Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第92話 お土産披露④

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「ん、じゃあ次は私・・・」

 

 包丁の入った箱を抱えて幸せそうに笑うアルマを見て待ちきれなくなったのか、クエンはワクワクしながら自分へのお土産を開け始めた。

 クエンへのお土産は他の子達より大きい箱が多い。

 当然その分注目度も高まってしまう訳で、クエンは周りの期待に応える気持ち半分、早く中身を見たいという自分の気持ちも半分で一番大きな箱を一つ目に選んだ。

 

 出てきたのは大きな板。

 裏を見れば角材のようなものが外周を覆うように固定されている。

 箱の中からは取っ手のないお盆のようなそれがいくつか出てきた。

 形状はどれも同じだが、大きさは全く違う。

 

「あぁ?これがお土産?ただの板じゃん・・・板割りでもすんのか?」

 

 オーリーはそう言って質感を確かめるように板を軽くノックするように叩くと、拳をシュッシュ!と突き出しながらステップを踏みだした。

 何度か空で拳を振るう度にコツンッと一発板に当てていく。

 これがなかなか楽しいようで、テイラーやナタリーのやんわりとした制止の声も聞こえないくらい夢中になってやっている。

 このままではまずいと一応クレスも声を掛けるのだがやはりオーリーには届かない。

 チラッとクエンの表情を覗き見れば目が笑っていない。

 顔から感情という感情が消え去り、輝きを失ったその目は真っ直ぐオーリーを捉えている。

 手遅れ・・・オーリーとクエンを除くその場の誰もがそう思った。

 

「これ結構いいなぁ~・・・なぁクレス兄!これ俺にも買ってくrェブァッ!?」

 

 クルッとクレスの方を向いたオーリーがガツンッ!という音と共に突然倒れた。いや倒された。

 後頭部に大きなたんこぶを作っているのを見るに背後から何かで殴られたのだろう。

 そして殴った犯人は・・・当然、自身のお土産で遊ばれたクエンだ。

 

「ん、これは訓練用の的じゃない・・・」

 

 手に持っているのは的にされていた物よりは幾分か小さい板。

 それを両手でがっしりと掴んでいる。

 恐らくあれを使って叩くなりしたのだろうが、音から察するに物凄い力で振り抜いたとしか考えられない。

 怒っているのだろうがいつもと声のトーンが変わらないその様にどこか狂気を感じてしまう。

 

「ん、大丈夫みたい・・・」

 

 持っている板の角辺りを擦って無事を確かめている。

 どうやら面ではなく角を使って殴ったようだ。

 たとえ女の子の力といえどあの質量の物で頭を殴られるのは堪ったもんじゃない。

 死にはしないだろうが走馬灯くらいは見えるかもしれない。

 オーリーの頭から出血は見られないので大丈夫だとは思うが、すっかりのびてしまって動かなくなってしまった。

 だがクエンは何食わぬ顔でお土産の開封を再開していく。

 淡々としたその姿に皆はまた狂気を感じてしまう。

 

「ん、やっぱり皆絵の道具・・・」

 

 皆が何も言えないでいる間にもクエンは黙々と開封を続け、気付けばクエンの前には紙や布、絵の具や筆などの道具が並べられていた。

 特に絵の具は物凄い種類があり、中には隣の色とどう違うのか分からないような物まである。

 

「ん、イーゼルまで揃えてあるということは・・・セットで買ったの?」

「ん?・・・あ、あぁ・・・何を買えば良いのか分からなかったからな、店員に一式下さいって頼んだんだ」

 

 突然話しかけられて少し固まってしまったが何とか自然に返す。

 正直イーゼルというのがどれを指すのか全く分からないが、まぁなんにせよいつも通りのクエンに戻ってくれたようで安心した。

 オーリーは相変わらずのびたままだが誰もそこにはツッコまない。

 

「画家を目指すんだったらそろそろ本格的な道具を使わないとな」

 

 クエンの将来の夢は画家だ。

 子供の頃から絵を描くのが好きで、よく教会の壁に絵を描いてはアンダーソン司祭に叱られていた。

 しかし、絵の出来自体は大したものだったのでよく褒められもしていた。

 そう言えばクエンに画家になるのを勧めたのはアンダーソン司祭で、少ない貯金を叩いて筆や紙などを買い与えていた記憶がある。

 きっと昔からクエンの絵の才能に気付いていたのだろう。

 

「頑張れよ・・・・・まぁお前の描いたやつより良い絵なんて俺は見たことねぇけどな」

「ん、それは褒めすぎ・・・でもありがとう・・・」

 

 頬を軽く紅に染めて笑みを溢すクエン。

 普段表情が薄い彼女だからこそ、今本当に喜んでくれているのが分かる。

 

 絵の道具を一旦閉まった後、残りの袋から出てきたのは勿論衣類だ。

 クエンは来ていく場ややることによって2種類に着る服を分ける。

 絵を描いたり室内にいる時は動きやすいラフな格好を。

 町に出掛けたりする時は年頃の女の子が着るような可愛らしい格好を。

 ちなみに今は黒いTシャツに黒い短パンを着ている。

 室内用の服は割と直ぐに入手できたが問題は外行きの服だ。

 女の子が気に入るようなおしゃれな服などクレスには分からない。

 年中白い修道服を身に纏っているもんだから自分で服を選んだ記憶もここ数年はない。

 それでも何とか子供達に似合うかわいい服を買ってやろうと意気込んで店に入るも一瞬で心が折れた。

 多過ぎたのだ、種類が。

 先程までエッセルやペーターの服を買っていた店とは偉い違いだった。

 この中から自力で彼女達に似合う服を選ぶのは無理だと判断したクレスは直ぐ様店員を呼び、子供達の特徴や大まかな好みを伝えてプロによる選択を頼んだ。

 正直、選ばれた物をよく確認はしていない。

 どうせしても無駄だと思ったからだ。

 なのでクレス自身もどういった服が入っているのかは分かっていない。

 

「ん、これは・・・・・」

 

 服を一着手に取り暫し黙ったかと思うと他の袋からも次々に服を取り出し始めた。

 黙々と服を取り出し続ける姿は少し怖い。

 ひょっとして好みのタイプではなかったのだろうか。

 パッと見はかわいいと思うしクエンが着てもよく似合うと思うのだが、やはりそれは当人にしか分からない何かがあるのだろう。

 眉間に皺を寄せていることから気に入ってないことは何となく分かる。

 

「んん、これも・・・これも・・・ねぇクレス兄・・・」

「す、すまん・・・好みじゃなかったか?」

「んん、どれもかわいいし私が好きなのばっかりだよ・・・」

 

 好みは外していないらしいがやはり気に入っていない様子。

 もうどこに駄目な要素があったのか全く分からないぞ。

 

「───でも・・・これ、クレス兄が選んだ服じゃないでしょ?」

「──え?・・・あっあぁ、俺じゃ変なの買っちまうかもしれないと思って店員に選んでもらったんだ」

 

 それを聞いてクエンは『やっぱり・・・』と呟き頬をプクゥゥゥと膨らませた。

 

「・・・例え変でも、私はクレス兄に選んでほしかった・・・」

 

 あぁ成る程、とクレスは悟った。

 子供達はお土産を〝買って貰った〟ことに喜んでいたんじゃない。

 〝クレスに選んで貰った〟ことに対して喜んでいたのだ。

 周りを見渡すとクエンの思いに共感しているのだろう、子供達がうんうんと首を縦に振っている。

 

「・・・すまん!次からはちゃんと自分で選ぶようにする!」

「・・・ん、なら今回は許してあげる・・・」

 

 貰う側の気持ち、それを今回はしっかりと考慮出来ていなかった。

 大事なことをまたひとつ子供達から学ばせてもらった。

 

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