「コホンッ!・・・それじゃあアルマ、次お願い・・・」
「はーいっ!」
わざとらしく大きな咳払いをしたテイラーの頬は仄かに赤く染まっている。
普段ナタリーに次ぐお姉さんとして振る舞っているからこそ、先程の狼狽っぷりは顔から湯気が出るほど恥ずかしかったのだろう。
因みに真っ先にテイラーをからかったオーリーは、冒険者として覚醒したのではないかというレベルのテイラーによる鉄拳を頭上に振り下ろされ見事床の染みとなった。
「さぁ~てぇ~?ボクのお土産はどんなのかなぁ~?」
オーリー、エッセル、ペーターと良い感じの流れで来ていることでアルマの期待値は高まっていた。
誰のお土産も当人にとってはどストライクなものであり、内容は今までよりグレードアップしている。
オーリーとエッセルは大人用の剣、ペーターは何かよく分からない難しい本を貰った。
その後の歓喜している3人の様子を隣で見せつけられれば否が応にも期待してしまうのは仕方がないことだろう。
ウキウキしながら包みを開けると、そこにはペーターと同じ様に沢山の本が入っていた。
ペーターのものとは毛色が違うが、どれも勉強するための本であることには違いない。
パラッと捲れば美味しそうな料理の絵と、その料理を作るための材料と手順が事細かに記載されている。
これはレシピ本。数式でも歴史を覚えるでもなく料理を学ぶための本である。
「これは小人族のムスペリアン、こっちは獣人族のカリー・・・わぁ~サザン料理のレシピまである!」
他種族の国とも比較的友好な国交を結んでいるトレス王国には様々な他国の文化が流れてくる。
その中でも最も広く、老若男女問わず普及しているものと言えばやはり料理だろう。
「食べたことないけどどれも美味しそうだよ~!!」
犬であれば尻尾をブンブンと振っているであろう喜び悶える姿のアルマを見てクレスは思う。
自分は普段当たり前のように食べていた物もこの子達は見たことすらないのだ。
衰退の一途を辿る町で新たに商売を始めようという物好きなどいるわけもなく、ブルムの町にある料理店は10年以上前から存在する数件のみ。
辺りにそんな町しかないようなこの孤児院にいては他国のお洒落な料理など無縁も無縁。
将来料理人を目指しているアルマだが、食べたこともない料理など作れる筈もない。
「よし!アルマ、今度勉強のために王都で色々食わせてやるよ」
「ほんと!?絶対だよ!!?」
既に想像したのだろう、目は輝き口の端からは涎がダラダラと溢れてしまっている。
「あ~!アルマだけずるいぞ~!」
「オーリー、お前は冒険者志望だから関係ないだろ?それにお前とエッセルには稽古つけてやってるじゃねぇか」
「それはそれ、これはこれだ!」
要は『美味いモンは俺達にも食わせろ』ってことらしい。
周りを見ればエッセルにペーター、クエンまでもが首を縦に振って賛成の意を示している。
「分かった分かった、それじゃあ今度皆で行こう」
「・・・ブー、ボクへのお土産なのに~・・・」
自分だけの楽しく美味しい料理勉強会の筈が皆でのお食事会になってしまったことに不満げなアルマは、頬を膨らませつつも残りの袋も開封していく。
レシピ本の他には今までの流れでも分かるように衣類が入っていた。
女の子の服ということで赤やピンクなど色合いはとても華やかである。
しかし、年頃の女の子が着るにしては何と言うかこう、実用的なフォルムな気がする。
トップスは基本Tシャツのみで下はパンツスタイルが多く、どちらかというと男の子が着るようなデザインのものばかりだ。
「ちょっとクレス兄!何でスカートとかワンピースとか女の子らしい服がないのよ!」
「エェッ!?いや、アルマはいつもこういう服を着てたイメージがあったから・・・」
「アルマはもう8才よ!おしゃれだってしたい年頃なの!」
そう言われて思わずハッとしてしまった。
今でもクレス兄などと言って慕ってくれているが、この子達もいつまでも子供じゃない。
オーリーとエッセルは冒険者に、ペーターは学者に、クエンは画家に、そしてアルマは料理人になるという立派な夢をもって日々を過ごしている。
孤児院を留守にしてばかりのクレスはそんな皆の成長に気付かないでしまっていたようだ。
「すまんアルマ!今度はもっと可愛らしいのを買ってくるように気を付ける!」
「え?何が?」
必死に謝るクレスに対しキョトンとするアルマ。
どうやら今までの二人のやりとりを聞いていなかったようで、クレスが何で謝っているのか分かっていないらしい。
隣に座っていたクエンが話の内容を耳打ちすると、アハハッと笑い出した。
「別にいいよぉ~、実際こういう服しか着ないし。誰に見せるでもないのに気合い入れたってしょうがないでしょ?」
「あぅ・・・アルマがそう言うんなら別にいいんだけど・・・」
8才になってもアルマはアルマだった。
元気いっぱいでいつも明るく、顔も十分美少女と呼べるクラスの彼女ではあるが、おしゃれに関してはオーリーと同じクラスというのが非常に残念であると言える。
素材としては悪くないのでワンピースやヒラヒラのスカートもよく似合うと思うのだが、本人は柄じゃないと着ようとはしないのだ。
「ボクへのお土産はこんなもんかなぁ~?」
「ん、まだそこに一つ残ってる・・・」
開け忘れがないか今一度箱を確認していくアルマの肩を叩き指を指すクエン。
そこには他の空き箱に埋もれている未開封の小さな箱があった。
「おっ、何だろう・・・大きさからして服や本じゃないよね?」
「ん、ひょっとしてアクセサリーかも・・・」
「えぇっ、それこそ柄じゃないよ~・・・」
箱の形状は細長い長方型で、確かにパッと見はネックレス等が入っているケースに見える。
だがそれにしては少し重たいような気がしてならない。
「まぁ開けてみろ。きっと喜ぶと思うぜ」
世の女性はこんな重たい物を身に付けて生活しているのか。おしゃれ恐るべし!なんて思っていると、クレスが軽く笑いながら開封を促してきた。
取り敢えず包装紙を剥がすと飾り気の一切ない木の箱が現れた。
少なくともネックレスが入っているような外観ではない。
「開けるよぉ・・・うわっ!!」
思わず声を出して固まってしまった。
箱の中に入っていたのは・・・包丁だった。
刃渡りは18センチ程だろうか、全身ステンレス製でその刀身に驚くアルマの姿を映し出している。
「前に欲しがってたろ?お前専用の包丁だ」
「・・・いいの?」
「勿論。ちゃんとナタリーの許可はとってるから心配すんな」
「ありがとぉ~!!」
前回帰省した際、アルマは自分専用の包丁を欲しがっていた。
その日子供達が寝静まった後ナタリーにその事を伝えると、ナタリーも近々購入しよう思っていたらしくあっさり許可を貰えたので今回買ってきたという訳だ。
ナタリーに釘を刺されて高級な物は買えなかったが、その中でも扱いやすく切れ味の良い物を店員に選んでもらった。
「手入れは怠るなよ?」
「勿論!」
えへへ・・・と嬉しそうに包丁の入った箱を胸に抱えて笑う彼女の姿を見るとこっちまで嬉しくなってくる。
アルマはやっぱり笑顔の似合う子だ。