Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第88話 氷の女の氷の土産

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 鉄板の上にも皿の上にももう食材は残っていない。

 山のように用意された串焼きだったが、育ち盛り、それも沢山働いた後の子供達にかかれば決して食べきれない量ではなかった。

 鉄板の火は消され辺りが更に暗くなる。

 周りに建物が全くないため、まるでこの孤児院だけ隔離されているかのように感じてしまう。

 いや、少し遠くにブルムの町の明かりがチラッとだけだが見える分、そこまで閉塞的な気持ちにはならない。

 

 賑やかだった雰囲気も落ち着けを見せ、涼やかな風が食後の火照った体を冷ましてくれる。

 久々に楽しい食事だった。

 心も腹も満たされた今となっては最早ミレイクへの怒りもほとんど感じなくなっていた。

 

「ん、クレス兄これ・・・」

 

 一人夜風を浴びていたクレスにクエンが近付き、手に持っていた物を顔の前に突き出す。

 

「ん?何だこれ?」

「ん、アイスキャンディー・・・」

 

 ひんやりとした冷気を放つそれは、今子供に人気の氷菓である。

 水色をしてるのはソーダ味だろうか?

 

「ありがとう・・・うん、うまい」

 

 シャクっとした小気味好い音と共に清涼感が全身を駆け抜ける。

 ガッツリと肉を食べた後だからか、こういうさっぱりとした物を食べると口中がすっきりする。

 

「ふぅ、うまかった・・・なぁ、これお前らが作ったのか?」

 

 少なくとも自分がブルムの町を通った時にはこんな物は売ってなかった。

 誰もマジックバッグを持っていないことから他所の町で買ったとも考えにくい。

 となればあとは自作か貰い物の2択に絞られるわけだが、ただでさえ人の往来が少ないこの田舎町に食べ物を渡しに来る奴なんて滅多にいない筈・・・自分以外。

 それもアイスキャンディーなんて特殊な物を普通の人はチョイスしない。

 つまり、この場でアイスキャンディーを食すには自分達で作るしか方法はないというわけだ。

 

「んん、貰ったの・・・」

 

 クレスの推理はあっさりと否定された。

 ということはわざわざここまで足を運んだということか?

 貰ったという以上屋台なんかで買ったわけじゃないだろうし・・・あと可能性があるとしたら町の誰かがお土産として買ってきたくらいか・・・。

 そうなると溶けないようにマジックバッグが必要になるのだが、彼等がそんな高価な物を持っているとは正直思えない。

 

「誰に貰ったんだ?」

「ん、クライシスさん・・・」

「───ッ!」

 

 白銀の長髪、氷のように冷たい眼、ピクリとも動かない鉄仮面、通称〝氷の心を持つ女〟と、一瞬で脳内に人物像が浮かぶ。

 せっかく収まっていたイライラが再度噴出しそうになるのをギリギリで抑え込む。

 クエンを怖がらせまいと顔に出さないよう努力するが、クエンの表情を見る限りバレバレなのだろう、やれやれといった顔をしている。

 

「ん、クライシスさんのこと嫌い?」

「・・・嫌いじゃねぇ、うぜぇだけだ」

 

 子供達が懐くのは分かるし別に悪い奴ではないのだが、クレスは個人的にクライシスのある行動に辟易していた。

 それは騎士団への勧誘である。

 トレス王国に5人しかいない騎士団長の一人であるクライシスには自身が率いる騎士団があり、そこへクレスを入団させようと日々勧誘をかけてくるのだ。

 当然クレスは断っている。

 もし騎士になってしまえば切り裂きジャックを自由に追うことが出来なくなってしまうからだ。

 気儘に孤児院に帰ることも出来なくなるし、何より国に縛られることになる。

 他国に切り裂きジャックが出たと分かっても上の許可が降りなければ向かうことも出来ない。

 ムカつく奴がいても自由にぶん殴ることも許されない。

 正直向いている向いていない以前にクレスにはデメリットしかないのだ。

 

「あの女、さては外堀から埋めてく気かぁ?」

 

 国内外問わず各地を旅するクレスは、そう頻繁にクライシスに会う訳ではない。

 だが、クライシス率いる地の騎士団(ケレス)はトレス王国東方の守護を任されているので、立ち寄ろうと思えばいくらでもこの孤児院に立ち寄れる。

 その度に何かお土産を持ってくるので子供達はもちろんナタリーまでクライシスには好意しか寄せていない。

 あんな怖い顔の女のどこがそんなにいいのか・・・。

 切り裂きジャックへの復讐に反対しつつも冒険者になったことを応援してくれたナタリーだが、このままでは騎士になりなさいと言い出す日も近いかもしれない。

 その前に何とかクライシスの気を変えさせなければなるまい。

 会っても会わなくても勧誘されるこの蟻地獄を抜け出す!そのためには・・・やはりクライシス本人と話し合う必要があるだろう。

 ・・・・・イヤだなぁ、会いたくないからこそ会わなければならないとは・・・。

 あの女はきっとこうなることを分かっていた。

 クレスが自分から会いに来るための布石として度々孤児院に訪れていたに違いない。

 皆が片付けを終え孤児院に戻っていく背中をクレスは沈んだ目で見つめていた。

 そのままボーッとしていると、何者かが横からクレスの肩を叩いた。

 

「何してんだよクレス兄、早く戻って始めようぜ!」

 

 そこには暗い裏庭でも輝いて見えるほどの屈託のない笑みを浮かべるオーリーがいた。

 オーリーはクレスの腕を掴み、そのまま孤児院内へと引っ張っていく。

 

「お、おい!始めるって何をだ?」

「お?そんなのお土産披露に決まってるじゃねぇか!なんたって昼は個人への振り分けだけで中身を見れてなかったからなぁ~・・・」

 

 そうだった、確かご飯前にそんな話をしていた気がする。

 クライシスのせいですっかり忘れていた。

 中に入ってみれば子供達も大量の食材の調理に追われてお預けを食らっていたからかやや悶々としている。

 別に明日にしてもいいと思ったのだが、オーリーやアルマが『気になって眠れなくなっちゃう!』と騒いだので寝る前の時間に開封式を設けることになった。

 

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