Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第77話 黒き海より

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「・・・またここか・・・・・」

 

 ゆっくりと瞼を開けると目の前には雲ひとつない星空が広がっていた。

 魚一匹泳いでいない漆黒の海に浮かぶルートは見覚えのある景色を見てここが夢の世界であることを察する。

 

「確かミレイクに刺されて・・・・・あれ?ってことは死んだってこと?つまりここって死後の世界だったり?・・・ねぇツクヨミ!・・・・・あれ?」

 

 いくら待っても返事は聞こえない。

 一人フヨフヨと漂っていてもしょうがないのでとりあえず体を起こし辺りを見渡すがツクヨミは見つからない。

 自分以外には誰もおらず、頭の中に直接話しかけてくることもない。

 

「う~ん困ったなぁ・・・・・ていうか何で動けてるの?喋れてるし・・・」

 

 さてどうしたものかと首を捻っていると、そこでようやく前とは違い自分の体が動くことに気づいた。

 前回動けなかった経験からつい今回も同じなのだろうと思い込んでしまっていたようだ。

 ならばと恐る恐る水に手をつき腰を浮かせてみると、プカプカ浮いている感覚はあるものの沈むことはなく、これならとそのまま足に力を入れていくと無事両足で立つことができた。

 

「おぉ、水の上に立ってる・・・・・ん?何だあれ・・・」

 

 不思議な感覚に妙な興奮を覚えていると、突如頭上に浮かぶ巨大な満月の表面に何かが映し出され始めた。

 

「あれは・・・・・ミレイクと・・・僕?」

 

 先程まで自分が立っていた場所で自分とミレイクが向かい合っている。

 鏡越しではなく第三者の目線で見る自身の姿を不思議に思っていると、月に映る自身の体がいきなり癒えていき前方の抉れた地面に道ができた。

 距離が遠くて声までは聞こえてこないが、明らかに自身の持つ力ではないこと、今ここにいる自身の現状と月に映る黒髪の自分のなんとなくの雰囲気からツクヨミが体を操っているのだろうと推測する。

 

 それならツクヨミがここにいないことの説明もつくというものだ。

 となればやることもないのでそのまま映像を眺めているとツクヨミはルートの技を使い出した。

 洗練された技ではなくあくまで真似事レベルだが、膨大な闇の魔力を使ったその威力は自身を蹴散らしたミレイクの技を上回っている。

 ミレイクも本気の魔法を放っているようだが掠り傷すら与えられていない。

 そして遂に背後からの一閃が決まった。

 何とか防ぐことには成功したようだが均衡は完全に破れた。

 このまま続ければ今度こそ背後からの一撃で沈むだろう。

 あくまでこのまま続ければ、だが・・・。

 そう考察しているとミレイクが剣を納めた。

 ジェスチャーから読み取るに恐らく騎士が来たということなのだろう。

 

「どうにか帰ってくれたか・・・・・それはそうと、これから僕はどうな───ぅあっ!?」

 

 月に映る自分と同じように彼方へと翔んでいくミレイクを見送っていたところ、唐突に浮力が失われ漆黒の海に体が沈んでいく。

 冷たさは感じないものの、何というか・・・何とも言えない妙な気持ち悪さが纏わりついてくるようなそんな感覚に襲われる。

 何とか海面に上がろうと必死に水を掻くが、やはり普通の水とは違うのだろう、体は沈んでいくばかりで一向に浮上する気配はない。

 むしろもがけばもがくほど海面が遠ざかっていく気すらしてくる。

 不思議なことに酸素不足による苦しさは感じられなかったが、意識だけはこの海に呑まれていくように段々と遠退いていった。

 

◇◇◇◇◇

 

「う、う~ん・・・・・うぷっ・・・・・・」

 

 く、苦しい、何だかとても息苦しい。

 あと重い、主に顔だけ。

 それに視界も真っ暗で何も見えない。

 

「ナァ~~オ」

 

 酷く呑気な鳴き声が直ぐ近くから、というか目の前から聞こえる。

 

「あっ、ダメですよネコちゃん」

 

 聞き覚えのある声が聞こえると共に息苦しさと重さと暗闇の三重苦から解放される。

 最初に目に映ったの天井に吊るされたランプの暖かい光。

 つい今しがたまで真っ暗な海の中でもがいていた為かやけに眩しく感じる。

 

「ルートさんはお疲れなんですから邪魔しちゃダメですよ~」

 

 シンディがルートを起こさないようにと人差し指を口に当て小声で注意をしている。

 猫相手にちゃんと通じているのかは分からないが一応はシンディの膝の上に大人しく場所を移してくれたようだ。

 そのまま猫の背中を撫で始めたのでまだこちらが目覚めたのには気づいていない。

 ベッドの上に寝かされている状況を見るに自分はどうやら死んではおらずちゃんと生きているようだ。

 筋繊維の損傷によるであろうピリピリとした痛みや疲労からきているであろう全身の脱力感が生きている体なのだと教えてくれる。

 相当ダメージがあるのだろう、上体を起こそうとするもうまく力が入らず再びベッドに倒れてしまう。

 

「あっ、ルートさん!・・・気がついたんですね、良かった・・・」

 

 ベッドに倒れ込む音でようやく目が覚めていることに気がついたようで、撫でていた猫を自分の代わりに椅子に座らせこちらに駆け寄ってきた。

 うまく力の入らない手をしっかりと自分の両手で握りしめ、良かった良かったと何度も繰り返している。

 目に涙を浮かべるその顔を見ればどれだけ心配させたかが分かってしまう。

 

「まったく、あの時キーパーさんが来てくれなかったらどうなってたか・・・ちゃんとお礼してくださいね!」

 

 シンディの話ではキーパーが氷の壁を破って助けに来てくれたらしい。

 ミレイクはそれを察知して逃げたとか・・・。

 

「あっ、そうだった!今先生達呼んできますからね!」

 

 暫く余韻に浸っていたシンディだったが、突然思い出したように手を放すと慌ただしく部屋の外へと駆けて行ってしまった。

 ポツンと一人残されたルートは動くこともできないので、同じく一匹残された猫を観察することにする。

 品種は分からないが整った黒い毛並みがとても綺麗だ。

 しかし黒猫で青い目をしているのは珍しいな・・・どこか気品も感じるしひょっとして良い家の飼い猫だろうか?

 そんなことを考えていると複数の人間がこの部屋に近づいてくるのに足音で気づく。

 シンディの声も聞こえてくるので先生達とやらが来たようだ。

 

「ヤッホー!随分長いことぐっすりだったねぇボウヤ、調子はどうだい?」

 

 部屋に入ってくるなり真っ直ぐ枕元に近づきテンション高く頭を叩いてくる女性。

 力が強く結構痛いのだが、体が動かせないので防ぐこともかわすこともできない。

 そのまま耐えていると今度はスッと手を差し出してくる。

 

「看護長のナイチンゲールだ、よろしく」

「イテテテ・・・はぁ、よろしくお願いします」

「何だ、声が小さいぞ~?」

 

 差し出された手をとり握手をするとまたも頭を叩かれた。

 白衣を着ているし医療関係者なのは間違いないのだろうが・・・怪我人にこんなことしてもいいのか?

 ・・・いや、やっぱり駄目なのだろう、同僚であろう白衣を着た人達が慌てて止めに入っている。

 

「で、体調はどうだい?痛みとかないかい?」

「えーと、体が思うように動かせないのと変な脱力感があります」

「そりゃそうさ!全身の筋肉傷だらけで魔力がすっからかんの状態だったからね、傷自体は大体治療したけど半日程度寝たくらいじゃ完全に回復なんてしないしない!」

 

 あぁなるほど、この変な脱力感は疲労だけじゃなくて魔力切れのせいもあったのか・・・体のピリピリとした痛みはやっぱり筋繊維の損傷からだったけど・・・全身くまなくってどんなダメージ受けたんだろう?

 そもそも魔力がすっからかんってそんなギリギリまで消費した覚えはないんだけ・・・・・あっ、ひょっとしてツクヨミのせい?

 さっき月面に映ってたやつが実際に起こっていたなら説明がつくかも・・・。

 ツクヨミは僕の体を使っていた。

 僕の体のままいきなり莫大な魔力を使ったから、本来のキャパを超えた力に体が耐えられなかったんじゃないだろうか?

 その際に僕の魔力も一緒に使われてたんだとしたら・・・・・

 

「・・・ん・・・・・・ル・・・さん・・・・・・ルートさん!」

 

 自分を呼ぶ声にハッと我に返る。

 いつの間にか周りを忘れて思考の海に潜ってしまっていたようだ。

 ふと顔を上げれば一人の騎士が心配そうにこちらを覗き込んでいる。

 

「大丈夫ですか?」

「あぁすみません考え事してました・・・ってキーパーさんじゃないですか。どうしたんですか?」

 

 柔らかな口調で声をかけていたのはキーパーだった。

 昨日ぶりに会うその顔は相変わらず優しさに溢れていたが、やはり街の内外であんなことがあったばかりなので仕事がいっぱいあるのだろう、口には出さずとも疲労の色が見てとれた。

 どうしたなどと思わず聞いてしまったが魔人のことを聴きに来たのだということは大体想像がつく。

 今回王都に侵入した魔人は二人、その両方と戦ったのは自分とクレスだけだからだ。

 

「大分回復なされたようですね・・・お疲れのところ申し訳ないのですが、魔人の件についてお聞きしたいことがいくつかあるので伺いました」

 

 やっぱりか・・・

 

「もちろんいいですけど・・・僕もそんなに多くは知らないですよ?」

「構いませんよ・・・では───」

 

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