部屋の中ではキーパーによる事情聴取が行われていく。
メアリー達は壁際に立ち黙って聞いている。
ルートを挟んだ反対側ではナイチンゲールの部下であろう人達が脈を計ったりといった検査をしていく。
「・・・なるほど、大体分かりました・・・」
聴取の内容を手元の紙に記載し終わると筆を置きこちらに向き直る。
それなりの時間行われていたのだろう、検査をしていた人達はナイチンゲールを残しいつの間にか部屋を後にしていた。
「逃走した魔人の名はミレイク。王都侵入の目的は聖剣カリバーン。組織的犯行の可能性があり街の外の大量のモンスターも奴等の仕業であった・・・要約するとこういうことでよろしいですね?」
「はい、聞く限りではそう言ってました」
今日起こったことを全て伝え終えるとキーパーは難しい顔をして頭を掻き溜め息を吐いた。
「どうしたんですか?何か問題でも?」
「ん?あぁすみません大丈夫です。これからやらなければならない仕事を考えると暫く休む暇がないなぁ、とつい思ってしまって・・・・・とここで言ってもしょうがないですよね・・・では聴取も終わりましたので我々は帰ります、ルートさんもお疲れでしょうから」
いけないいけないと気を引き締め直して仕事モードに戻ったキーパーは部下と部屋を出ていこうとする。
「あっ、ちょっと待ってください!」
慌てて制止をかけるルート。
「どうしました?」
「あの、先程は危ないところを助けていただいたそうで・・・ありがとうございました」
ベッドで座った状態からだがシンディに支えてもらって頭を下げる。
危ない危ない、突然のことだったのでうっかりお礼を言うのを忘れるところだった。
「いえ、仕事のうちですから」
平然とそう言ってのける姿は正しくイケメンと言えるだろう。
できる男のオーラが後光のように眩しく光って見える。
・・・いかんいかん、オーラにやられている場合じゃない。
「・・・あの~、お礼はもちろんなんですが少しお聞きしたいことがあるんですけど・・・」
「・・・分かりました。おい、ここはもういい」
ルートの目に何かを感じ取ったキーパーは他の騎士達を先に帰しもう一度椅子に座る。
「で、何でしょう」
「パイクという魔人を倒した後にミレイクは現れた・・・つまり二人の魔人は当初別行動をしていたということになりますよね?」
「そうなりますね」
「では遅れて聖剣カリバーンの元へやって来たミレイクはそれまでどこで何をしていたんでしょうか?」
人当たりの良いキーパーの笑みが一瞬固まる。
「二人の目的が聖剣カリバーンだったのなら最初から二人で狙った方が確実の筈、1万ものモンスターを囮に使ったことから、相手方は是が非でも成功させたかったことでしょう」
「・・・・・・・・・・」
ルートが話している間キーパーは何か反応するでもなく、ただ口を挟まず黙って聞いている。
いつの間にか笑みは消えその顔は真剣になっており、その鋭い眼差しは続きを述べるようにとルートに告げていた。
「そこで考えられるのはただひとつ・・・ミレイクは先に他の何かの奪取に向かっていた・・・違いますか?」
「・・・・・・・ふふっ・・・」
ここまで聴きに撤していたキーパーから少し笑みが溢れる。
「他の何か、とはまた随分と不明瞭ですね」
言われてみれば確かにそうか、これでは答えとしてあまりにも大雑把過ぎる。
「そうですねぇ・・・ミレイクがカリバーンより優先するほどですからそれだけ警備が厳重だった物、とかですかね?」
「例えば?」
「この王都において最も安全な場所、王城にて管理されている〝
そう言ってキーパーの目を見つめ返す。
キーパーは何か頭の中で考えているのか口を開かない。
沈黙が場を制す中でシンディはよく状況が分かっていないようで一人オロオロしている。
パチパチパチ・・・
いつまで続くかと思われた沈黙の場に一人の拍手の音が響く。
「流石、ご明察です」
手を叩いているのはもちろんキーパーだった。
推測は概ね当たっていたのか、その暖かい瞳はルートに称賛を送っているように感じられる。
「盗まれたのは王家の象徴、〝王剣デュランダル〟・・・ルートさんがパイクという魔人と戦っている間にミレイクは城内に人知れず侵入、警備していた騎士数名の意識を奪いデュランダルを奪取、その後また人知れず城外へと脱出、今度は聖剣カリバーンの元へ向かいルートさんと・・・と、まんまとやられてしまいました・・・」
簡単な時系列を説明したキーパーは王城内にてミレイクにまんまとしてやられたことを思い出し苦笑する。
「街外のモンスターに騎士の多くを当てた結果内の手薄を突かれたと」
「はい、簡単に言えば・・・」
「なるほど・・・・・ところで、デュランダルって何ですか?」
キーパーの笑みだけではなく、今度は部屋の空気全体が固まった。
キーパーもシンディもナイチンゲールも、ルート以外の3人は揃って目を点にしている。
「えぇぇぇぇぇっ!!?ルートさんデュランダル知らないんですかぁっ!?」
シンディの絶叫が部屋に響き渡り窓ガラスを震わせる。
何だろう、少し前にも同じ様な経験をしたことがあるような気がする・・・。
空気から察するにこれはきっと一般常識なんだろうな。
「そんなに有名なの?」
「有名なんてものじゃないですよ!」
正気ですか!?と肩を掴まれ激しく揺さぶられる。
抵抗できなくてなかなか辛いがこれも己が無知が招いた結果、甘んじて受けよう。
「ルートには一般常識を押し付けるだけ無駄だよシンディ」
皆が視線をドアに向けると呆れ顔のメアリーが入ってきた。
次いで入ってきたエリアルドとロックはルートを奇異の目で見ている。
「なんたってちょっと前まで七英雄さえ知らなかった男だからねぇ・・・」
それに比べたら王剣なんてまだまだ・・・そう肩をすくめるメアリーの後ろではエリアルドとロックが『マジかよ』、『流石にひくッス・・・』と顔を合わせてヒソヒソしている。
それを見てもまだ『ロックみたいな子供でも知っているってことは相当有名なんだな!』という顔をしているルートの為に、キーパーは溜め息を吐きながらも優しく説明してあげることにした。
「王剣デュランダルとは、先程も言いましたが王家の象徴とされている
「・・・・・・・・・・?」
熱弁を終えてルートの反応を窺うが全くピンときていないようだ。
しょうがないと見かねたメアリーがそっとルートに近づく。
「・・・・・つまりばあちゃんの秘蔵のワインが盗まれたみたいなもんだよ」
「ありゃっ!?それは大変だ!」
ルートでも分かるような?例え話を耳打ちすると、漸くとんでもないことが起こったのだと認識できたようでキーパーに驚きに満ちた顔を見せる。
キーパーは『ワインと一緒にしないで下さい・・・』と心で涙しているが、こうでもしないとルートは理解できないのでしょうがない。
「オホンッ、とにかく!それだけ大事なものが盗まれたのです」
「ん~・・・・・」
気を取り直す様にひとつ咳払いをするキーパーの横でルートが急に唸りだした。
今度は何だと顔を覗き込むと、何やらウンウンと考え込んでいる様子。
「どうしたんだい?」
「・・・いや、何でそれを盗んだのかなぁ~って思ってさ・・・」
相当価値のある物なのは説明を聞いて分かった。
だがなぜ王剣を盗んだのか、その目的、理由がルートには分からない。
1万ものモンスターを使った大仕事だ、きっと何か大きな目的のために奪ったに違いない。
ルートはそう考え、ミレイク達の思惑を必死に読み解こうとしていた。