ミレイクが王剣デュランダルを盗んだ理由、それが全く分からない。
皆もミレイク方の考えが分からないのだろう、ルートに続くように考え始めるも直ぐに渋い顔になってしまっている。
再び沈黙が場を支配し始めたその時ロックが何か思いついたようでハッと顔を上げた。
「分かったッス!きっと王剣と引き換えに莫大な身代金を要求してくる気なンスよ!」
声高らかにそう熱弁するロックの顔は自信に満ち溢れている。
が、
「「「「「いや、それはない」」」」」
即座にルート、メアリー、エリアルド、キーパー、ナイチンゲールの5人が声を揃えて否定する。
「ええっ!?何でッスか?」
渾身の回答を一瞬で全否定されたロックは若干涙目になっている。
ロックの考えも可能性0とは言えないが、まぁまずないだろう。
身代金を要求するなら物よりも人の方が倫理観等からも多くの額を期待できるし、盾にすることで迂闊に手を出され辛くなる。
なにより、常に王城にある王剣よりは政務だったりで移動の多い王族等の方が襲う機会はたくさんあるだろう。
それを懇切丁寧に説明してあげるとロックは納得した様子を見せる。
気を取り直してもう一度目的を考えて見るが・・・如何せん情報が少なすぎる。
・・・王剣デュランダル・・・・・一万ものモンスターを使い兵力を街外に誘き出したとはいえ、それでも王都に潜入するのは相当なリスクがある筈、それでもそのリスクを背負うだけの特別な力でもあるのか?
「キーパーさん、デュランダルには何か特別な力でもあるんですか?」
聖剣カリバーンは勇者にしか扱えない強力な剣だと言われている。
それと比肩されるなら王剣デュランダルにも相応の力がある筈、もしかしたらミレイク達はそれを使おうとしているのかもしれない。
「いや~それが・・・実は我々もよく分かっていないのです・・・」
「・・・・・えぇ?」
「何せ建国してから実際に使われたという記録がありませんし、あくまで儀礼剣としてしか使用されないものですから・・・」
騎士団でも知らないのなら本当に何も力はないのか?
なら何故そんなものをミレイク達は奪ったんだ?
「あの~、デュランダルって絵本にも出てくる初代トレス王が建国前から使っていたというものですよね?」
ルートが頭を悩ませているとシンディがおずおずと手を上げてキーパーに質問する。
「はい、そう言われています」
「・・・それがどうかしたの?」
「えっと、確か私が読んだ絵本では『国を脅かす強大な魔物を精霊の力をもって討ち滅ぼした』・・・って書かれていたんです」
精霊の力・・・頭の中にツクヨミの姿が浮かぶ。
魔人と打ち合えるあの力、ひょっとして彼もまた精霊なのだろうか?ふとそんなことを考えてしまう。
「精霊の力、ですか・・・確かそんな力を持っているとか聞いたことがあるような・・・」
「〝四霊剣〟・・・」
この部屋にいる7人のうち誰の発言でもなかった。
今度は誰だと慣れた様子で全員が部屋の入り口に視線を向けると一人の男が立っていた。
やる気の無さそうな目とやや猫背ぎみな姿勢のその男は、その服装からキーパーと同じ騎士団の人間であることが分かる。
「火、風、水、土と4体の精霊の加護を受けたとされることから、史実では〝四霊剣〟とも呼ばれます・・・」
「アルクハイド!」
見た目通りやる気の無さそうな声でそう説明する騎士は名をアルクハイドというらしい。
どうも、と室内の面々に軽く一礼するとキーパーの元へと近付く。
「アイゼンハルト総長より報告を急ぐように、と伝言を預かってきましたよ」
「そうか、分かった・・・まったく、せっついてくれるなぁ・・・では皆さん、失礼します」
「あっ、はい。ありがとうございました」
キーパーはやれやれ、と溜め息を吐きながらもしっかり礼を済ませるとキビキビとした動きで部屋を去っていった。
きっとさっき言っていたように休みのない激務に追われているのだろう・・・。
何もしてあげられないが、がんばって!とその背に心ばかりのエールを送っておこう。
「・・・あの、アルクハイドさんは帰らなくていいんですか?」
キーパーが去った後もそのまま部屋に居残っているアルクハイドにルートが問いかける。
「はい、まだやることが残っていますので・・・」
そう言うと自分のポケットから一枚の封筒を取り出しルートに差し出した。
どうやら手紙のようだ。
「ウィリアムと名乗る方からこれをルートさんに渡すように、と・・・」
「師匠から?」
「・・・確かにお渡しました、では・・・」
そう言ってゆるっと礼をすると気だるそうに背を丸めたまま部屋を後にしていった。
するとナイチンゲールも『それじゃああたしもそろそろ行こうかね・・・安静にしときなよ』とヒラヒラと背中越しに手を振りながら出ていった。
それらを見送ったあと再び手元の手紙に目を落とす。
「あの、ウィリアムって誰ッスか?」
ロックの問いにシンディとエリアルドもそうそうと揃って頷く。
そう言えばメアリー以外は会ったこともなければ話題に出したこともなかったっけ。
「言ってなかったね、僕の師匠だよ」
どんな経緯でそんな関係になったのかはもう覚えていないが、剣術、投擲術等の戦闘における訓練から、気配の殺し方に捉え方と暗殺や潜入に使える訓練、嘘を見抜いたりと人の心情を読み解く為に観察力や洞察力を鍛える訓練等、あなたは一体何を育て上げたいんだ?というような修行ばかりをさせられた。
お蔭で冒険者としてはそれなりの評価を得ることが出来ている。
そこは素直に感謝している。
・・・ただ、それだけ色々教えてくれたのに、一般的な教養はこれっぽっちも教えてくれなかったことに対しては、不満をぶちまけるとまではいかないが、周囲から白い目で見られることが多々あるということを知ってほしいとは思う。
「手紙なんてどうしたんだろうねぇ」
メアリーが首を傾げて不思議がっているが、そこはルートも同感である。
そもそもウィリアムはやることがあるからと先にトレス王国に向かったのだが、この王都に到着してからまだ出会っていない。
急がなくてもそのうち出会うだろうと特に探すこともしていなかったが、冒険者ギルドでも姿を見なかったし魔人襲来の折も現れなかった。
メアリーが言うには街の外での戦闘でもそれらしき姿は確認できなかったとのこと。
まぁ昔からいい加減なところがあった人だし、ひょっとしたらとっくに国を出たのかもしれない。
先にアール王国に帰ったのか、それとも気ままな旅に出たのか、それとも・・・・・いや、考えるだけ無駄だな。
昔から師匠の考えてることだけは全然読めなかったからな・・・。
まぁそれもこの手紙を読めば分かるだろう。
「・・・じゃあ開けるね」