「・・・ペーター、次お願いします」
「分かってるよシスター」
これは長くなると悟ったナタリーは早々にペーターに開封を促す。
クレスの隣に座るオーリーから始まり、次にエッセルと時計回りに進んでいるのでこの流れならペーターの番になる。
ペーターもそれを理解しているので既に開封を始めていた。
中から出てきたのは本、本、本。
オーリー達と同じように衣類も多少あったが、それが霞むほどの大量な本がペーターへのお土産だった。
「俺には理解できそうもない小難しそうなのを片っ端から買ってきたんだ」
勉強をするのが好きなペーターのため、クレスは数学、物理学、生物学、地理、歴史等ジャンルを問わず様々な本を買ってきた。
勉強嫌いのオーリーとアルマは『うげぇ・・・』と嫌な顔をしているが、二人と打って変わってペーターは喜色満面といった様子を見せている。
「あぁ・・・クレス兄ありがとう!やっぱり僕には運動より
昼間町までお裾分けに行かされたのが相当辛かったのか、ペーターのセリフには何とも言えない熱が籠っている。
思えば運動が苦手で本を読むのが好きだったペーターへのお土産は昔から本ばかりだった。
最初は絵本や図鑑といった子供らしい本から始まったのだが、年を重ねていくにつれ読んでいく本の内容が段々難解なものへと変わっていき、今では人類の祖先や動物と魔物の違いといったテーマを独自で研究するにまで至ってしまった。
「どれから読んでやろうか~、これか?いやこれか?いやいや・・・ん?ちょっとクレス兄、新聞が挟まってるよ」
どの本を最初に読もうかと吟味していると、積まれている本と本の間に新聞が一冊紛れ込んでいた。
どうやら買い物中片手間に読んでいたところお土産と一緒に袋に入れてしまっていたらしい。
オーリーが『新聞を読んでるなんて大人だぁ~!』と尊敬の眼差しで見つめてくるが、別に政治やスキャンダルに興味があるわけでも毎日の習慣になっているわけでもない。
ただいつどこで〝切り裂きジャック〟の情報が出てくるか分からないため気付いたときにチェックしているだけだ。
「すまんすまん、目当ての情報が載ってなかったからとっくに捨てたと思ったんだが」
「まったくもう、ゴミはちゃんとゴミ箱に捨ててよね、オーリーじゃないんだから・・・・・あぁ、また貴族の事故死だって・・・やっぱりゴーストの仕業なのかな?」
本の間から新聞を抜き取り記事を読んだペーターが聞きなれない言葉を呟く。
「何だゴーストって?」
「都市伝説だよ。この国で昔からある話でね?ある日昨日まで元気だった人が急に死んじゃうんだ。事故、病気、自殺、通り魔、死に方は様々なんだけどね?」
「そんなの死んだ人全員に言える話じゃねぇか」
老衰以外で死ぬ人なんて沢山いる。
事故で死ぬ人も病気で死ぬ人も何ら珍しくない。
一体それとゴーストがどう結び付くというのだろうか。
「何も死んだ人全員がゴーストに殺られたっていうんじゃないよ。ゴーストに殺られたと思われる人には共通点があるのさ」
「共通点?」
何だろう、ゴーストっていうくらいだから呪いの壺か何かを持っていたとかだろうか?
それとも先祖が悪いことをしたせいで子孫である人間が報復でもされているとか?
・・・ダメだ、ゴーストという言葉のせいで思考が全部悪霊とかの方へ流れてしまう。
「ゴーストに殺られた人達は皆、人には言えないような事を裏でやってたらしいんだよ」
「人に言えないようなことって何だ?」
「さぁ?そこまでは・・・調べたら強盗団のメンバーだったとか、下着泥棒の常習犯だったとか、他国のスパイだったとか、結婚詐欺師だったとか、色々噂はあるけどね」
「何だよ、くっだらねぇ・・・」
てっきり国家転覆を狙っていたとか実は魔人だったとかそういうのを期待していたのだが・・・ショボすぎる。
下着泥棒した程度で殺されるなら道という道にチンピラの死体がゴロゴロ転がっているだろう。
「まぁあくまで都市伝説だからね・・・」
ゴーストっていうからもっと怪奇的なものを想像していたのにひどく裏切られた気分だ。
「ほっ、ほら!もう夜も遅いんだしちゃっちゃといきましょう!ね!?」
肩透かしを食らいがっかりしているとテイラーが突然立ち上がり手を叩きながら先を促し始めた。
「いきなりどうした?」
「何がよ!?私はどうもしないわ!いつも通りよ!」
いつも通りではないのはこの場の誰が見ても明らかである。
空元気というかなんというか、大きな声を出すことで己を鼓舞しているように見える。
目は放流された稚魚のように泳ぎまくり、額から滝のようにダラダラと汗が流れているその様ははっきりと言って異様だ。
クレスが何が何だか分からないという顔を浮かべている横でオーリーはピンときたようで、同じ様に立ち上がり目線を合わせるとテイラーをビシッと指差して言い放った。
「分かったぜテイラー姉、さては怖いんだろ!」
「ななな、何を言ってるのよオーリー!?ぜっ、全然そんなことないんだからね!?」
どうやら図星のようだ。
必死に否定しようとしているがもう目が泳ぎすぎてどこかへ飛んでいってしまいそうになっている。
「何が怖ぇんだ・・・そのゴーストってのは悪い奴しか殺さねぇんだろ?」
この孤児院の子供達はヤンチャはしても他人様に迷惑はかけたりしない。
自分ならいざ知らず誰かに恨みを買うような子達ではないと断言できる。
それなのに何をそんなに怯える必要があるのか・・・。
ま、まさかテイラーには思い当たるような節があるとでも言うのだろうか!?
「多分原因はアンダーソン司祭でしょうね・・・」
「じっちゃんが?」
「はい、やんちゃな子への躾の為によく話してましたから・・・」
つまり悪いことすればゴーストが来るぞ~、それが嫌なら良い子にしてろ~・・・と脅しに使っていたわけだ。大人げない。
「まぁあの子が人一倍怖がりというのもあるんですけどね」
堪らずナタリーが苦笑する。
年長者でしっかり者のテイラーだがまだまだ子供っぽいところが見れて可笑しかったのだろう。
お姉さんぶってはいるがまだ12才、久々に年相応の女の子らしい顔が見れた気がする。
「そういや、俺もじっちゃんにはよく叱られたっけなぁ・・・」
「フフッ、今年も忘れずにちゃんと帰ってこれましたね?」
「明日だったよな?命日」
アンダーソン司祭は2年前までこの孤児院を運営していた老人で、ナタリーとクレスを育ててくれた恩人だ。
厳しくも優しい性格のおじいさんで、クレスは今のオーリーのようによく叱られていた記憶がある。
そのアンダーソン司祭が亡くなってもう2年、明日の命日のためにクレスは今回この孤児院に帰ってきたのだった。