっせぇっ!!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「ロック君、起きて!早く!」

「ん~~、むにゃむにゃ・・・」

 

 薬の効果が切れ目が覚めたシンディは、同じく薬で眠らされたロックを揺り起こしていた。

 ここは自分達が泊まっていた部屋、ということはルート達がここに連れて来たのだろう。

 確か自分達も連れて行ってほしいとお願いした後何かをかけられていつの間にか・・・・・きっとあれは睡眠薬か何かだったのだろう。

 

「むにゃむにゃ・・・・・にゃ?・・・あれ?」

 

 漸くロックも起きてくれた。

 寝起きでボーッとしているところを申し訳ないが急いで状況を伝える。

 

「あぁーっ!思い出したッス!・・・ぅぅぅ、まさか置いていかれるなんて・・・」

 

 それも追いかけてこれないように薬で眠らせるという徹底ぶりである。

 

「・・・そんなに俺っち達信用ないンスかねぇ・・・?」

「・・・ん~、それは違うんじゃないかな?信用されてないんじゃなくて大事にされてるから置いていかれたんだ、って私は思うよ?」

 

 ルートは人をよく見ている。

 そして見聞きした言動からその人の性格やクセ、実力を高精度で把握してしまうのだ。

 そのルートが置いていくべきと判断したのならきっとそれが正しい選択だったのだろう。

 実践経験の乏しい自分達では足手まといになる・・・そんなこと自分達が一番分かっている。

 分かってはいるがやるせない。

 待つしかないというのは実に歯痒いものである。

 

「んんん~~~!・・・待ってるのは性に合わないッス!」

 

 自分も納得しようとしていたロックだったが、やはり我慢ならなかったらしい。

 勢いよく立ち上がるとズンズンと出口の方へ歩いていく。

 

「ちょっ、ちょっとダメだよロック君!」

 

 とっさに腕を掴んで止めようとするが・・・子供とはいえ流石はドワーフ、シンディを引き摺りながら変わらぬ速度で進んでいく。

 このままでは戦場に向かうのを止められないと悟ったシンディは方法を変えることにした。

 

「もう、ロック君!勝手なことばかりしてるとお師匠さんに言いつけちゃうからね!」

 

 ピクッ

 

「し、師匠?」

「うんっ、お師匠さんだよ!」

 

 歩みを止めたかと思えば途端にガタガタと震えだす。

 どうやら本当に師匠が怖いらしい。

 というのも、旅に加わってからお互いの事を知るために身の上話等を話し合ったのだが、その中でロックがよく師匠の話題を出しては『~が辛かった』とか『~をさせられた』等と泣きながら愚痴をこぼしていたのだ。

 興奮したロックを落ち着かせるためには師匠の名を出せばいいのだとルートに教えて貰っていたシンディは早速使ってみたのだが・・・少々効き目がありすぎたようだ。

 さっきまでガタガタと震えていたのだが、今はピクリとも動かず白い目を剥いて機能を停止してしまっている。

 

「ああっ!?ロック君しっかり~っ!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ハァ、ハァ、どう?落ち着いた?」

「ありがとうッスシンディさん、みっともないとこ見せたッス・・・」

 

 心の奥底に閉じ込められた精神を呼び戻すため2分程揺さ振り続けた結果ようやく戻ってきたロックだったが、相当なトラウマだったのかまだ顔が青い。

 

「大丈夫?・・・ごめんね。私、顔色悪くするくらい酷いこと言っちゃったんだね・・・」

 

 咄嗟だったとはいえ不快な思いをさせてしまった。

 人がいいシンディとしては、いくらしょうがないことだったとしても自分で自分が許せない。

 

「ウプッ・・・いや、顔色が悪いのは散々揺すられたからで・・・」

 

 それはそれで申し訳ないと急いで背中を摩り飲み水を用意する。

 そして落ち着いたのを見計らって漸く本題を切り出す。

 

「あのねロック君、今の私達が戦場に行ってもきっとすぐやられちゃうと思うの」

「っ!そんなのやってみなきゃ───」

「分かるよ!・・・きっとルートさん達もそれが分かってるから眠らせてまで置いていったんだよ・・・」

「・・・・・・悔しいッス・・・・・」

 

 自分達だって戦いたい。

 だがその為に仲間に負担を強いるのは申し訳ない。

 自分にもっと力があれば・・・二人は己の拳を固く握りしめながらそう思った。

 するとその時、少し離れた場所で何かが光った。

 

「──なっ、なンスか!?」

 

 急いで窓を開け外を確認すると、建物に隠れて地上は見えないが光る何かが上空に向けて何発も発射されているのが見えた。

 一点方向ではなくタイミングも不規則に放たれていることから誰かが戦闘を行っているのだと推測できる。

 

「モンスターは街の外にいるんじゃなかったンスか!?」

 

 とにかく確認してみないと分からないとロックから望遠鏡を借りて覗き込む。

 

「・・・あれは・・・人?黒い羽の人が空を飛んでる?」

「──それってもしかして・・・!」

 

 嫌な予感がしたロックはシンディから望遠鏡を返してもらい直ぐに覗き込んだ。

 そして嫌な予感は的中した。

 

「・・・やっぱり・・・・・魔人ッス・・・」

「え、何?魔人って?」

 

 あまりの衝撃にアワワとその場にへたりこんでしまったロックに魔人を知らないシンディが問いかけるが、ロックは口が震えるせいでうまく喋れずにいる。

 それでも一度深呼吸をし少し気持ちを落ち着けると、お師匠とは別のトラウマでも思い出したのか再び顔を青くしながら魔人の事を語りだした。

 

「あれは魔人族って種族でめっっっちゃくちゃ強いンスよ!シンディさんに会う前に一度戦ったンスけど、あのルートさん達でもやられてるンス!!」

 

 あれはヤバイと冷や汗をダラダラと流すロックは、震えながらも荷物の中から小さな機械のようなものを取り出す。

 

「何それ?」

「リンベルで使った通信機の改良型ッス。街の外壁まで行けばもしかしたら繋がるかも・・・って、あれ?」

 

 カチカチと通信機を操作していたロックが疑問符と共に動きを止める。

 

「どうしたの?」

「いや、魔人のいる方向からルートさんの無線の信号が・・・・・ってああっ!ちょっと!」

 

 そんなバカな、あっちはモンスターが出現した場所とは方向が違う筈。

 つまりルートがあの場にいる可能性などほとんどない。

 そう思い込もうとする心とは裏腹にシンディの体は駆け出していた。

 後ろから『通信機の故障かも!』等と制止の声が聞こえてくるが、さっきの魔人の話を聞いてしまった以上歩みを止める気なんてなかった。

 戦えるかどうかなんて最早関係ない。

 そんな冷静な思考力なんて残ってはいない。

 あるのはただ、無事でいてほしいという強い願いだけだった。

 

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