Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第76話 潜みし力

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「いくぞ!」

 

 高密度の魔力と氷点下の冷気が剣を包み込み氷の大槍を形作っていく。

 対するルートは半身になり刀を軽く後ろに下げるように構えている。

 

「どこまでやれるのか見せてもらうよ、ルート」

 

 短く息を吐くと右腕から黒い闇の魔力が溢れだしていく。

 その勢いは凄まじく、まるで黒いマグマが噴火によって噴き出したかのようだ。

 

「確かこう・・・だったかな?」

 

 右足を下げ腰を少し落とし刃先をミレイクに向け弓を引くように刀を倒し、先程と同じ突きの構えをとる。

 すると間欠泉のように噴き出していた魔力がギュッと凝縮され、今にも爆発しそうな程の莫大なエネルギーが刀を包み込んだ。

 

「〝煌氷槍(ランサ・センテレオ)〟!」

「〝鬼灯突(ホオヅキ)〟」

 

 陽の光を受け煌々と輝く氷の大槍と陽の光すら呑み込む漆黒の刀が激突する。

 膠着は一瞬、直ぐに大槍にビキビキとヒビが入っていき、次の瞬間には黒い魔力が氷の腹を中から食い破るようにして氷の大槍ごとミレイクを弾き飛ばした。

 その衝撃は大気を震わせ、周辺の建物や瓦礫、ミレイクの生み出した氷の大壁にまで大きな亀裂を与えていった。

 だがミレイクは焦ることなく直ぐ様体勢を整え攻撃に移る。

 

「〝氷柱豪雨(セリオン・チャパロン)〟!」

 

 噴き出す冷気が次々と氷の槍を形成していき超高速で放たれていく。

 驚くべきはその数、今生成されただけでも間違いなく百は越えているであろう。

 そんな氷の嵐となった槍の大群をミレイクは完璧にコントロールし叩きつける。

 四方から襲いかかる氷の槍が地面に突き刺さり、辺りは巨大な剣山とかしていく。

 しかし、そんな槍による暴風雨のなかでもルートは涼しい顔で微笑んでいた。

 

「・・・〝飛信子(ヒアシンス)〟」

 

 全てが弾け飛んだ。

 ルートから発せられた衝撃波が空間を駆けたその瞬間、まるで矛を向けた罰とでもいうかのように全ての槍が木っ端微塵に砕け散ってしまった。

 

「───っ流石だ!・・・──むっ!?」

 

 砕けた氷が太陽に反射しこの場に似つかわしくない幻想的な空間が広がる中、直ぐにでも次の攻撃に移ろうとしていたミレイクだったが、砕氷が視界を暈したその刹那、気配と共にルートの姿を完全に見失ってしまった。

 驚きはしたが焦りはせず、直ぐに辺りの警戒と探知を行う。

 この辺りの切り替えの早さは流石だといえるだろう。

 

「・・・・・───いない・・・どこに隠れた?」

「君の後ろだよ」

 

 最大限に警戒していた筈の背後から標的の声が聴こえ、ゾアッ!と全身に鳥肌が立つ。

 標的を見つけるために死角を探すのは基本、特に敵を見失った時のような緊急時には尚更警戒をするものだ。

 それなのに背後への到達を許してしまった。

 あれだけの魔力と威圧感を持った存在であるにも関わらずまるで気付かなかった。

 振り返るよりも先にルートが動く。

 

「〝(アヤメ)〟」

 

 気配すら感じられなかったルートから再び莫大な闇の魔力が溢れだし、それら全てが集約された必殺の一撃が繰り出される。

 

「───っ〝氷盾(スクエド)〟!───グゥッ!」

 

 咄嗟に氷の防壁を展開するも受け止めきれず、圧倒的な攻撃力に押し切られ吹っ飛ばされてしまう。

 

「・・・ふぅん、今の一瞬で防御を間に合わせるなんてやるね」

「防ぎきってはいないがな・・・」

 

 瓦礫の中から起き上がったミレイクは所々傷を負っているものの、致命傷となるような大きなダメージを受けた様子はない。

 どうやらルートの攻撃を盾で受けた際にできたほんの一瞬の間に剣での防御が間に合ったようだ。

 

「嬉しいぞ精霊、まさかこれほどの力を持っているとは・・・」

 

 そう言ってミレイクはルートに背を向け剣を収める。

 

「もういいのかい?」

「個人的にはもう暫し楽しみたい所だが・・・どうやら時間をかけすぎたらしい」

 

 ミレイクが親指を横に向ける。

 何があるんだと指差す方を見るが氷の壁があるだけで他には何もない。

 しかし耳を澄ませば氷を砕く音が聞こえてくる。

 姿は見えないが恐らく応援の騎士がやっているのだろう。

 氷の壁は固く厚さも結構あるので、恐らく並みの騎士では傷をつけることさえできないと思われる。

 だがあそこにいる誰かは着実に氷を破壊しこちらに近づいて来ている・・・つまり高い実力をもっていると見て間違いないだろう。

 

「帰るのかい?」

「消化不良だが致し方ない、騎士団とやりあえとは言われてないからな・・・」

 

 〝言われてない〟・・・つまり今回は命令されてこの国に来たということか。

 聖剣カリバーンといい誰が何の目的で指示をしているんだ?

 

「今日はなかなか楽しめた。是非ともまた会いたいものだな」

 

 そう言うと黒い翼を羽ばたかせて飛翔する。

 

「次はルート自身(この子)が相手をするよ」

「そうか、楽しみにしている・・・ではさらば!」

 

 吹き付ける突風、魔力ではなく翼によって生み出された純粋な風はとても力強く、あっという間にミレイクを空高くまで連れていってしまった。

 それにしても・・・・・

 

「厄介な奴に目をつけられてしまったね・・・」

 

 あの感じ、まだまだ全力じゃなかったみたいだし、それにまだもう一段階、いや二段階は上があるな。

 この国の今の騎士団長達がどのくらいの強さなのか知らないけど・・・早めに対策をとらないと15年前よりも悲惨なことになるかもね。

 何にしてもルートにはもっと力をつけてもらわなきゃ、ね。

 ・・・・・そろそろ限界か。

 

「ねぇシンディ、ちょっと来てくれる?」

 

 崩れた建物の影から「ひゃあっ!?」という可愛らしい声が聴こえてきた。

 そしておずおずとゆっくりシンディが顔を除かせるもその表情は困惑に満ちている。

 それは恐らく『この人は誰なのか?』という疑問からだろう。

 見た目はルート本人だが中身は別人なのでは?という疑念が頭の中で渦を巻いている筈だ。

 申し訳ないが今その質問に答えている時間はない。

 

「今からルート(この子)に体を返すからちょっと支えてあげて・・・いくよ?」

 

 そう一方的に告げたとたん、フッ、とルートの体から力が抜け去り背中から倒れていった。

 

「ええっ!ちょっ!?」

 

 頭が地面に接触する直前に滑り込み、何とか抱き止めることに成功する。

 どうやら本当に別の誰かが体を乗っ取っていたようで、腕の中で眠るルートはあの日おつきみ亭で看病した時と同じ安らかな寝顔をしていた。

 

◇◇◇◇◇

 

「あれだけの力、少なくとも大精霊以上の存在であるのは間違いあるまい・・・」

『次はルート自身(この子)が相手をするよ』

「・・・つまりルート自身があのレベルの力を身につけるということだな・・・フフフ、ハハハハハ!面白い!待っているぞ、ルート・・・」

 

 王都から飛び去ったミレイクは、一人誰に聞かせるでもなくルートとの再戦に熱を燃やしていた。

 その後モンスター群と戦っている騎士団や冒険者達と鉢合わせしないように大きく迂回して仲間の魔人の下へと戻った。

 

「お帰りなさいませミレイク様・・・」

「お疲れさまで御座いました!ミレイク様!」

「ウム、残念ながらパイクは殺られてしまったが当初の目的は概ね果たした・・・さあ、帰還するとしよう」

 

 ミレイクの号令と共に前方の空間が歪み人一人が悠々と通れそうな大きさの穴が開いた。

 穴の先にはこの場と違い森の中のようで木々が生い茂っている。

 ミレイクは一度だけ王都を振り返るとそのまま躊躇いなく足を踏み出し穴の中の森へと入っていった。

 

「フフフっ、あんなに楽しそうなミレイク様久しぶり・・・」

 

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