Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第73話 氷の魔人(ミレイク)

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 炎と閃光を撒き散らしながら魔人を呑み込んだ光線は、轟音を立てながら近くの建物に叩きつけられた。

 その火力からか、建物は倒壊を始め瞬く間に炎に包まれていく。

 完璧に決まった、そう確信できるタイミングだったしそれだけの威力だった。

 先程のような氷の盾を展開した素振りも見えなかったので直撃した筈である、が相手は魔人であるため油断はできない。

 

「・・・・・やっぱりダメだったね・・・」

「だな・・・」

 

 突如として炎の勢いが弱まったかと思うと次第に熱気は冷気に変わり、建物の倒壊は凍りつく冷気によりピタリと止まった。

 そして二人の期待を嘲笑うかのように先と変わらぬ姿のまま魔人が現れる。

 

「なかなかいい戦術だった。その礼といってはなんだが少し本気を出そう」

 

 魔人の周囲を漂う冷気がより一層冷たさを増していく。

 辺りの気温も下がり始め、魔人の足元を中心に地面が段々と凍り始めた。

 

「・・・・・フム・・・」

 

 突如として冷気がピタリと止んだ。

 

「どうしたの?」

「いや、そういえばまだ互いの名前すら知らんと思ってな・・・」

「・・・今更?」

 

 ここまで戦っておいて何を今更・・・

 

「大事なことだ。名も知らぬ者に殺されるのは嫌だろう?」

 

 自分が殺される・・・という可能性は少しも考えていない目だ。

 だがこちらを侮辱しているという目でもない・・・恐らく彼にとっては大事なルールなのだろう。

 

「私は〝ミレイク〟、これから君らの命を頂く者だ」

 

 胸の前にに剣を掲げてそう名乗り、次は君の番だとばかりにジッと見つめてくる。

 あの視線、恐らくこちらも名乗らなければ満足してくれないのだろう。

 

「・・・ルート・・・」

「・・・クレス・・・」

 

 クレスも無言の圧力を感じたのか、本当に名前だけではあるが素直に名乗った。

 魔人は満足したのか笑顔でウンウンと頷いている。

 

「ルートにクレスか、いい名だ・・・・・では、互いの名を知ったところで再戦といこうか」

 

 スッと目を細めた瞬間、再び激しい冷気が辺りに吹き荒れ始める。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「ハァッ、ハァッ───」

 

 息を切らせて走るシンディは着実にルートの元へと近づいていた。

 聞こえてくる音は段々と大きくなり、それに反比例するように人の気配は減っていく。

 皆避難したのだろう、人影だけでなく余計な物音すらも無いお陰で戦闘音がよく聞こえてくる。

 聞こえてくる音は次第に激しさを増していき、それに呼応するように戦いの余波であろう冷たい風が正面から吹き付ける。

 

「ハァ、ハァ・・・っこの先に・・・・・」

 

 膝に手をついて乱れた呼吸を整える。

 あとはこの通りを抜ければルートのいる場所に出られる。

 実際にいるかどうかは分からない、あくまで無線機の反応があっただけだ。

 もしいるなら助けになりたい、いないならいないで安心したい。

 

「・・・・・あれ?」

 

 もしルートがいなかったらどうすればいい?

 つい勢いでここまで来てしまったが、相手はルート達でも苦戦させられる程の魔人だというではないか。

 いやそもそもルートがいたとしても自分に何ができる?

 つい最近冒険者になったばかりの小娘が一人いたところで何の助けになるというのだろうか。

 

「ど、どうしようロック君・・・」

 

 助言を求めて振り返るがそこには誰もいない。

 どうやら急ぐことに夢中になりすぎてロックを振り切って来たことに気づかなかったようだ。

 まさに孤立無援、だがここまで来てしまった以上このまま立ち去るわけにもいかない。

 

「よっ、よ~しっ!」

 

 意を決しパンッと頬を叩き気合いを入れて歩き出したシンディだったが───

 

 シンディが一歩踏み出すのと同時に前に見える建物から何かが吹き飛んできた。

 一瞬何が起きたのか分からず固まるシンディだったが、自身の横を通り抜けていったモノをぎこちない動作で振り返り確認すると───

 

「っルートさん!!」

 

 そこには血を流し壁に埋もれるルートの姿があった。

 

「ルートさん!ルートさん!!」

「──ウッ、ウゥ・・・・・・・シンディ?」

 

 良かった、ダメージはあるものの意識ははっきりしているようだ。

 

「何でここに?」

「えっと、魔人が見えて無線機がロック君の通信機に~えっとえっと・・・」

「何にしてもここは危な────ッ」

 

 慌てながらも一生懸命説明しようとするシンディを抱えてその場を飛び退く。

 突然ルートに抱きつかれて驚きのあまり思わず可愛らしい悲鳴をあげてしまったシンディだが、何故ルートがそんな行動を取ったのかは直ぐに分かった。

 自分達が今いた場所に一本の氷の槍が突き刺さっているのが見えたのだ。

 ルートが助けていなければ自分の体に大きな穴を空けていただろう事に気付いてゾッとする。

 そうだ、まだルートは戦っている途中でここは戦場なのだと思い出し、槍を放った敵を視認しようと顔を向けると───

 

「失礼、ご歓談中だったかな?」

 

 そこには背に黒い羽を生やした灰色の肌をした男が立っていた。

 先程望遠鏡で見た人物、つまり・・・

 

「あなたが・・・魔人・・・・・」

「ミレイクだ、よろしく」

 

 視るものを虜にするであろう笑顔で自己紹介をしてくるがシンディは瞬きすら出来ないでいた。

 決してミレイクの美貌に目を奪われたからではない、ミレイクの体から発せられる圧倒的強者のプレッシャーがあまりにも強烈だったからである。

 

「───カッ・・・───アッ・・・・・!?」

 

 遂に呼吸をすることすら出来なくなり次第に顔が青くなってくる。

 

「おや、体調が優れないようだが・・・よければ私が手を貸そうか?」

 

 原因が自分にあると気付いていないのか、更に近付き手を差し出してくる。

 

「・・・アッ・・・イヤッ・・・───」

「───離れろ!」

 

 シンディの背後よりルートによる鋭い一閃が放たれる。

 が、無防備な所を超至近距離から狙われたものの、平然とした顔であっさりと剣で弾かれてしまった。

 防がれはしたが距離はとれたのでルートとしては目的は果たしたと言える。

 

「ハァ、ハァ・・・この子に近付くな・・・」

「私は善かれと思ってやったのだが・・・おやすまない、どうやら原因は私にあったようだな」

 

 人の厚意を素直に受け取れないものかと哀れみの視線を向けようとしたミレイクだったが、自身が離れたことでプレッシャーから解放され、無事呼吸を再開したシンディを見て己の圧がいけなかったのだと反省する。

 

「さてお嬢さん、申し訳ないが少し私達から離れていてくれないかな?今この場は戦士達が命を懸ける戦場・・・戦士ではない者がいては邪魔なだけなのだ」

 

 鋭い目から一瞬だけ殺意を向けると、またもシンディは息を詰まらせ冷や汗をかく。

 直ぐに殺意は収められるもそのプレッシャーは先程の比ではなかったらしく、シンディは腰を抜かしてしまった。

 

「・・・大丈夫だから、シンディはここで待ってて?・・・行こうか・・・」

 

 落ち着かせるように頭にそっと手を乗せるとルートは立ち上がり、動けないシンディの代わりに自分達が移動するよう歩き始める。

 ミレイクもその意図を酌んで仕方がないとついていく。

 シンディはそれを止めようと思うも、体は震え声は出ず、ただその背を見つめ続けることしか出来なかった。

 

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