Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第72話 飛信子(ヒアシンス)

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 当初、両者の戦いは実力が拮抗しているように見えたが、徐々に魔人がクレスを追い詰めるようになっていった。

 

「若さ故か、術も技もまだまだ粗いな」

「グフッ・・・・・クソが・・・・・」

 

 シンとネイ、加えて倒れていた騎士3人を戦闘の余波を受けないであろう場所に運び出したルートが両者の元へ戻ると、魔人の攻撃によってクレスが建物の壁に丁度吹き飛ばされて来たところだった。

 

「・・・大見得切ってた割にはやられてるね」

「・・・・・うっせぇ・・・」

 

 実際手痛くやられているからか特に何も言い返しては来ない。

 見れば傷を負っているのはクレスだけのようで、魔人の方はこの場に現れた時と何ら変わらぬ姿で立っている。

 その立ち姿だけでも十分絵になるのだが、足元に漂う冷気が魔人に更なる純麗さを纏わせているように見えてしまう。

 

「それにしても・・・派手にやったね・・・」

 

 街中だということを理解していないのか、周りの建物はクレスの光線で今すぐにも倒壊しそうな程ボッコボコにされている。

 ただ、やられっぱなしではあるもののその目に諦めの色は微塵も感じられなかった。

 

「おお、戻ってきたか・・・よし君も混ざれ。その男一人では物足りなくなってきたのでな」

 

 そう言って笑う姿からは少しの疲労も感じられない。

 

「クレスと違って僕には君と戦う理由がないよ」

 

 ちらっと見ただけでも凄く強いのが分かる。

 クレスを圧倒して尚余力を十分に残しているような奴相手に挑まなければならない理由はルートにはない。

 

「理由?・・・そうか理由か・・・・・フッ、ならば私に殺されないため・・・という理由ではどうだ!」

「───っ!?」

 

 一拍の後、魔人は目にも止まらぬ速さでルートに近づき剣による突きを放ってきた。

 剣の切っ先は真っ直ぐルートの胸へと吸い込まれて・・・・・いかなかった。

 

 ガキィィィィィンッ────

 

「・・・ほぅ」

 

 進んで戦う意思はなくともこの状況で警戒を解くようなルートではない。

 魔人の攻撃に一瞬で反応したルートは魔人の突きに対して居合い術で迎え撃った。

 しかし、一瞬突きは止まったように見えたものの、魔人の方が力が上だったようでルートは刀ごと後ろへと飛ばされてしまう。

 

「いい反応だ!」

 

 今ので気を良くしたのか、再び距離を詰め斬り込んでくる。

 剣撃は凄まじく防御に徹するので手一杯だ。

 

「ほぉ、力では勝てぬと察して正面では受けずいなすか・・・判断力も良いな!」

 

 こちらの実力を見定めるように徐々にスピードを上げていくがルートもなんとか食らいついていく。

 

「技量も申し分なし・・・これは先程より楽しめそうだ」

 

 不適な笑みを浮かべると同時に魔人の周囲に冷気が生まれていく。

 それは次第に形を成していき、2秒と経たぬ間に十数本の氷の槍が出来上がった。

 

〝氷柱〟(セリオン)

 

 出来上がった氷の槍が一斉にルートへと放たれる。

 

「──くぅっ!」

 

 この距離はマズイと即座に強引な切り払いとバックステップで距離をとり避けきれないものを切り落としていく。

 何本か体を掠めていったがたいした傷でもないので戦闘に支障はきたさないだろう。

 

「やるな・・・ならばこれはどうする?」

 

 ルートが今の攻撃を防ぎきったことがよほど嬉しいのか魔人は笑みを深くする。

 そして再び冷気を生み出し同じように氷の槍を作り出していく。

 ただ先程とは違い、一本一本が細く短く生成されており数もぐんと増えている。

 

〝氷柱雨〟(セリオン・ジュビア)

 

 数え切れないほどの氷の槍がルートに迫る。

 切り落とすことも回避することも出来ない、ならばこの窮地をどう脱する?

 魔人はルートがどう動くのかと大きな期待を寄せていた。

 

「やるしかない、か・・・」

「・・・む?」

 

 ルートは右足を後ろに下げ体を半身にし少し腰を下ろした構えをとる。

 手にした刀は弓を構えるように後ろに引かれていることから、恐らく突き技を放とうとしているのだと推測できる。

 

「面白い・・・」

 

 どのように防ぎきるのかと思えばとったのは攻撃の構え。

 ダメージを無視して突っ込んでくるのか、はたまた構えはブラフで何か策があるのか・・・何にせよ興味をかき立てられると魔人も剣を構えてその時を待つ。

 ルートが下げた右足に力を込め勢いよく前へ飛び出した。

 氷の槍とルートが互いにぐんぐん距離を縮めていく。

 

「───〝飛信子(ヒアシンス)〟!」

 

 パァァァンッ───

 

 氷の槍がルートの体、正確には左手に触れる直前・・・何の前触れもなく突然弾けた。

 

「なんと!」

 

 魔人も少し虚を突かれたのか、笑いながらも目を見開いて驚いているようだ。

 だがルートの攻撃はまだ終わっていない。

 弾けた氷が塵状の幕となり上手い具合に魔人の目隠しとなっている。

 加えて剣を構えていただけの魔人と違ってルートには既に勢いが付いている。

 つまり多少のパワー不足は問題にならないということだ。

 あとは渾身の突きを魔人に叩き込むだけ───

 

「等という甘い考えなら拍子抜けだぞ少年!」

 

 弾かれた氷の破片が飛び散る中、飛び込んできたルートを断つべく魔人は既に剣を振りかぶっていた。

 謎の力に氷を弾かれたのには驚いたがそれまで、その程度で隙を作るようなヘマはしない。

 

「フッ!」

 

 氷の幕の向こうから攻撃が飛び出してきたその瞬間魔人は剣を振るった。

 その勢いは凄まじく、相手を断ち切ると同時に一瞬で氷の幕を霧散させてしまった。

 

「ムッ?」

 

 魔人が怪訝な顔をする。

 その視線の先には・・・離れた位置から突きの体勢をとっているルートがいた。

 つまり、今切ったのはルートの突き、刀ではない。

 今切ったのは闇属性の魔法、ルートの刀から漂っている黒い靄を見るに突きの構えから繰り出す遠距離技なのだろう。

 問題なのは・・・・・

 

「(───なぜあのまま切り込んでこなかった?)」

 

 あのまま突きを放っても防がれるとルートなら分かっていた筈、だから突き以外の攻撃を選択するのは当然である。

 しかしあの場で遠距離攻撃を放っても効果は薄く、折角のチャンスも無にしてしまうということも分かっていた筈なのだ。

 ならば何故、何故そんな選択をしたのか・・・と問い詰めようとしたその瞬間───

 

 ッゴォォォォォッ!!

 

 特大の光線が魔人を背後から襲った。

 

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