快晴。
青い空に白い雲、降り注ぐ太陽の光を体いっぱいに浴びていると一昨日の騒動が夢だったのではないかと錯覚してしまう。
魔人と戦ってから2日、その傷跡は人も街も未だ癒えず生々しく残っていた。
ルートは外傷こそ殆ど完治していたものの、疲労と魔力切れから体を満足に動かせずにいたため、昨日丸一日かけて回復に努め、今朝やっと看護長であるナイチンゲールの許可を得て退院できた。
昨日は体を治すためベッドの上にて食って寝てを繰り返していたので陽の光がえらく懐かしく感じる。
「調子は戻ったかい?」
「うん、大分」
軽くストレッチをしながら体の具合を確かめる。
万全とまではいかないが、それでもゴブリンの10匹や20匹くらいなら余裕で倒せるレベルには戻っている。
もう2、3日も普通に生活していれば完全に回復するだろう。
「凄い戦いだったんだねぇ・・・」
メアリーが見つめる先はルートとミレイクが戦った場所。
抉れた地面や倒壊した建物が戦闘の凄絶さを物語っている。
しかし、何より目を引くのはミレイクによって作られた巨大な氷の壁である。
あれから2日は経とうというのに未だその壁は山のように聳え立ち辺りを凍てつかせている。
太陽の熱では殆ど溶けず、また硬度もそれなりにあるので復旧作業は時間がかかりそうだ。
見れば魔法使いが炎で、その他はハンマーやツルハシで地道に削っていっている。
昨日はメアリー達もあの作業を依頼として受けていたそうで大変さは身に染みているそうだ。
嫌なことを思い出し苦い顔をしながらも歩を進めていくと前方でロックが手を振っているのが見える。
「やぁロック・・・ずいぶん買ったんだね・・・」
ロックの足元には何かの部品のような金属が大量に入った紙袋が3つほど置かれている。
「いや~、殆ど譲ってもらったガラクタとかなんでお金はかかってないンスけどね~」
それにしても貰い過ぎちゃったッス~、とポリポリ頭を掻きながら1人反省をしているロック。
なんでもこれを使って新しい魔導具の研究をするらしい。
未だ未熟なうちはこういったガラクタを使って練習を繰り返すと自分で決めているのだとか。
そうこうしていると横の道からシンディとエリアルドがこれまた大量の紙袋を抱えてやって来た。
中身は果物や野菜などの食料品で、日持ちのしない肉などは基本干した物を買っている。
生の肉は野生の動物やモンスターを現地調達すればいいので、干し肉はあくまで保存食として確保している。
買い出しも終わり旅の準備も済んだのでいよいよこの王都ともお別れだ。
「んじゃ、いよいよアール王国に向けて出発だな」
これから僕たちはアール王国に帰る。
シンディは始めてだがエリアルドは依頼で何度か訪れたことがあるらしい。
「しっかし、お前の師匠とやらの手紙にはビビったぜ・・・」
街を出るため大通りを歩いているとエリアルドがそう溢す。
僕らがアール王国へ帰る原因にもなったあの手紙だ。
◇◇◇◇◇
──騒動のあった夜──
封筒の端を指で千切り中を覗くと1枚の紙がふたつ折りで入っている。
さっそく開いてみるとそこには、真っ白な紙の真ん中に黒い字で一筆、
『先に帰るわ。』
そう一言だけ書いてあった。
「・・・いや
エリアルドの叫びが建物中に響き渡った。
「なんでかっつー理由も書いてねぇし、これならわざわざ手紙にする必要ねぇだろ!・・・・・ん?何だよ・・・」
「・・・これが師匠なんだ・・・」
興奮するエリアルドの肩に手を乗せ、悟りを開いたかような優しい目でそう告げる。
その横でメアリーもウンウンと目を瞑って頷いているのはウィリアムとやらの性格を知っているからなのだろう。
特別な理由なんかなく、ただ帰りたくなったから帰る。
一応その旨は伝えておいた方がいいだろうな。
よし、ならば手紙だ!と思い立ちそのまま筆をとった。
ルートによると昔からそういう単純な考えで行動するらしく、修行時代にはそれが原因でよく苦労させられたとか。
◇◇◇◇◇
「そんな師匠のところにわざわざ修行しに戻るなんてな・・・」
「中身は〝アレ〟だけど腕は確かだから」
それに、ツクヨミのことも師匠〝達〟なら何か分かるかもしれないし・・・。
「またミレイクみたいなのと戦うことになった時の為にも力はつけておいた方がいいでしょ?」
「そりゃもちろんそうだけどよぉ・・・」
僕等の口から師匠の情報を聞く限りあまり信用できていない様子だ。
まぁ情報といっても『ここが凄い!』というところが中々浮かんでこず、後半は『~が好き、嫌い』というどっちかっていうとプロフィール紹介みたいになってしまっていたのでしょうがないとは思うが。
・・・そういえば、皆には僕みたいに師匠がいるのかな?いるなら師匠像というものを是非とも知っておきたい。
「ねぇ、エリアルド達には師匠っているの?」
そう問うと、シンディとロックは即答でいると、エリアルドは首を横に振っていないと答えた。
しかし、メアリーだけはすぐには答えず、『う~ん・・・』と一人頭を悩ませている。
そんなに答え辛い質問ではないと思ったんだけど・・・。
「どうしたの?メアリー・・・」
「ん~・・・いや、あの人を師匠としてカウントしていいものかと・・・」
あの人、とは恐らくメアリーの祖母、ブラッドリアさんのことだろう。
高齢になった今でも視線だけで人を殺せるんじゃないかという凶悪な覇気と目付きをしており、『怖いから』とよく師匠は気配を感じただけで逃げていた。
「ちっちゃい頃にばあちゃんの後ろについてってるうちにいつの間にか銃の使い方を覚えてたって感じだからねぇ・・・」
「小さい子にそんな危ないこと教えんなよ・・・てか連れ歩くなよ・・・」
「分かるよメアリー・・・」
「──分かんの!?」
教えられなくてもいつの間にか見て覚えちゃうものなんだよね、ああいうのって。
「ん~、まぁ一応アドバイスとかも貰ってたし師匠ってことになんのかね?」
・・・僕も一緒に戦ったことあるけど・・・アドバイスってあれかな?ただの恫喝ともとれるあの暴言のことかな?
・・・まぁメアリーがいいならそれでいいか。